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16.「私の運命の人は」

 生まれてこの方、自分は『人間』だと思っていた。だがそれがどうやら違うという。混乱が収まってみると、しかし、やはり自分に獣人の血が混じっているとは到底思えなかった。


 レオニスは私が指輪をつけているからだという。


「その指輪は君の獣性をおさえているはずだよ。もう少しして落ち着いてから外したら、また変わるかもしれない。もちろん、今はまだつけておきなさい」

「そうですね……」


 指輪を外す勇気はまだ出そうにない。


「知り合いのユキヒョウ獣人にも紹介できるよ。もし必要だったら」

「……はい、いずれ、また」

「ああ、君が必要な時にね」


 メルクリールの歯切れが悪い返事にも、レオニスは穏やかな表情のままだった。


 レオニスは親切だと思う。

 そしてレオニスとの関係は表向きは、何も変わっていない。主人と側仕えのままだ。だが彼は相変わらず夜会に行かずに、メルクリールと時間を過ごすことを好む。

 夜に、メルクリールがハーブティーを運ぶと、ソファの隣に座るように懇願してくる。根負けして座ると、レオニスからの薔薇の香りが濃くなり、彼の機嫌も最高に良い。


「君と過ごせて、とても幸せだな」


 などと、億面もなく伝えてくるものだから、メルクリールは平静を装うのに必死だった。


(ど、どうしたら……!)


 それとなくベルナールに相談しても「あ、夜会に行かなくなったお影でレオニス様の仕事がめちゃくちゃはかどってるので、このままいきましょう」と言われてしまう始末。


 一番困っているのは、レオニスからそうやって好意を向けられてもまったく嫌ではない自分自身の気持ちだ。


(でも、でも――伝えたらいけないわ。レオニス様と私じゃ、身分が違いすぎるもの)


 そうしてメルクリールは自分の感情に蓋をすることに決めた。指輪つきのネックレスを外さないのも、実はそこに理由があった。今でもレオニスは、どうやらメルクリールの香りを感じているようだが、指輪を身につけなくなったらどうなるか分からない。


(それに獣人としての本能が芽生えちゃって、レオニス様に気持ちをぶつけたりしたら、いけないもの)


 そう決心した。


 そんなある日。

 バーナードが新人の使用人を連れて入ってきた。その顔を見て、メルクリールはあんぐりと口を開き、レオニスが遠慮なく顔をしかめた。


「彼は?」


 レオニスに水を向けられ、バーナードがしたり顔で口を開く。

 

「ザイード・クラインです。クライン伯爵家の三男ですが、メルクリールと同じ養護院で育ったそうです。執事見習いを希望してきたので、面接の末、雇うことにしました。なかなか見込みがありますので、まずは従者として育ててみたいと思いますが――ということで、レオニス様にご承知いただけますでしょうか?」

「よろしくお願い致します」


 すました顔をしてあいさつをしたのは、他でもないザイードだった。


(え、え、え、本当にザイード!?)


「へえ、おもしろい。敵が自らやってきたってわけだ」


 執務机で両手を組みながらレオニスがひとりごちた。


「もたもたしているうちに、かっさらわれるわけにはいきませんので」


 ザイードが応じている。


(敵……? かっさらわれる……? 何の話??)


 メルクリールにはよくわからない話をしている。二人に挟まれたバーナードはずっと澄ました顔をして、我関せずといった表情を崩さない。


「メルクリール」

「は、はいっ……!」

「君は、彼が執事見習いになることをどう思う?」

 

 突然自分の意志を問われ、おたおたしていると、ザイードと視線が合う。


(ど、どう思うもこう思うも……)


 メルクリールにとってはザイードは気心の知れた大事な幼馴染み。びしっと背筋を伸ばして、答えた。


「それはもちろん、心強いですが」


 そう言えば、ザイードが口角をあげ、レオニスの眉間の皺が深くなる。


「はぁ〜〜〜、メルクリールがそう言うなら、仕方ないか」


 レオニスが大きな大きなため息を付きながら、両腕を組む。


「そうですよ、レオニス様。少なくとも彼ならば貴方のお気に入りのメルクリールに害を及ぼす心配はありませんよ」

 

 バーナードが訳知り顔で口を挟む。


「もちろんです。メルのことは俺が守ります」


 ザイードが応じる。


「メルだぁ?」


 レオニスが不愉快そうに、聞き返した。


「はい」

「二度とそう呼ぶな」


 主人から強めの口調でそう言われてもザイードはどこ吹く風だった。


「横暴すぎませんか、レオニス様。子供の頃からそう呼んでいるんですけど」

「そういうのもいらない」


 レオニスの尻尾は左右に揺れて、ぴしぴしと椅子の背もたれを叩いている。ザイードも素知らぬ顔をしながらも、珍しく彼の尻尾が揺れている。

 どう考えても、メルクリールを口実に二人で戯れているようにしか思えない。


(この二人、もしかしてとても気が合うのでは……?)


 そこでレオニスが、ふふんとせせら笑った。


「ま、今更お前がしゃしゃり出てきて、何をどう言おうが、メルクリールと私は運命の人だから。負け犬は遠吠えをしておけばいい。あ、水牛だから牛らしく、モーモー鳴いておけ」


(えっ!? う、運命の人!?)


 メルクリールが獣人の血が流れているかもしれない、もしかしたら『番』かもしれない、というのは今はまだ未確定であり、だからこそ秘密である。それでレオニスは『番』ではなく、『運命の人』と言ってくれたのだろうが――。


(にしても、どっちにしても、番でも、運命の人でも、ないっ!!!)


 指輪を外していない以上、メルクリールにとっては、何の実感もないことだ。彼女の心の中は、雇い主へのつっこみで大忙しだった。


 そしてレオニスの宣言を聞いた途端、ザイードは胡乱な目つきになった。


「何をおっしゃってるんですか。そもそも水牛はモーとは鳴きませんし、メルは――……」


(に、人間ですもの!! ね、ザイード、そうでしょ!? きっぱり、そう言ってやって……!)


 ザイードも、ふふんとせせら笑うような表情になった。


「メルは、俺の『運命の人』なので」


(ちっが――――う!!!!!)

 

 正気を保っているのは執事だけか。助け舟を求めてバーナードを見ると、彼は後ろを向いて、肩を小刻みに震わせていた――絶対に、面白がって、笑っている!


「メルクリール? 君は、私と運命の人だろう?」

「まだそんなことを。メルは俺の運命の人だよな?」


 レオニスとザイードに見つめられて、メルクリールは、猫によって壁際に追い詰められたねずみの気持ちが今なら分かると思った。


 すうっと息を吸い込む。


「私の運命の人は」


 私の運命の人は、と言えば、二人がぐうっと前のめりになる。


「貴方たちではありませんっ!」


 レオニスの執務室に、メルクリールの声が響き渡った。


 ローゼンハイム公爵家にて、賑やかな日々が始まった瞬間だった。



+一部完+


読んでくださってありがとうございます。

ひとまずここでピリオドを打とうかなと思います。


もともと短編だったので、こんな感じまで

とりあえず書いてみたよ、と。

続きが気になる方がもしいらしたら

ブクマしてくださったら、そのうちに続きを投稿する、かもです。


自分語りで恐縮ですが最近スランプ気味(自覚あり)なので

今、リハビリ中。

獅子公爵も書きたい話を好きなところまで書いてみて

なんだかまた書けそうな気になってきました……!


お付き合いくださった皆様には心から感謝を申し上げます。

少しでも気に入ってくださった方は評価をいれてくださると嬉しいです!


獅子公爵が書けたら、短編も書けました(リハビリ……)

3月24日(実は私の誕生日笑)12:00に

「嫌われ魔法科生ですが、メロい騎士ランキング一位になぜか執着されています」

という趣味爆発の短編を投稿予定です

よろしければそちらもお付き合い下さい!

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