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第十話 私は元婚約者の父親から、元婚約者についての秘密を聞かされ、声も出ないほど驚かされる。

 もしも、良綱さんが来るのであれば、この病院が定めている面会時間よりも早くだろう、と私は予想していた。

 その予想が的中したようなので、私は、心の内で、にんまりと笑う。

 今、私は口元もロクに動かせないから、心の中で笑顔になるしかないのだ。

 普段こそ、「くればやし」の社長として持っている権限を振りかざして、無茶や無理を通すのを嫌う良綱さんだが、時と場合によっては躊躇せず、いくらかの金を積んで、問題の解決を図る時もある。

 まぁ、今回は、お金でお医者さん達を買収したのではなく、良綱さんが、ここの院長へ直に、時間外に私と面会するのを黙認してくれ、と頼んだ可能性が高いだろう。

 あくまで、これは推測に過ぎないが、この病院には、暮林家の息がかかっている。

 つまり、暮林家の持つ権力が、割とすんなりと通じやすい場所なのだろう、この病院は。

 暮林家の世話になっている院長が、その現トップである良綱さんに「お願い」をされ、断れるだろうか、いや、断れまい。

 「お願い」が、あまりにも度が過ぎている、もしくは、法を犯す内容だったら、難色を示すかもしれないが、今回は、部下の一人を内密に見舞いたい、それだけだ。

 院長も快諾し、守衛や看護師さんたちに話を通して、良綱さんが私の病室に来る事を許可しただろう。

 私は、この院長の事を、見た目や人柄など、ほぼ知らないが、良綱さんが正攻法を使ったのなら、信頼できる人物なのだろう。


 (まあ、これで、良綱さんに寄付金とかを要求するようなタイプだったら、暮林の支配下にある病院の院長にはなれないよな)


 良綱さんは、怖さを含めて、お金の力を知っている。

 お金がお金では買えないモノを死に物狂いで守りたい時に必要だ、と知っているからこそ、お金の価値を軽んじたり、金の力を効果的に発揮させる能力を持たぬ者を唾棄している。

 雪乃との仲が拗れていたのも、雪乃が人の心を縛るためにバラ撒いていたお金の力を使いこなせず、暮林家に必要な才能を、ほとんど持っていなかったからか。

 そんな事を考えている間に、聞き慣れている靴の音は、私の病室の前で止まり、数瞬の後に、扉がノックされた。

 当然、私は今、返事も出来ないし、扉を開ける事も叶わないのだが、良綱さんも、それは承知の上で、社会人かつ成人としてのマナーで、ノックをしたのだろう。

 律義だなぁ、と思っていると、良綱さんは「入るよ、主宮くん」と声を掛けてから、扉を開け、病室へ入ってきた。


 「・・・おはよう」


 良綱さんは、ノックの音よりも前に、私が起きていたのを察し、いくらか驚いたようだったが、すぐに冷静さを取り戻し、朝の挨拶を口にしてくれた。

 私は声こそ、まだ出せないが、体が妙に回復している事もあって、ほんの少しだけ、頭を動かした。

 昨日は、これだけの動きでも、かなりの痛みが走ったのだが、今は平気だった。

 不思議な事もあるものだ、と私は、どこか他人事のように感じていたのだが、良綱さんは私が少しだけとは言え、動けるようになっているのを見て、相当、仰天していた。

 その雰囲気が、ハッキリと伝わってきたので、私はおかしさよりも戸惑ってしまう。

 私が戸惑っているのを感じ取ったのか、「ゴホンッ」と咳払いし、良綱さんは歩みを再開し、ベッドの近くまでやってきた。


 「よく眠れたかね?」


 この個室に用意されていたモノは、暮林家のベッドに匹敵しているのだ、熟睡できたに決まっている。

 私の首肯に、良綱さんは「それなら良かった」と笑ったようだった。


 「こんな朝早くにすまないね」


 良綱さんが多忙な身であるのは、私も重々承知しているので、文句などありはしない。

 まあ、良綱さんが、この時間帯に来たのも、涼子ちゃんに先んじる為なのも大きいのかもしれないが。


 「さすがに、今日、涼子は学校にちゃんと行かせたよ」


 私が胸の内に抱えている不安を察したからだろう、良綱さんは苦笑いを浮かべながら教えてくれた。


 「まだ結論は出た訳じゃないが、とりあえず、今日は朝から登校する事を、涼子も納得してくれた。

 だから、もしかすると、学校が終わったら、ここに来るかもしれない」


 やはり、良綱さんでは涼子ちゃんを説得できなかったし、真由子さんも、涼子ちゃんの味方に近い立ち位置なのだろう。

 予想通りだったので、私は胸の内で苦笑する気にもならなかった。


 「あの子もあの子で、主宮君、君を本気で心配しているんだ。

 だから、邪険しないでくれると助かる」


 良綱さんに頭をわずかに下げられ、私は早くも、涼子ちゃんを遠ざけよう、その決意が揺らぎそうになってしまう。

 私の逡巡を感じ取ったのか、それは定かではないが、少なくとも、この時間帯に来たのは、涼子ちゃんの事を話すためではないからなので、良綱さんは椅子をベッドの傍らに持って来ながらも、それには、すぐ座らず、改めて、私に深々と頭を下げてきた。


 「くどいようだが、今回の事、本当にすまなかった、そして、ありがとう、主宮君」


 くどい、とは思わないにしろ、少しばかり、こそばゆくなってしまう、私は。

 

 「改めて、今回の件で反省させられたよ、私は、つくづく」


 自嘲気味に笑い、良綱さんは椅子に腰を下ろした。

 やはり、雪乃のような存在でも、良綱さんにとっては娘の一人である事には変わりない。

 死に方が凄惨であり、しかも、まともに残ったのが首から上だけだった事実は、さしもの良綱さんのメンタルにも、相応のダメージを与えたのだろう。

 あの状態では、命は助けられなかったにしろ、私がもう少し、己の身が傷付くのも躊躇わずに努力していたら、炎による損傷が残酷ひどかったとは言え、雪乃の全身を車から出す事が出来ていたかもしれない。


 (くそっ)


 そんな私が胸中で漏らした、命を惜しんだ己への侮蔑の呟きを聴き取ったのか、良綱さんは険しい表情を浮かべている、と感じ取れる雰囲気で、首を横に振った。


 「主宮君、昨日も言ったが、それは君の悪いクセだ。

 今のは、私にも非はあるにしろ、そんなに自分を責めなくていいんだぞ。

 雪乃が、あんな死に方をしたのは自業自得なんだ。

 君が感じる責任など、これっぽちもありはしない」


 良綱さんの言葉には、優しさが確かに籠っていたが、そう簡単に気持ちが軽くなるのなら、苦労はしない。

 情けない話だが、これが私の性分で、簡単に矯正も出来ないのだ。


 「まぁ、私には、君を窘める資格もないがな」


 再び、自嘲モードに、良綱さんが入ってしまったので、私は焦ってしまう。

 もし、この体がもう少し、回復し、動けるようになっていたら、私は右往左往し、良綱さんにかけるべき言葉を悩んでいただろう。

 

 「雪乃が、あぁなってしまったのは、私に非がある、と思っている」


 私が狼狽えているのを承知の上で、良綱さんは、いつになく、真面目、と言うか、やけにヘビーな空気を醸しながら話を進めていく。

 今、ろくに喋れず、相槌も打てない状態である以上、私は黙って、良綱さんの独白に耳を傾けるしか出来なかった。

 しかし、この時点で、私は、まさか、良綱さんが、あんなにも衝撃的な事実をブチ撒けるとは予想もしていなかったのである。


 「そこを否定はしない。

 私が、雪乃が非行に走った原因の一端を担っているのは認めるしかない。

 ただ、この事実を受け入れた上で、愚痴りたいんだ。

 正直、雪乃は母親が悪かったんだよ」


 「!?」


 私がギョッとしてしまったのは、良綱さんと真由子さんがラヴラヴの夫婦、と思い、憧れすら抱いていたからだ。

 どっからどう見ても、良綱さんは愛妻家の鑑だ、と尊敬していたからこそ、良綱さんが雪乃のろくでもなさは、真由子さんの所為だ、と言うなんて信じられなかった。

 これには、さすがに私も落ち着いてはいられず、良綱さんに対して、怒気を発してしまう。

 私から怒気を浴びせられ、一瞬、戸惑いを見せた良綱さんだが、すぐに、自分の失言に気付いたらしい。


 「そうか、誤解させてしまったな」


 「?」


 「主宮君、君には、この事実を雪乃と結婚してから、ある程度の時間が経ったら、教えるつもりでいたんだ」


 気まずそうに、良綱さんは頬を指先で掻く。


 「どうやら、私も疲れているようだ」


 それはそうだろう。

 愛娘ではないにしろ、子供が一人、亡くなり、その子供が働き続けていた悪事の揉み消しに奔走し、しかも、会社から漏らされた情報の後始末まで済ませねばならなかったんだから。

 それほどまでに多忙を極めたのだから、「大鉄人」と称される良綱さんだって、神経の二本や三本くらい参ってしまっても不思議じゃない。

 にも関わらず、私の見舞いに来てくれたのだから、感謝すべきなんだろう。


 (いや、でも、やっぱり、真由子さんに責任を押し付けようとするのは良くないっすよ、社長)


 「実はな、主宮君」


 良綱さんは防音機能がしっかりとしている個室であるにも関わらず、わざわざ、私に顔を近づけ、声を顰めていた。

 ヒソヒソ話を良綱さんから、これが初めてではないにしろ、あまりにも、固い雰囲気がビンビンなものだから、一体、何なんだ、と私は異様に緊張させられてしまう。

 まぁ、あんな秘密を話そうって言うんだから、自然と警戒し、声量も抑えてしまうだろう。


 「雪乃は、私の娘ではあるんだが、真由子が産んだわけじゃないんだ」


 「はぁ!?」


 私は驚きのあまり、声を出してしまい、直後に襲ってきた鋭い痛みに悶えてしまう。


 「ちょ、主宮君、大丈夫か!?」


 良綱さんが喉と胸の痛みに悶絶する私に顔色を失い、慌てて、ナースコールのボタンを押そうとしたので、私は「大丈夫」と首を動かして伝える。

 幸い、良綱さんには伝わったようで、「そうか。だが、無理はしてくれるな」と椅子に座り直してくれた。


 (え、いや、マジか?)


 お茶目な部分があり、ジョークのセンスがピカイチだ、良綱さんは。

 しかし、冗談は大勢の人と笑いを分かち合えてこそ、が信条のはずだ。

 であるならば、今のは、本当の事を言ったに違いなかった。

 まぁ、それでも、驚きは消え去ってはくれないが。


 「本当の事だ」


 私が「?」を包帯でグルグル巻きにされている顔の近くに何個も飛ばしていたからだろう、良綱さんは重々しい声で、再び、それが事実である、と認めた。

 だが、それが却って、私を混乱させてしまう。

 良綱さんが、本当だ、と言った以上、雪乃は真由子さんの実の娘じゃない、そこは受け入れられた。

 むしろ、あの性悪にして性根が腐っている雪乃に、真由子さんの血が入っていない、と納得したし、安堵すらしてしまうほどだった。

 血液型は、性格に影響を及ぼさない、その説自体は私も同意できるが、実際、雪乃のように、類を見ないほどのクズに関わると、どうして、こんな良いご両親から、こんなダメな子が生まれるんだ、と思ってしまうのである。

 雪乃に、真由子さんの血が入っていないのであれば、彼女の善性が受け継がれていないのも当然だったのだ。

 合点が行きつつも、やはり、私は戸惑いを打ち消せない。

 良綱さんは言った、雪乃は真由子さんの娘じゃない、と。

 それは、裏を返せば、良綱さんの血は雪乃に入っている事を意味している。


 (まさか、良綱さんが浮気をして、外に子供を作っていたなんて・・・)


 そんな疑いが私の中に生じたが、私は「いや、そんな訳ないな」と即座に、自身の考えを否定した。

 先にも言ったが、良綱さんは、私が知る中でも一番の愛妻家だ。

 未だに、良綱さんは、誕生日にはバラの花束を買って帰り、真由子さんは、それをドライフラワーにしたり、アロマオイルの素材にしているらしい。

 また、月に2回はデートをしているし、「いってきます」のキスも欠かさない、と良綱さんから惚気られていた事もある。

 その惚気話を聞かされた時、涼子ちゃんもいたのだが、やはり、両親がイチャイチャしているのを当人から話されるのは、中々にキツかったらしく、うんざりとした表情を浮かべていた。


 (あ~、でも、羨ましい、とは本音を溢してたか、涼子ちゃん。

 涼子ちゃんなら、きっと、良綱さん達に負けないくらい、ラヴ(ラヴ)な夫婦になれるだろうけど)


 一瞬、思考が涼子ちゃんにズレかけたので、私は集中して、疑念の払拭に取り掛かる。

 娘に羨望の視線を向けられるほど、良綱さんは真由子さんを愛しているのだから、他の女性と浮気をするなんて、絶対に有り得ないだろう。

 この世の中、有り得ないなんてことは有り得ないにしろ、良綱さんは他の女性を抱かない、これだけは断言できる。

 良綱さんは真由子さんを裏切っていない、その点は間違いないが、実際、雪乃は、この世に生を受けている。

 であれば、良綱さんと真由子さん以外の女性がセックスしている可能性が出て来てしまう。

 

 (体外受精って線もあるにはあるだろうが・・・)


 それにしたって、私は、嫌だなぁ、と思ってしまう。

 体外受精、それ自体は特に忌避感を抱きはしないし、逆に、強く推奨する気もない。

 子供が欲しい男女がいて、体外受精、それしか方法がないのであれば、そうすれば良いんじゃないか、その程度の印象でしかない、私にとっては。

 私が、真由子さん以外の女性に良綱さんの精子が提供され、その結果、雪乃が生まれた事実に対して、気持ち悪さを覚えているのを、良綱さんは感じ取ったのか、小さく、そして、乾ききった笑い声を漏らす。


 「幸か不幸か、雪乃は体外受精で出来た子じゃないんだよ、主宮君」


 もちろん、この言葉に私はホッと出来なかった・・・出来る訳がなかった。

 良綱さんが真由子さん以外の女性とセックスした、これが確定してしまったからだ。

 あの大災害で、母と死別している事もあって、私は無自覚の内に、真由子さんに母性を感じ、理想の母親と見ていたのだろう。

 まさか、このタイミングで、真由子さんが良綱さんに裏切られていた事にショックを覚えてしまう初心さが、自分の中に残っていた、と思い知るとは・・・・


 「主宮君、今、君が考えている事、その半分は間違っているんだ」


 (半分は間違ってる?)


 「言い訳のように聞こえてしまうだろうが、私と雪乃の母親の間には合意が無かったんだよ」


 さすがの私も、良綱さんが今、語っている、本来であれば、墓の下まで持って行きたかった、他人には打ち明けるべきではない秘密を悟った。


 「そう、私は逆レイプされたんだ、雪乃の母親に」


 「ッッッ」


 口がまともに訊ける状態であったなら、喋らなくていいです、と言えたのだが、良綱さんは私が動作で、その意思を伝えるよりも先に、その恥ずべき過去を明かしてしまった。


 (逆レイプってマジかよ・・・いや、でも、雪乃の母親ってんなら、絶対に無い、とは言い切れないのか)


 私は、雪乃の方が私を毛嫌いしていた事もあって、一度もセックスどころかキスもした事がない。それどころか、手すら握っていなかった。

 世の男性は、金持ちの家に生まれたお嬢様は、平民の手なんか汚くて握れないって事か、と憤るだろうが、むしろ、私の方も雪乃に触れる、触れられるのを避け、拒んでもいた。

 別段、女性に接触されるのが苦手、と言う訳ではない。

 そう頻繁に、女性に触れる事は無いにしろ、異性の同僚や部下の手に書類を渡す拍子で触ったりもするし、真由子さんに肩を揉んで、とお願いされた際は、普段、お世話になっている礼も兼ね、快く引き受けていた。

 逆に、涼子ちゃんの方は、私へ積極的にベタベタ触ってくるじゃ飽き足らず、抱き着いて来る事もあった。

 だから、接触に抵抗を覚えるのは、雪乃、ただ一人だけだった。

 正直なとこ、自分でも、雪乃に触ったり、触られたりする事に「嫌だ」と心から思う理由は、自分でも言語化するのが難解である。

 どシンプルに、本能が拒んでいる、そうとしか説明できなかった。

 それでよく、顧客に、新商品の文具のプレゼンが出来るな、と呆れられてしまいそうだ。

 まぁ、私の嫌悪感はさておき、そんな雪乃は性交渉に関しても、実にだらしなかったらしい。

 さすがに、子供が出来ないように注意はしていたようだが、毎日の乱交は当たり前だったようで、近場のラブホのほとんどから、出禁を喰らっている、と聞いた。

 暮林家の次女、と解った上で、出禁処分にするのだから、相当に部屋を汚したか、他の客に迷惑をかけたか、警察が呼ばれるような行為をしたんだろう、と容易に察しが付く。

 家族との間に深い溝が出来ている雪乃は、自身の心の隙間を埋めるように、何人もの男に抱かれ、金玉が空っぽになって、水すら出なくなるまで抱き、何十人もの男のチン〇を使い物にならない状態にして捨ててきた。

 喰らってきた男の職業は様々で、ホストに一流企業の社員、警察官、医者、消防士、アイドルや俳優、中には政治家もいたそうだ。

 真偽は定かではないが、男子高校生どころか男子中学生までも、パーティーに呼んでいた、とも聞く。

 

 (まぁ、中坊はともかく、高校性ともなりゃ、セックスは自己責任での上だから、雪乃にツマミグイされ、ポイ捨て、その上、勃起不全になっても同情は出来ないけどな)


 悪性、と言っても過言じゃないほど、男グセが悪すぎた雪乃の母親であったのなら、良綱さんを逆レイプした、と聞いても、驚きの値は、そこまでブチ上がらない。

 それでも、多少は驚いてしまうのは、良綱さんが、逆レイプされるようなタマじゃないからだ。


 (真由子さんに、昔の写真を見せて貰った事があるけど、マジに、高級スーツを着たキングコングだったからな、良綱さん)


 私が胸の内で失礼な事を考えてしまっているのを知ってか知らずか、良綱さんは重々し気な溜息を漏らす。


 「私も、あの頃は若い、と言うか、青かったんだよ」


 良綱さんにとっては、雪乃が生まれるキッカケになった逆レイプは、認めたくない己の若さゆえの過ちなのだろう。

 まぁ、生まれた子が、雪乃のように性格破綻者でなかったら、負の感情を飲み込んで、愛情を思う存分に注いで可愛がり、晴れやかな未来を掴めるように、父親として、尽力もしたくなるだろうが、逆レイプされた結果が、雪乃、となったら、途方に暮れ、相手を恨みたくもなるだろう。


 (あの頃の良綱さんを逆レイプしたとなると、やっぱ、違法なクスリの類を盛ったんだろうな、雪乃の母親は)


 良綱さんは、今でも逞しいが、当時は更に腕力が強かっただろうから、逆レイプ出来る状態にするには、体の動きを封じる薬を飲ませないと、厳しい、を通り越して、不可能だろう。

 雪乃が、自身の快楽をより際立たせるために、ドラッグを服用していた事を考えると、その辺りも血筋なのかもしれない。

 何にせよ、違法な薬を使ってまで、良綱さんを逆レイプしたのは、そこまでしてしまうほど、良綱さんを愛していたか、真由子さんに強烈な嫉妬を抱いていたか、もしくは、恋愛感情など、一切、存在せず、ただ、良綱さんの血が流れている子供が欲しかっただけか、だ。


 (・・・・・・どう考えても、三番目だろうな)


 親の性格や性質が、子供に受け継がれたとしても、それ自体は、悪い事ではない。

 ただ、雪乃の人間性を思い返せば、母親がろくでもない気質だったんだろう、と容易に想像できてしまう。

 そもそも、まともな人間なら、クスリを使って逆レイプはしないだろうが。


 (良綱さんの子供を欲しがった理由も、大方、金か)


 娘であっても、良綱さんの血が流れているのなら、暮林家の一員である事には変わりない。

 つまり、良綱さんに何か不幸な事が起きれば、その子供にも相続権は発生する。

 また、暮林一族であるならば、「くればやし」の持つ会社の重要なポストに就く事も可能で、これまた、大金が懐に入れられる。

 もちろん、実際の「くればやし」は、そんな甘いシステムにはなっていないのだが、違法なクスリを使って逆レイプをする、なんて手段を用いるバカ女の頭では、そこまで理解できなかったのだろう。

 子供が一人できれば、自分は何をしなくても、母親として甘い蜜を吸い続ける事が出来る、と希望を抱いていたであろう、愚かな女のマヌケ面がイメージできてしまう私。


 (生まれてきた子に罪はない、と言うが・・・真由子さんも、よく、引き取る事を良し、としたもんだ)


 確かに、事情は何であれ、赤ん坊に罪はないから、産まれた時点で殺してしまうのは酷な話だ。

 しかし、実母の悪性を受け継いだどころか、更にゲスくなった雪乃が、どれほどの悪業を重ね続けるか、それを、この時点で予見できていたのなら、いくら、真由子さんが聖母のような性格であっても、迎え入れるような事はしなかったに違いない。

 良綱さんはともかく、真由子さんの性格を考えれば、殺す事は出来ず、暮林の息がかかっている保護施設に預けるよう、良綱さんを説得したんじゃないだろうか。


 (雪乃が暮林良綱の次女って事になってるのなら、雪乃の実母は・・・)


 私の胸中に浮かんだ疑念、それを察したのか、良綱さんは大らかに笑う。


 「雪乃の実母は、”病死”している」


 平然と、その「事実」を告げてきた良綱さんに対し、全く、身の毛がよだたなかった、と言ったら、嘘になる。

 しかし、私も、良綱さん達に新しい家族の一員として、ほぼ迎え入れられており、「くればやし」と暮林家が繫栄した理由も、ある程度は解っていたので、驚きはしなかった。

 逆に、まだ生きている、と言われた方が、信じられない、と思っただろう。


 (もしかして、雪乃が良綱さん達と仲が悪かったのも、自分の出自を知っていたからなのか?)


 「いや、それは違う、主宮君」


 またしても、私の心の声を読んだように、良綱さんは首を横に振った。


 「雪乃が、真由子の子でない、と知っているのは、私と真由子を含め、暮林の中でも一握りだけで、雪乃本人は、何も知らなかったよ」


 (何も知らない状態で、あの関係性だったのか・・・)


 これはこれで、頭痛が痛い、と言いたくなる事態だが、既に、雪乃がこの世にいない以上、言ったって仕方のない話だろう。


 「まぁ、苺は聡明だから、この秘密を掴んでいるかもしれないが、雪乃には言ってはいないと思う」


 確かに、苺さんの頭の良さを考えると、雪乃が、この事実を知る事で、更に自暴自棄となるのを予想し、己の胸の内に秘める事を選択するだろう。


 (まぁ、涼子ちゃんが何も知らないってのは、せめてもの幸いか)


 涼子ちゃんと距離を取ろう、と決めていたのに、ついつい、彼女のメンタルを慮ってしまうのだから、私もつくづく甘ちゃんだ。

 ほろ苦い味が胸の中に広がった私は、昨日、良綱さんが口にした例の件について訊ねるには、ここが良いタイミングかな、と判断した。

 思った通り、良綱さんは「そろそろ、例の事について話しておこう」と切り出す。


 「昨日も聞いたが、主宮君は超能力を信じるか?」

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