第7話
朝食から数時間後、私は改めて、”ナイトイーグル”のコックピットに座っていた。
「あなたなら大丈夫だと思うけれど……そんなに緊張しすぎないようにね」
「はいっ! その辺はばっちりです!」
「ふふっ、そう、よかった」
コックピットチェアの横に据え付けられた、サブパイロット用のチェアに母が座っている。
奥の方までしっかりと座り直し、ベルトを装着すれば、球体のようなコックピットの壁面に周囲の映像が投影される。バイザーをつけずとも周囲の状況を確認できるようにする機能だ。
『聴こえるかい、リファ。こちら”ライトブリンガー”』
『こちら”アイギスクロス”。通信は良好だよ』
兄の乗る”ライトブリンガー”と、父の乗る”アイギスクロス”から通信が入る。
横の方を見てみれば、白と橙のツートンに塗られた、細身でスタイリッシュな機体と、左腕に十字の盾を装備した白と赤のツートンで塗られた重装型の機体がある。前者が”ライトブリンガー”で、後者が”アイギスクロス”だ。
「あーあーあー、こちら”ナイトイーグル”! 通信聞こえます!」
『うん、僕の方もリファの声がよく聴こえる』
『通信状態は良好のようだな。まずはよし、と』
通信状況のチェックが終われば、次はドックの解放だ。
『あーあーテステス、聴こえるか3人とも!』
『僕は聴こえるよ、お祖父様」
『”アイギスクロス”、通信状態良好』
「”ナイトイーグル”も聞こえます!」
『よーし準備万端だな! まずはハッチを開ける。眩しいだろうが我慢するんだぞ!』
「はーいっ!」
ガレージに併設された制御室から、祖父の通信が入る。最後の通信を皮切りに、ガレージの天井がゆっくりと解放されていく。
「うわっ、まぶしっ」
「大丈夫? そろそろバイザーを被ったら?」
「そーしまぁす」
母に促されるままに、操縦用のバイザーをおろし、装着する。
途端に視界の光量が補正され、さほど眩しくはなくなった。
「あれ、お母様こそ眩しいんじゃないですか?」
「私は大丈夫よ。サングラスを持ってきたから」
「えっ……あ、はい」
驚いて隣を見ると、確かにいつの間にかサングラスをかけていた。母はたまにお茶目なところがあるとは思っていたが、まさかサングラスなんか持っているとは流石に思わなかった。
『よぉーし、次はリフトアップだ! 変な感覚がすると思うが我慢しろよ!』
「はぁーい!」
『わかりました、お祖父様』
『了解』
三者三様の返事を返すと、今度はゆっくりとハンガーが上昇していく。不思議な感覚で少し面白い。
そして開いたガレージの天井より少し上まで上がると、そこはすでに外だった。
ガレージは地下に設置されており、天井が開くということは、地面が開くということと同義だった。
ガレージの外に出れば、そこは広大な演習場になっている。最も、これは”深淵の森”の一部を切り開いて造ったものであり、ごく稀にこの場所まで魔物やらが出てきてしまうため、実際のところは最終防衛ラインとなっている。
『さぁて次だ! 機体を起こすぞ!』
祖父の掛け声とともに、ハンガーが起動し、少しずつ機体が起き上がっていく。大凡直立になるまで起き上がると、ハンガーが停止し、機体各所と接続していたロックが解除される。
『これで発進準備は整った! あとは任せるぞぉカルメン!』
『了解。操作感謝します、義父上』
父の返答を最後に、祖父との通信が途切れる。ここからが、本番だ。