第5話
翌朝、まだ日も上らないような早朝に、私は起き上がった。
普段侍女たちが起こしにくる時間よりも、3時間は早いだろう。
もぞもぞとベッドから降り、自分でクローゼットをあけ、適当な服を着る。
そして音を立てないようにそーっと部屋の扉を開け、抜き足差し足で廊下に出る。
そうすればもう、あとはなるべく足音を立てないようにしながら廊下を駆け抜け、ガレージに侵入し、細身で片腕が2枚板になっている異形のミスティカドールへと近づいていく。
「ふへっ、ふへへへっ……今日はよろしくね、”ナイトイーグル”」
横たえられた”ナイトイーグル”によじ登り、前後に長い単眼の頭部の前に立つ。
”狙撃機”であるこの機体は、頭部に展開可能なスコープユニットが取り付けられている。機体に乗る際は、このスコープユニットが上に展開し、「Y」のような形状のコックピットハッチが顕になる。
どうせこの数時間後に乗るのだ。今コックピットに入っても問題はない。
勝手にそう判断し、首筋のところにある操作盤を弄る。すると仕様通り、わずかにウィーンと音を立てて、スコープユニットが上に避ける。
もう1度操作盤をいじれば、顔面に現れた「Y」字のセンサーアイユニットが割れるように展開し、コックピットを外気に晒す。
滑り落ちるようにコックピット内に入れば、ほのかな起動音とともにコックピットの壁面に光が走り、明るく点灯する。
それに合わせて、中央にあるチェアに座り、シートベルトを締め、頭上にあるバイザーを下ろしてかぶる。
バイザーをかぶると同時にコックピットハッチは閉じ、スコープユニットも所定の位置に戻る。
そして私の視界には、”ナイトイーグル”から提供される周辺の映像が、くっきりと映し出されていた。
「はぁぁ……このほのかに薫る金属の匂い、視界に広がる暗視モードの映像、鼓膜に届くジェネレーターのわずかな起動音……至高の空間だぁ……」
こっそりと早朝のガレージに侵入し、この光景を見るのは果たして何度目かもわからないが、飽きもせずに”パイロットの視点”を堪能する。
「ふぁ……ぁふ、流石にちょっと、ねむ……」
今日の起動実習が楽しみすぎて寝付けなかったために、寝不足気味だったところで、この心地よい空間に納まってしまったのだ。眠気が襲いかかってくるのも当然だったと言えよう。
「……ま、多少なら、問題、な、い……」
軽く目を瞑れば、体がふわりと浮くような感覚とともに、急速に意識が薄れていく……。