第4話
屋敷の廊下を走りぬけ、ガレージについてみると、ちょうど横たえられた”ライトブリンガー”から、ライお兄様が降りてくるところだった。
「あっ、あぁっ!? ”ライトブリンガー”が沈黙してるぅ!?」
「ん? その声は……リファか。残念だけど、肩慣らしは終わっちゃったね」
ミスティカドールのコックピットハッチを閉じながら、ライお兄様が微笑みかけてくる。
頭部にあいた大穴が、枠からせりでてきたハッチによって閉じられ、「Y」のような意匠のセンサーアイが前面に現れる。
「うぅ、見たかった……あ、それはそれとしてライお兄様、お疲れ様です」
「うん、ありがとう。でも明日はリファの起動実習でしょう? どちらにせよ、僕の”ライトブリンガー”を見せてあげられるよ」
「ぅぃやったぁ!!」
他に人がほとんどいないのをいいことに、遠慮なしに両手をあげて歓喜を表す。
そんな私を、ライお兄様は苦笑を浮かべて眺めている。
「っは、そうだ、私のミスティカドールは!? 明日はどれに乗るのですか!?」
今このガレージには、5機のミスティカドールがある。祖父の”ガイアクリーヴァ”、父の”アイギスクロス”、母の”フラワリング”、兄の”ライトブリンガー”、そして亡くなった曽祖父の”ナイトイーグル”である。
それぞれ、”突撃機”、”守衛機”、”魔砲機”、”斥候機”、”狙撃機”と分類される。
役割としては読んで字の如くで、前線での突撃、要所の守護、大火力魔法兵装、調査先行、そして狙撃だ。
この他にも王国では、初心者の教習用に用いられる”教習機”、工業重機として用いられる”作業機”、そして遺跡から発掘される”遺構機”という分類が存在する。
地味に王国軍による分類8つのうち、戦闘に用いられる分類のほぼ全てが揃っているのだ。しかもバランスがいいため、パイロットさえいれば、災害級魔物の特Aランクでもないかぎりは対処が可能である。
最も、曽祖父が亡くなっているので、実質的に動かせるのは4機だけであり、さらに兄の機体は基本王都にいるため、常時であれば、3機しか動かせないことになる。それでも上Cランクまでなら余裕で対処ができる。
「確か、明日リファが乗るのは……」
ライお兄様が1つの機体を指さす。
そこには、暗いネイビーの塗装が施され、右腕の肘から先が、平行に伸びる2枚の長い板状のユニットに換装された、細身の機体があった。
そう、亡くなった曽祖父の”ナイトイーグル”である。
「……あれ、どう考えても初心者向けの機体ではないですよね?」
何せ、片腕が丸っと狙撃ユニットに置き換わっているのだ。『操り人形としては、特殊もいいところだ。大方、うまいこと動かせたらそのまま戦力として数えようという魂胆なのだろう。
「まぁ……うん。僕も最初はどうかと思ったんだけどね……どうやら、”教習機”がどこも売り切れみたいで……」
基本的に王国は、初心者は”教習機”を使うことを推奨されている。
これでミスティカドールの動かし方をまず覚えて、それから各々の適性ごとに、”突撃機”なり”守衛機”なりに乗り込むのだ。最初っから”狙撃機”に、ましてやその中でも異形と言われる”ナイトイーグル”に乗り込むことになるとは……。
あぁ、なんて楽しそうなんだろう!
「リファも不安に……は、なってなさそうだね。うん、よかったのかな?」
瞳をキラキラと輝かせている私をみて、ライお兄様が何やら呟いていたが、そんなことはどうでもよかった。
初めて乗る機体が、異形の機体。
これは一生話のネタにできる上に、学園において、”教習機”による操縦教習をスキップするための申請要件、「特殊形状のミスティカドールへの、1年以上の搭乗経験」をクリアすることができるのだ。このチャンスを逃すつもりはない。
それはそれとして、学園に行ったら”教習機”にも乗ってみたいが。単純に興味もあるし、こういうのはロマンでもある。
明日の大イベントに備えて、”ナイトイーグル”の隅から隅までを、舐め回すように眺める私を、困ったようにライお兄様がみていた。