第3話
「……そういえば、どうしてライお兄様は”ライトブリンガー”に乗っていたの?」
ふと、私が捕まった時のことを思い出し、聞いてみる。
”ライトブリンガー”は、9つ上の兄である、ライルネントが乗るミスティカドールだ。
軽量機である”ライトブリンガー”は、王国軍による分類でいうところの、”斥候機”だ。
普通の”斥候機”であれば、関節部や装甲の隙間は暗幕で覆われ、機体色も暗い色だったりで隠密性を高めたものが多いのだが、”ライトブリンガー”にはそれらがなく、機体色も橙と白のツートンという、とても目立つカラーリングだ。
”ライトブリンガー”は、”斥候機”の中でも異色の、近接戦闘能力を高めた機体なのだ。
「斥候として近寄りつつ、突発的な戦闘が発生すれば、むしろ自身が目立ち、他の斥候機を逃す」
という役割をもった、本来は捨て駒のような機体なのだが、そこに兄の実力が合わさると、
「気がつかれる前に接近し、圧倒的な機動力で次々と敵を切り伏せる」
という、むしろ”突撃機”の方が近いんじゃないかと思うような活躍をするらしい。
その実力で、兄は”斥候機”乗りとしては初の、王立学園での学年首席となったのだ。今は冬休みのため帰郷しているが、普段は愛機の”ライトブリンガー”とともに、学園で暴れ回っているらしい。
そんな機体だからこそ、装甲は最低限で、6歳の私が簡単に収まることができるのだ。
「あぁ、ライルネント様は腕が鈍らないようにと、お嬢様が隠れた直後にガレージへとやってきたのです。どうせ、普段みることのできない”ライトブリンガー”の中にいるのだろうなと少し待ってもらっていましたが……出てこないので、炙り出しの意味もこめて起動していただいたのです」
「えっ」
バレてる。私の思考回路が筒抜けになっている。そして聞き捨てならない情報も混ざっている。
「”ライトブリンガー”が動いてたの!? みたかったのにーっ!!」
普段、兄の愛機として王立学園に保管されている”ライトブリンガー”が動いている場面をみることができなかったと気づき、機会を逃した悔しさで机に突っ伏す。
「はぁ……どうせ明日はミスティカドールの起動実習ではありませんか。ライルネント様も、それに合わせて帰郷なされたのでしょう? でしたら、おそらく”ライトブリンガー”によるサポートをされるはずですよ」
「っは、そうだった!」
ガバッと起き上がって、明日に控えた重大イベントの存在を思い出す。
普通、ミスティカドールの適性測定は10歳になる年に行われるが、元から複数機のミスティカドールを所有している貴族家の子女は、大抵適性測定の前に数回はミスティカドールに乗ってみることが多い。
ミスティカドールの操縦適正は、幼少から鍛えればある程度は上昇させることができると言われているためだ。貴族家としては、自身の家からミスティカドールのパイロットを排出したとなれば、それは名誉ということになるのだ。
そして、我らがケルビーニ辺境伯家も、その例に漏れずミスティカドールの操縦を、適性測定の前に行っておくのだ。
「こうしちゃいられない! 待っててね私のミスティカドール!!」
「あっちょ、お嬢様!?」
急激に元気を取り戻した私は、明日自分が駆る予定の機体の元へと、急いで走って行った。