表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

第1話

 



 前文明の遺産の1つである”深淵の森”、そこに面する領地をもつ”ケルビーニ辺境伯家”に一人の娘が生まれる。


 名を”リファリード・ケルビーニ”という。


 今年で6歳になる彼女には、1つの秘密があった。


 ”前世の記憶を持つ”という、特上の秘密が。



 ◆◇◆◇◆◇



「リファお嬢様!? どこにおられるのですかー!?」


 私を呼ぶ声が聞こえてくる。が、私を見つけることはまずできないだろう。


 爵位をもつ貴族であれば、最低1機はミスティカドールを所持している。そんな例に漏れず、ケルビーニ辺境伯家も5機のミスティカドールを所有していた。

 そのうちの1機、7つ離れた1番上の兄の所有機”ライトブリンガー”の右脚装甲の点検口の内部に、私は今隠れている。


 仕方ないのだ。私についた家庭教師が特に厳しくて、毎度毎度怒鳴ってくるのがうざ……怖くてたまらないのだ。だから逃げ出してしまうのも仕方がない。そう、仕方がないのだ。


「はぁ……仕方ありませんね」


 私を追ってきた家庭教師のララニア婦人が嘆息し、どこかへと離れていく。

 私はくすくすと笑いを噛み殺しながら、”ライトブリンガー”のふくらはぎを内側から眺める。


 ほんのり虹色の輝く銀色の線が、腰部からフレームを伝うように張り巡らされ、関節部に接続されている。フレームには、衝撃吸収と剛性強化、軽量化の術式が、絡みつく文字列として刻まれており、ほんのりと暖かい橙色の光を放っている。待機状態ではこのように淡く光り、起動状態になるとこれが一気に輝きだし、装甲の隙間や関節部から、陽炎のように光が漏れ出す。


 そう、まるで今のように、だんだんと光量を強め、機体を駆け巡るマナを奮起させ……え?


『調弦率30パーセント。”ライトブリンガー”起動!』


 機体の上部から響いてくる専用スピーカーの音声が、現状を強く認識させる。

 まずい、このままだと光に呑まれて──


 カッ


「ぎっ……ああぁぁぁぁ!?!?」


 視界が橙色一色に染まる。キィィィンという特徴的な起動音が鼓膜を強く叩き、頭痛を引き起こす。


 たまらず点検口から転げ落ちるように脱出する。視界が戻らず、ゴロゴロと地面を転がるように退避していると、ふとどすっと何かに衝突する。


「うぇ……なぁにぃ……?」


 だんだんと光彩を取り戻しつつある視界を上に向けて見ると、そこには呆れと怒り、そしてわずかな諦観をないまぜにして私を見下ろす、ララニア婦人の双眸があった。


『ほ、ほんとに出てきた……』


 呆然とした風に、横に寝そべった”ライトブリンガー”から7つ上の兄の声が、スピーカーを通してガレージ内部に響く。


「ぁ、あはは……」


「…………」


 無言の圧力がのしかかる。


「…………」

「…………」

「…………」


「……くっ、殺せ!」


「殺しませんよ。ですがしっかりとお勉強していただくために、拘束はさせていただきます」


 そうして私、リファリード・ケルビーニはあっさりと、ララニア婦人に捕獲され、連行されてしまった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ