第8話 変わる二人、変わらぬ二人
翌日。 「おはよー!」
教室に入ってきた花子が、元気よく太郎に声をかける。
「お、おう...」
太郎は少し気恥ずかしそうに返事をする。昨日のことを思い出し、顔が赤くなりそうになるのを必死に堪える。
「どうしたの?顔赤いよ?」花子が不思議そうに首を傾げる。
「い、いや...なんでもない」
太郎は慌てて誤魔化す。花子はニヤリと笑う。
「もしかして...昨日のこと、思い出しちゃった?」
「うっ...」太郎が思わず声を漏らす。
「あはは、やっぱり」花子が楽しそうに笑う。「でも大丈夫、あれは夢だったってことにしよう?」
「あ、ああ...」太郎も苦笑する。「そうだな...夢だ、夢」
しかし、二人の目が合うと、またしても顔が赤くなってしまう。
「もう、しっかりしてよ」花子が軽く太郎の肩を叩く。「美咲に気づかれちゃうよ」
その言葉に、太郎は我に返る。そうだ、昨日美咲に告白して振られたんだ。なのに、今は...。
「ごめん...」太郎が小さな声で言う。「なんか、変な気分で...」
花子は優しい笑顔を向ける。
「大丈夫だよ。時間がたてば、きっと落ち着くって」
太郎は黙ってうなずく。花子の言葉に、少し心が軽くなる気がした。
その時、教室のドアが開き、美咲が入ってくる。
「おはよう」
美咲が柔らかな笑顔で二人に挨拶する。
「おはよう、美咲!」花子が明るく返事をする。「今日も可愛いね」
美咲は少し照れたように笑う。
太郎は二人のやり取りを見ながら、複雑な思いに駆られる。美咲の笑顔は相変わらず眩しい。でも、昨日の告白のことを思い出すと、少し胸が締め付けられる。
(やっぱり、まだ好きなんだよな...)
そう思いながらも、隣にいる花子の存在が妙に気になる。昨日のことを思い出し、顔が熱くなりそうになる。
「ねえ、太郎」花子が小声で話しかけてくる。「大丈夫?」
「あ、ああ...」太郎は慌てて答える。「なんとかな」
花子は心配そうな顔で太郎を見つめる。その優しさに、太郎は胸がざわつくのを感じる。
太郎は一人で廊下に出た。そして思いっきり深呼吸をする。
(落ち着け...俺は美咲のことが好きなんだ。でも、花子とのこともあって...)
「太郎、どうしたの?」
突然声をかけられ、太郎は驚いて振り向く。そこには心配そうな顔の花子が立っていた。
「花子...」太郎は言葉に詰まる。「いや、なんでもない」
「嘘つくの下手だね」花子がくすりと笑う。「美咲のこと、考えてたでしょ?」
太郎は黙ってうなずく。花子は優しく微笑む。
「大丈夫だよ。時間はかかるかもしれないけど、きっと前を向けるって」
「ああ...」太郎も小さく笑う。「ありがとう、花子」
二人は並んで窓の外を眺める。春の風が心地よく頬をなでる。
「ねえ」花子が突然言う。「昨日のこと...本当に忘れちゃった?」
「えっ!?」太郎は思わず声を上げる。顔が真っ赤になる。「あ、あれは...」
花子はくすくすと笑う。「冗談だよ。でも、太郎の反応、面白いな」
太郎は呆れながらも、少し照れくさそうに笑う。
「もう...からかうなよ」
「ごめんごめん」花子が笑いながら言う。「でも、太郎が元気そうで良かった」
太郎は花子の笑顔を見て、胸がほんの少し高鳴るのを感じる。しかし、すぐに美咲のことを思い出し、複雑な気持ちになる。
(俺は...どうすればいいんだ?)
そんな太郎の様子に気づいたのか、花子が優しく肩に手を置く。
「大丈夫。焦らなくていいんだよ」
太郎は黙ってうなずく。花子の言葉に、少し心が落ち着くのを感じる。
二人は教室に戻る。美咲が友達と楽しそうに話している姿が目に入る。太郎は小さなため息をつく。
(やっぱり、まだ好きだ...)
そう思いながらも、隣で微笑む花子の存在が、不思議と心強く感じられるのだった。