表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/44

第38話 東雲家のおもてなし

太郎は緊張した面持ちで、東雲家のマンションの前に立っていた。高級感漂う建物に圧倒されながら、ドアチャイムを鳴らす。すぐに東雲翔子が出迎えてくれた。


「お待ちしていたわ、鳴海くん」


東雲の優雅な微笑みに、太郎は思わずドキリとする。


「こ、こんにちは」


玄関に足を踏み入れた瞬間、


「太郎お兄ちゃーん!」


元気いっぱいの声と共に、あかりが飛び出してきた。太郎は慌てて腕を広げ、あかりを受け止める。


「わっ!あかりちゃん、元気そうだね」


東雲が苦笑しながら説明する。「ごめんなさいね。朝から『太郎お兄ちゃんが来る!』って言って、はしゃいでいたの」


あかりは太郎にしがみついたまま、顔を上げて言った。「ね、ね、太郎お兄ちゃん!私、もう元気だよ!」


「よかった」太郎は優しく頭を撫でる。「でも、まだ無理しちゃダメだよ」


東雲があかりの肩に手を置いた。「あかり、まずはお礼でしょ?」


「あっ!」あかりは太郎から離れ、真剣な表情で深々と頭を下げた。「太郎お兄ちゃん、このあいだはありがとうございました!」


その一生懸命な姿に、太郎は思わず笑みがこぼれる。


「いいんだよ、当然のことをしただけだから」


太郎は東雲の方を向いて続けた。「むしろ、こうして家に招待していただいて、申し訳ないくらいです」


東雲は柔らかな笑みを浮かべる。「そんなこと言わないで。大したおもてなしはできないけど...」


彼女の後に続いて、太郎はリビングへと案内された。


高級感漂う内装に、太郎は思わず息を呑む。シックな色調のソファやテーブル、壁にかけられた絵画など、どれも一目で高価なものだとわかる。


(すごい...ここで暮らしてるのか)


太郎が部屋を見回していると、東雲が茶菓子の載った銀のトレイを持ってきた。


「あの、両親は...?」太郎が聞くと、東雲は少し意味深な笑みを浮かべた。


「今日は二人とも帰ってこないの。つまり...」


「つまり?」太郎は首を傾げる。


東雲は顔を近づけ、小声で言った。「私たちだけよ」


「えっ!?」太郎は思わず息を呑む。


東雲はくすくすと笑う。「冗談よ。でも、鳴海くんの反応、面白いわね」


太郎は慌てて咳払いをする。「からかわないでくださいよ!」


「でも帰って来ないはホントよ。お泊りする?」東雲のからかいが加速する。


太郎は顔を真っ赤にして慌てて否定する。「そ、そんな...」


そんな二人のやり取りを、あかりが不思議そうに見ていた。


「ねえねえ、太郎お兄ちゃん!一緒に遊ぼう!」


太郎は微笑んで言った。「いいよ、何して遊ぼっか」


あかりの顔が輝く。「やったー!」


東雲は少し申し訳なさそうに太郎を見る。「ごめんなさい。あかりったら...」


太郎は優しく答える。「あかりちゃんと遊ぶのは楽しいですから」


東雲の表情が柔らかくなる。「鳴海くん、本当に優しいのね」


その言葉に、太郎は思わずドキリとした。二人の視線が絡み合う。


「ねえねえ、太郎お兄ちゃん!」あかりの声で我に返る。「これ、一緒に見よう!」


あかりが持ってきたのは、家族アルバムだった。


「え?見ていいんですか?」太郎が東雲に確認すると、彼女は少し照れたように頷いた。


「ええ、構わないわ」


三人でソファに座り、アルバムを開く。幼い頃の東雲とあかりの写真に、太郎は思わず顔がほころぶ。


「わあ、東雲先輩も小さい頃からかわいいですね」


「もう...」東雲が少し俯きながら言った。「でも、ありがとう」


あかりが得意げに言う。「ね、ね、お姉ちゃんかわいいでしょ?」


太郎は微笑んで頷く。「うん、とってもかわいいよ」


アルバムのページをめくると、東雲とあかりが水着姿で二人仲良く微笑む写真が現れた。


「あっ!」あかりが嬉しそうに声を上げる。「去年の夏休みに行った海!」


「み、水着...」太郎は東雲の水着姿に動揺しボソッとつぶやいた。


「あまりしっかり見ないで」東雲は恥ずかしそうにしている。


そんな二人をよそに、あかりは得意げに説明を始める。「うん!このとき、私、泳ぐのまだ怖かったの。でもね、お姉ちゃんが手を引いてくれて、一緒に海に入ってくれたんだ」


東雲は優しく微笑みながら、「そうね。あかりが『怖い』って言ってたから、ずっと手を繋いでたわね」と付け加えた。


「東雲先輩って、やっぱり妹思いですね」太郎はアルバムから少し目線を外し言った。


東雲は少し照れくさそうに、「当たり前よ。大切な妹だもの」と答えた。


時間が過ぎるのも忘れ、三人は和やかな時間を過ごしていた。太郎の胸の中には、温かな感情が静かにうねりを上げていく。


東雲が立ち上がり、優雅に微笑んだ。「さて、アルバムを見るのも楽しいけど、本日のお礼のメインのご飯を用意してくるわね」


東雲はキッチンに向かいながら、太郎の方を振り返った。「鳴海くん、あかりをお願いね」


「はい、任せてください」太郎は頷く。


東雲がキッチンに消えると、あかりが太郎の腕にしがみついてきた。「ねえねえ、太郎お兄ちゃん!もっと遊ぼう!」


太郎は優しく微笑む。「うん、いいよ。でも、あまり騒ぎすぎちゃダメだよ。お姉ちゃんの邪魔になっちゃうから」


「うん!わかった!」あかりは小さな声で答えた。


リビングに二人きりになった太郎は、キッチンから聞こえてくる調理の音に耳を傾けながら、不思議な高揚感を覚えていた。東雲の手料理を食べられるという期待と、この家族的な雰囲気への戸惑い。様々な感情が胸の中でぐるぐると回っている。


(東雲先輩の料理か...どんな味なんだろう)


太郎は、キッチンから漂ってくる香りに、思わず顔がほころんだ。この日の出来事が、彼の心にどんな変化をもたらすのか。それはまだ誰にもわからない。ただ、確かなのは、太郎の青春物語が、また新たな1ページを刻もうとしていることだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ