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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異様な料理店

作者: 主道 学

 柔い日差しが降り注ぐ街だった。私は初めて来た街だが、なんだかとても懐かしい。友達とはぐれて一人。道の真ん中で佇んでいた。ただ、道に迷っていた。

 日差しを遮る薄暗い建物が建ち並び。私は日陰を纏っていた。まるで、夜中の道を歩く。迷子の子犬のように。

 静香とはどこではぐれたかも。今や記憶から遠ざかり。すでにこの街の名も忘れていた。電車の中で静香から聞いた街の名は、今では頭の片隅からも一欠けらさえも消えている。

 冷や汗が浮きでては額を腕で拭う。

 夏休みに友達の静香と遠方へ向かったが、一人この街にぶらりと足を向けていた。今では祖母の家までの長い道のりを思うと心細さに拍車がかかった。思い出したかのように、私はこの街へと来てしまっていた。

 一人。ひたすらに街を歩き続ける。

 次第にそれぞれの建物から明かりが点いていく。日陰を纏ったせいでわからなかったが、今は何時だろうか。

 お腹も空いて、道に迷って、心細さで近くの建物に入った。

「いらっしゃいませ」

 真っ赤なエプロンと真っ赤なキャップの店主が、出迎えた。

 そこはカウンター席しかなく。どこか異様な料理店だった。お金も少しはあるので、幾つか頼むと、店主は大掛かりな料理を作りだす。

 魚の目玉や唇の野菜炒め。どう見ても人間の幼児の腕が生えた煮物。金魚の姿が乗った得体のしれない刺身。

 誰もいないはずの席から、「ここの料理は美味しくて、毎日来ているんだよ」と、声が聞こえる。

 私は悲鳴を上げ、お金を置くと一目散に料理店から逃げていった。

 闇雲に道を走っていると、一人の青年にぶつかった。

 「痛てて」と顎を摩るその青年は、私の頭が青年の顎に当たったようだ。その青年は年も私よりも上のように思えた。

 私の顔を見ると、はにかみながら「大丈夫?」と溌剌な声をだした。

 青のジーンズ姿の彼は、水色のポロシャツから地図を取り出して、この街からの出口を探しているかのようだった。

「あの……。あなたもこの街で迷子に?」

「ああ。そうだよ。もう一日中歩きっぱなしだ。お腹も空いて、財布も空で……」

 私はあの不気味な料理店を思い出し、気分を悪くすると、顔が青味がかったせいか。青年が心配した。

「大丈夫か? 俺より君の方が痛かったんじゃ?」

「ううん。でも、この街から出られるのかしら?」

 青年は地図を広げているので、この街の迷路を出口までわかるはずではないだろうか。

 すると、

「いや。知らないんだ。地図が古くてね」

 私と青年は二人で街の出口を探した。

 青年の名は、蓮野井。

 大学生で友達と二人で、この街の知り合いを探しに来たといった。

「もう一人は同じ大学の悪友さ」

 蓮野井はいきなり笑い出した。

「あいつ。確かにとうに死んでいるはずなんだ。ただ、この街が懐かしくてね。死んだ知り合いを探したくて、もう一度来てしまった」

 私は妙に納得し、

「私もよ。とうに死んだおじいちゃんの家がこの街にあったみたい。母から聞いた。それで懐かしい感じがしていたんだ」

「この街って、一体なんだろうね。死者が集うような街じゃないみたいだしね」

 お腹が空いて、歩くのも億劫になってきた。

 もう心細さはないが、疲れて、歩く気力がなくなった。

「仕方ない。あの店に入ろう。奇跡的に千円札だけ胸ポケットに仕舞ってあったんだ。これで、財布は本当に空っぽだね」

 黄泉という名の暖簾が垂れ下がる店だった。

 私は気分を悪くしたが、店の匂いは良かった。

 店内には、客がいないが、またもやカウンター席だけで、調理人はまともと表現できる恰好だった。

「なんにしやしょう」

「適当に。千円で二人分」

「あいよ」

 調理人は手際よく。ネギをみじん切りにし、茹で上がった蕎麦の上に置くと、カウンター席に二人分置いた。

「やったー、腹ごしらえ」

 私も安堵の溜息をついた。喜び勇んで箸に手を付けた。

 青年は早速、蕎麦を啜り。

 腹も膨れ、しばらくまた街を迷うことにした。

 道中、建物の外に占い小屋があった。

「この街に来たのかい。もう出られないよ」

 老婆の占い師が客引きのような素振りで、話し掛けていた。

「え? そうですか。やっぱり」

 私は蓮野井の言葉に首を傾げたくなった。

「いやいや、お前さん。そうじゃなくて、そっちの娘さんに言ったのさ」

「え、私?」

 占い師の占い小屋へと寄ると、異様なカードが並べられたテーブルに一つのカードがあった。

 見たこともない。街のカードだった。

「ほれ、ここは地獄の一端じゃ。この街は実はな死者が集うだけの場所なのじゃ」

「死者? 私、死んだの?」

 私は怖くなって、静香と両親の顔を思い出していた。

「うーむ。死んでいないようだね」

「そうでしょ。俺だけさ」

 占い師は、それでもこの街からは出られないと言った。

 二人だけで、この街を永遠に彷徨う。

 そんなことが、有り得るのだろうか?

「お金は、少しだけあります。なんとか出られないの」

 私は財布を取り出した。

 私はこの街から本当に出れないのか占いをしてもらいたかったのだが、占い師は首を縦に振ったが、席を立った。腹の塩梅はどうか。ともいった。

 蕎麦だけではと、まだ小腹が空いているので、占い師について行った。


 今度は、異様な料理店だった。

 そこで、青黒いエプロンの調理人は、得体の知れない。黒っぽい炭のような料理と炭と泥で覆われた腐った魚を出してきた。

 占い師は普通に食べるが、私たちは箸にすら手を出さなかった。

「まあ、この街で生きるためには食べないといけないが、無理なら蕎麦など天ぷらなど、食べた時のあるものにせい」

 私はお金を支払うと、占い師は来た道を戻れといった。

 そうだ。

 来た道を戻ればいいんだ!

 

 蓮野井と別れ。

 来た道を一生懸命に思い出しながら走る。

 

 それぞれの建物から明かりが消えてきた。

 柔い日差しからの日陰が戻ってきた。

 私は日陰を纏い。

 

 駅に辿り着いた。

 後ろを振り向くと、建物からは異様さが消え。

 日差しを被る。

 食堂街の姿になっていた。


 駅の周辺も道路もおぼろげに見える。

 駅構内に入ると、おぼろげな姿から元通りに戻って来た静香が手を振って私を迎えた。

「よく生きて来たね。きっと、あまり悪いことをしていないんだね。あそこでは大罪人は様々な食材になり、罪人はそれを食す。あの世でも食物連鎖があるんだって……最後には神が街ごと壊すって、昔、おばあちゃんから聞いたの」

 私はあまり罪のない人生を送っていたということだった。

 それは、それでいいのだろう。

 死者になっても、お互いに食い合うのは、性に合わない。

 別に苦しくもなく。

 死んでも辛いことは無い。


 ただ、罪をしないだけ。


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