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模型

 鉄オタとか鉄ちゃんとかそう言う単語自体が流行るか流行らないか位、ただ単に「電車好き」とか「鉄道マニア」が一般的だった時代。

 とある鉄道マニア、タカシさんが趣味でジオラマを作っていた。地元の会社に勤めていたが、実家暮らしで倉庫を所有していた。その倉庫で趣味のジオラマを作っていた。

 完成したジオラマは田舎の風景の電車のジオラマだった。無人の駅、ぽつぽつとある一軒家、田んぼに囲まれて、そして一般的な遮断機がある。古いタイプの電車の模型に電気を入れると無人の駅から走り出して、ぐるりと一周するというギミック付き。

 だがこのジオラマは参考にした風景はどこにも存在しない。タカシさん本人、思いつくままに作った代物らしい。写真等といった参考になる物を一切見ずに作り上げた。けれども田んぼや木々の緑の表現や家屋や無人駅などの施設出来栄えが良く、誰かに自慢できる位の仕上がりに満足していた。その出来栄えに携帯で写真を撮って保存していたり、興奮のあまりに家族にも見せたりしていた。家族もかなりの出来栄えに感心していた。

 だからそのジオラマは倉庫でしばらくの間置く事を許された。ただ一つ条件としてジオラマを何処かに置かせてもらえるまでの間置かせてもらえるまでと言う期限付きだった。ジオラマは、ホコリ等が被らないように作った模型の木々が折れないように細心の注意を払って薄い布を被せて、探す日々を送っていた。

 それから2か月経った頃の事。

 タカシさんがジオラマの手入れをしようと薄い布を取った時の事だった。


「痛っ!」


 薄い布を持っていた手を見ると指を切っていた。

 模型を疵付けないように慎重にゆっくりと薄い布を取っていたのに上げた途端に指に切り傷が出来たのだ。

 何処で切ったのだと思いつつもそのまま薄い布を取って改めてジオラマを確認をした。

 当然被せた薄い布のお陰でホコリは被っていなかった。なのにジオラマの踏切付近に多くの虫の死骸を見つけた。

 まぁ、流石に薄い布一枚では潜り込んだ虫の侵入を防ぐ事は出来ないだろう、と考えたタカシさん。しかしガラスのショーケースの様なものは無いし、高額だから簡単には買えない。だから虫の侵入はどうしようもないと考えてしばらくの間は薄い布一枚で凌ぐ事にしたのだ。

 ただこの時、一つ気になった事があった。


「何で踏切のとこだけ・・・」


 以来、ジオラマの掃除や点検の為に1カ月に1度に確認していたのだが、どういう訳か踏切の辺りだけが多くの虫の死骸がある事がしょっちゅうだった。

 そんな奇妙な事が起きつつ、ジオラマに興味を持った知人がいた。タカシさんは携帯に保存していた写真をその知人に見せた。するとその知人は無表情になり固まった。


「どう?」


 タカシさんは出来の良さに固まったと思ってそう言った。だが知人の口から帰ってきた言葉は違っていた。


「タカシ、あの山、登った事があるのか?」


「え?」


 知人が言うには自分の地元の風景によく似ていたのだ。登山可能な山から見るとこうした風景が見れるのだが、今では登山道が廃れて、安全の為に立ち入り禁止になっていた。こうした風景は当時登山している人が写真を取ってアルバムに入れている事があるのだが、知人はこのジオラマはその風景を参考に作られたと考えていたようだ。

 しかしタカシさんは何も見ずに作り上げたジオラマである事を知人に説明した。

 そのはずの田舎の踏切のジオラマだった。


「でもよくできてるよな~。ここの駅とかも似てるし、ここの魔の踏切とかも・・・」


「魔の踏切?」


 聞けば知人の地元では有名な魔の踏切で、一年の間に必ず人か動物が踏切の所で跳ねられて死ぬそうだ。何もない田舎だから元々踏切は無かったらしいのだが、人が跳ねられる事実があるし、頻度も多いという事で踏切が設置されたそうだが、それでも毎年その踏切で人か動物が命を落とすらしい。

 その話を聞いたタカシさんはジオラマの踏切辺りでたくさんの虫の死骸の事を思い出す。

 何となく気持ちの悪さを覚え始めていた時、知人の人から声が掛かった。


「自分の所も置くような場所はないから無理だけど、何も見ずにここまでできるのはそうないもんだと思う。だから他の知人に頼んで飾れるところを探そうと思うけど、どう?」


 確かに参考となる物を見ていないのにここまでできるというのはそうない物。だからこのまま残してもいいかも。

 そう考えてきたタカシさんは知人に頼んで他に飾ってもらえる場所が見つかるまでこのまま置く事にしたらしい。

 そしてしばらく経った頃。

 実家ではある事件が起きていた。休日の時、実家の中で弟さんが大きな叫び声で何かを言っていた。気になって弟さんがいる居間へ行った。

 弟さんは実家の整理の為に本棚を整理していたのだが、アルバムを持って震えていた。


「兄ちゃん、家族写真が・・・」


 アルバムに載っていた家族写真の弟さんの顔が切り取られていて無くなっていたのだ。面食いになっていた写真はカッターナイフのような鋭い刃物でズタズタに切り裂かれるような形で乱暴に弟さんの顔写真が無くなっていたのだ。

 それを見たタカシさんは頭の中であのジオラマが過った。

 何となく焦りを感じたタカシさんはジオラマのある倉庫まで来て、薄い布を取って確認した。


「・・・・・」


 絶句するタカシさんの目に映ったのは、踏切辺りにたくさんの虫の死骸と共に、切り取られた弟さんの顔写真が踏切の中にあった。タカシさんは慌ててその写真を拾い上げた。その時に


「痛っ」


 指に切り傷が出来た。

 その切り傷から出た血が拾った弟さんの顔写真に付いてしまった。

 その写真を見たタカシさんは何とも言えない気持ちの悪いものを感じつつ倉庫を後にした。

 その後、タカシさんはずっと残していたジオラマを撤去した。話を進めていた知人には謝罪して、保存していた写真も消したそうだ。乱暴に切り取られた弟さんの写真と家族写真は近くの神社に納めたらしい。

 それ以来、タカシさん本人も家族も何事もなく暮らしているらしい。ただ、あの一件以来ジオラマ制作には着手しなくなった。

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