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第8話 素粒子の災厄

「さて、この世界で起きている人為的な大問題を話す前に、簡単にこの世界の社会構成について説明させてほしい。こちらの世界では地球のように国家といった区分けはなく、人類全体が本国と周辺の小惑星に住んでいる。我々の社会における職業や組織は、大きく分けて3つ、軍、政府、そして研究だ。私たち世界の人間は、成人するとこの3つのどれかに所属することになる。どの所属にするか選ぶのは本人だし、希望があれば所属も変えられる」


宇宙都市マヌエアリーフは一枚の葉っぱのような形状の板に、いろいろな形状の建物が所狭しと立ち並ぶ構造だ。そして建物の高さが、上流層・中流層・下流層の人達が働く場所そのものとなっている。僕が居る場所は軍本部建物の高い場所、つまりこれから説明される内容は、軍の上位に位置づけられるのだろう。



「で、本題だが……母星(マザー)は30年ほど前、私がちょうど産まれた頃に、地表の首都で生じた災厄が原因で人間が住めなくなってしまった。ただマヌエアリーフ、通称『リーフ』はすでにマザーの衛星軌道に建造され宇宙進出の拠点となり始めていたのが幸いし、マザー地表に住んでいた人類の一部はリーフや周辺の小惑星に避難することができた。しかし大半の人類は脱出できなかった。地表に取り残された人たちがどうなったのか、今も調査中だ」


僕は以前、ミガディさんから母星(マザー)に人が住めなくなった事を聞いていた。しかし今初めて聞いたアイトさんは、その壮絶なこの次元の災厄に驚いた顔をしている。


そこで一度説明を切り、ミガディさんが映像を操作する。すると画面からリーフの姿が消え、マザーだけが拡大される。


「災厄が起きる前のマザーを映そう」


灰色の雨雲が消えると、そこには地球と大地の形がまったく異なる、地球に色合いが似た美しい惑星があった。大地は緑や茶色もあるが、多くが白い。白は人工構造物なのだろうか? また海の青は地球より薄く、水色に近い。多分、マザーを照らす恒星の波長や、大気成分などが影響しているのだろう。しかし生命体の住む惑星は、宇宙から見ると本当に美しいのだなと実感した。


「マザーに起きた災厄故というのは、機能性パウダーを開発していた研究所の事故だった。当時の調査記録によると、首都にあった45箇所の様々な研究所が同時に爆発し、有毒な粒子が大気中に放出されてしまった」


アイトさんも僕も、少しの間マザーの美しい映像に見入っていた。しかしミガディさんの説明と一緒に、突然に地表のとある場所で赤い火花が弾け始めた。そして火が消えると、そこを中心にどんどん灰色の霧が溢れていく。その霧は止まることなく、灰色はゆっくりと周囲を灰色に染めて行く。


「30年前のマザーは中央集権というか一極集中というか、重要な施設やエネルギー供給などが首都にすべて集まっており、その周辺に農地や住宅地が広がっている。爆発事故は首都にある研究所でのみ起こった。すぐに当時の軍が出動したが、爆発が止まるどころか、さらに有害な毒素が吐き出される一方となった。現場の軍人たちは大きな被害を受け、無人機もまともに稼働できなくなったという。


状況を重く見た政府と研究の上層部は、爆発した研究所周辺を空間シールドで覆ったが、そのシールドさえ無効化され、首都は完全に機能不全となってしまった。首都から一斉避難となったがそれでも事態は収まらず、事故発生から一週間後には首都全体が、そして最終的にはマザーのほとんどがその粒子に包まれてしまった」



ミガディさんの言葉通りに、画面のマザーもまた美しい景色がどんどん灰色の霧に包まれていく。まるで噴火した火山のように、首都から灰色が吐き出され続ける。惑星を包み隠している物体は雨雲かと思っていたけど、まさかこれすべて有毒粒子なのか!?


確かに雲と違って上空だけではなく惑星の地表まで、重力圏内すべてをその粒子が完全に包み隠してしまっているようだ。


「当時、総人口の88%の人類はマザーに住んでいた。この爆発事故の際に、マザーから脱出できた人類はほんの僅かだった。事故前からリーフや小惑星に住んでいた人口と、事故後に母星から脱出できた人口をあわせても、当時の総人口の15%程度に過ぎない。そして母星から恩恵を失ってしまった我々も、未だマザーを復興することが出来ずその恩恵を受けられないために、リーフや周辺の小惑星に住む人口は、この30年の間に徐々に減少してしまっている」


45箇所の同時爆発、そして当時の総人口の85%が脱出できなかったという、事故の内容に驚きながら画面に映るマザーを凝視する。これほどまで大量の粒子が30年に渡って消えること無く撒き散らされ続けるなんて、ただごとではない!



「ちなみにこの次元の世界は『パウダー』と言われる素粒子技術が進んでいる。物体だけでなく情報から何からすべて素粒子化し素粒子運動につなげる。地球とこの次元を行き来する転移もその素粒子運動を応用したものだ。私は軍人だから申し訳ないけど学術的な説明はできない」


科学技術が進んだこの世界がいう素粒子(パウダー)とは、地球で言えば量子力学と波動の学問をさらに進歩させたものだろうか。しかし惑星を覆い尽くすほどのパウダーを生成する技術は、やはり地球人である僕にはちょっと想像つかない。


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