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第49話 因縁

アーネイが研究棟高層階にて融合型エーテルボディ『アプス』を取り込んでいたときには、その地下の到着ゲートにはサノ、ミガディ、そしてアイトの到着していた。たった3名による敵本拠地への奇襲、となれば敵拠点の最大重要部分の占領もしくは破壊が最も効果的な戦略となる。


軍大佐として、独立決裁権を有し、そして誰よりも現場での経験が長いミガディは、ガバナー側のエネルギー供給源を占領する役割を請け負った。空間だけでなく地中の様々な振動を感知できる最高の空間把握能力を有するアイトは、ガバナー最高責任者ニコオーレグの居場所を調査する役目だ。そしてその2人をフォローするため、サノは敵の注意を引き付ける陽動役となった。


囮となったサノは、白の王宮にある転送室に到着すると、まず通信ラインを完全に破壊した。サノはテロ活動などやったことはなかったため、ビルに立てこもった有名なテロリスト映画の行動を真似たのである。とはいえサノにこの次元の建物の構造などわからない。だから目に見えたケーブルや重要そうなボックスを破壊しまくった。時に冷却ガスや水道管なども破壊してしまうが、陽動目的なのであまり気にせずに次々に破壊行為を続ける。


ガバナー側のパウダー技術やエーテルボディ開発が行われている研究棟は地下2階、地上4階で、横に広い建物だった。ここでは最上階でパウダーの研究を、そして1階ではエーテルボディの生成が行われていた。転送室は地下1階にあり、ミガディとアイトは早々にこの研究棟から外に出ている。サノだけが棟に残り、まず地下1階の転送室を中心に、破壊行動を開始した。



ガバナーはパウダーを自由自在に操る技術をもっている。その研究内容や応用範囲は、マヌエアリーフ研究部とは比べ物にならない。さらにガバナーはマヌエアリーフに内通者を送り込み、常に自分たちが優位に立つように万全の体制を敷いていた。その内通者の代表が、政府調査機関ヘリオスである。


先のマザー地表への一大探索作戦「グランドスイーパー」ではヘリオスのメンバーも第5世代のエーテルボディとなって多くが参加した。そして多くのエーテルボディがガバナー側が用意していた迎撃兵器「ブラックパウダー」を食らって、ボディが汚染され使用不可となっている。


しかしヘリオスのメンバーたちは、事前にそのブラックパウダーのキャンセル細胞を導入しており、エーテルボディは汚染されなかったそしてそのままヘリオスたちがマヌエアリーフ内部で軍と政府を掌握するためにクーデターを決行した。軍のナンバー2と政府高官が秘密裏に協力していたその計画は完璧に実行される、そのはずだった。


ところがスピルダラー大統領とロヴァル研究局長という政府と研究のナンバー1同士が、このガバナーのクーデターを完全に防ぐことに成功する。さらに乾坤一擲の策として、たった5人の精鋭によるガバナーへのカウンタークーデターとして奇襲を仕掛けた。ガバナー側はまだその動きを把握できておらず、そもそもマヌエアリーフ側による本拠地奇襲を想定していなかった。組織だった抵抗が行われる前に、マヌエアリーフの毒牙はその体内に深く突き刺さろうとしていた。



俺の名前はアーネイ、政府調査機関ヘリオスのチームリーダーを務めている。ヘリオスはマヌエアリーフで活動しているが、もともとはガバナー研究室のために作られた組織だ。エーテル体の用途を探求するという名目で発足した組織だが、実際はガバナーのボスであるニコオーレグ様に便宜を図るのが裏の仕事だ。軍と研究の予算を決める省庁にもシンパを作る事で、ガバナー研究室には常に予算だけでなく政府の情報もたくさん流されていた。


俺はもともと軍人で、軍用エーテルボディの候補者だった。まぁそこでいろいろあって、軍のダランイーバ様からニコオーレグ様を紹介された。俺のような下っ端軍人でもその偉大な研究者の名前は当然知っていたが、80歳近いはずのニコオーレグ様のオーラに圧倒された。隣に綺麗な女性を侍らせ、パウダーの蔓延する地上で無傷の帝国を築き支配する。自分の思い通りに惑星マザーを支配する頂点!この俺、アーネイは天才科学者ニコオーレグに惹かれたのではない。最強の独裁者であるニコオーレグ様に惚れ込んだのだ。いい、すごくいい、最高! ニコオーレグ様は金も暴力も権力もすべてその手に掴んだのだ。男として最高に憧れる。品行方正なぞクソっ喰らえだ。強いものがルールを創る。強いものが世界を支配する。それが群れの掟。


そのうちニコオーレグ様も寿命がくる。その時、俺がその席を奪う。そのために強さが必要だ。強さとは暴力だけではない。頭脳と権力、実力、実績、いろんな物が必要だ。だからどんな仕事でも俺はこなしてきた。惑星ミヌエトで、お馬鹿なヒス女を煽てながら、ガバナーの為に俺は尽くしてきた。将来、それは自分のものになるからだ。俺はこうした実績を認められて調査機関ヘリオスの次席にまで出世した。将来設計は順調だった。なのに、ヒス女が地球から呼び寄せた一人の人間に、俺の計画は台無しにされた。その憎たらしい相手が、俺の目の前にいる。


「サノ、テメェをあの惑星で始末してやりたくて仕方なかった。軍閥のミガディが見張っていたから出来なかったが、それがなかったらとっくにテメェはあの惑星の土になっていた。やっとだ、やっとこれでテメェを叩きのめせる。おっと、前みたいに逃げんなよ。俺は調子に乗ってイキがってるテメェを正面からぶち殺したいんだからな。だからわざわざこうして来てやってたんだ」



タウズン博士によって僕はミガディさんとアイトさんとともに、惑星マザーにおける敵の本拠地に転送されてきた。2人はそれぞれエネルギー拠点と敵の大ボスをターゲットに、すでに別行動で動き始めた。僕の役割は2人が動きやすいように、あえて目立つ行動を取るという、いわば囮役だ。ようするに敵が嫌がることをすれば良い。映画ダ●・ハードの主人公の気分だ。ふふふふふ。人に迷惑をかける行為がこんなに楽しいとは。タウズン博士も僕のこんな性格を見込んで囮役を指名したのかな。


ということで重要拠点であるはずのこの建物の破壊を楽しんでいると、因縁の相手が目の前に現れた。人の名前を覚えるのが苦手な僕でも、その名前を忘れていない。惑星ミヌエトの墜落宇宙船から続く腐れ縁になってしまったけど、そろそろその縁を切らせてもらおう。


さて建物の廊下で僕の前に現れた憎き相手アーネイだけど、なぜか僕に攻撃を仕掛ける前に力説している。ずいぶんと余裕だな。僕は恨み満タンで殺る気満々なのに。ただ不思議とここまで、彼と会話をする事がなかった。惑星ミヌエトでは同じフロアを探索していたけど、そのフロアが迷路形状で膨大な広さだったため、アーネイに直接会うことはなかった。マザー捜索でもすれ違いばかりで、首都でちょっと戦ってコケにしたけど会話そのものはしていない。多分これが最後なので、僕は彼と積もる話をしたかった。戦闘プランもあるので、僕はとりあえず構えていた長巻を一旦引っ込めて、軽くお辞儀をする。


「久しぶりです、アーネイさん。そういえばこうして二人っきりで会話をするのは初めてですよね」


「トボけた事言いやがって、なんだ?今さら媚うって命乞いか?」


表情筋がほとんどないエーテルボディなのに、アーネイの毒々しいドラグーンボディから表情が読み取れる。これもボディを使いこなしているという事なんだろうか。しかしこの人、なんでこんなに攻撃的で他人を見下しているんだろう。惑星ミヌエトだと探索チームのリーダとしてあのサギ女神から信頼されていたらしいけど、この程度の人間なのか…… ああ、こんな品性だからあのサギ女神に信頼されてたのかもな。


「テメェとは最初からウマが合わなかった。テメェをひと目見た時からムカついてしょうがなかった。ミヌエトでもリーフでも俺の計画をぶっ潰しやがって、腹が立って仕方なかった。ここでテメェをようやく始末できるが、もっと早くに殺しておくべきだった」


「あれ?アーネイさんってミヌエトでメデューサさんに負け続けて、リーフでもミガディさんに負けてますよね。その程度の実力で何でそんなに威張ってるんですか? それにアーネイさんの計画が失敗したのはご自身の能力不足が原因ですよね。それを僕のせいにしないでほしいなぁ。実力も能力も足りないのにそれを認めずに人のせいにしている限り、アーネイさんは今後も成功しないと思いますよ」


僕が正直な感想を吐露すると、アーネイさんは怒りのオーラを漂わせ始めた。短気で自分の能力不足に自覚がない所も、あのサギ女神にそっくりだよな。類は友を呼ぶの言葉通り、アーネイさんもサギ女神も、自分の失敗を最後まで認められない性質なんだろう。だから僕程度に、こうして手玉に取られるんだよね。


「言いたい事はそれだけか?じゃあ望み通り殺してやるよ」


強そうな言葉を吐きながら、アーネイの禍々しいボディは体中から黒い炎を吐き出す。首都で戦ったときのドラグーンボディは赤い炎だったけど、その上に侵食型エーテルボディをまとった今は炎もパワーアップしているようだ。いびつな形を彩る炎を纏いながら、アーネイは両手をついて四脚の姿勢を取る。開いた口からは唸り声が聞こえ、上半身の鱗が迫り上がっていかにも戦闘態勢といった感じだ。ただ、準備が遅いんだよな。アーネイとしゃべっている間に僕はすでに攻撃準備を終わらせたし、アーネイが戦闘準備をし始めた今この瞬間、僕は攻撃を開始しているというのに。僕の得意技は不意打ちで、今この会話は不意打ちするための状況づくりに過ぎない。アーネイはホント、実力だけじゃなく考えも状況判断も甘いなぁ。隙の甘さはあのサギ女神といい勝負だ。



アーネイが四脚姿勢を取って戦闘準備をしている間に、僕は自分のエレメントボディ『アスラ』の副腕を使って矢を放っていた。アスラは腕が6本あるけど、副腕の4本はアーネイと会う前からすでに弓を構えていて、さらにアーネイにはそれが見えないように背中に隠していた。主腕は長巻を持っていたけれど、アーネイと話をする際にわざと構えを解いた。これで僕が会話している間は無防備だとアーネイに勘違いさせたのだ。


だからアーネイには僕が矢を射たのが見えなかっただろうし、エーテルボディの空間感知をしていても指を動かしただけとしか思わなかっただろう。ちなみにエレメントボディは数十メートルの短い距離で空間転移できる能力を持っている。目標の方角を向いていなくても、放たれた矢を空間転移させてターゲットに当てることが可能なのだ。


僕の背後で放たれた矢は、空間転移によって狙った通りにアーネイの上顎に突き刺さった。口から矢が突然生えたアーネイは、は?という疑問の声を上げるが、そこにもう一組の副腕からも矢を放ち、今度は下顎に着弾する。口から斜め上下に2本の矢で貫かれたアーネイは口を閉じることが出来ず、滑稽なほど慌てているし、その姿は非常に間抜けである。アーネイへの視線はそらさないものの、その愉快な姿に僕もつい笑ってしまった。いろいろアーネイには含むものがあったけど、この不意打ちで僕の心は清々した。


機先を制した今、あとはアーネイにとどめを刺すだけだが、近付いた時に自爆される恐れもあるし、せっかくだからタウズン博士から預かった秘密兵器を使ってみる。


僕は超小型の次元爆弾が鏃に備わった矢を取り出し、再び空間転移を使ってアーネイの真上から胴体に向けて射抜いた。今使った次元爆弾は、惑星襲撃時に人工衛星ハイブレイザーから投擲された爆弾の極小版で、作用範囲は1メートルにも満たない。とはいえ惑星の大気を吹き飛ばした爆弾の威力は恐ろしいわけで、念のために僕は攻撃と同時に大きく距離を取った。


アーネイの鱗に鏃が衝突した瞬間、次元爆弾が発動しゼロ秒で数万倍の体積を持つ直径1メートル弱の空間が形成される。超光速で1メートルの空間が拡大圧縮することで、閃光と高温が生まれ、その次に衝撃波が周囲に伝わり、最後に轟音が響き渡る。結構距離を離したつもりだったけど、次元爆弾によって生じたソニックブームが周囲一体に広がり、僕のエレメントボディは思いっきり吹き飛ばされる。その最中に僕は叫ぶ。


「タウズン博士、次元爆弾強すぎですよ!」


次元爆弾といっても化学反応による爆発ではないため、放射能や爆轟など一切生じない。そしてほとんど重量のない大気の超圧縮運動なので、爆発時に発生する運動エネルギーも大きくない。それなのにアーネイのドラグーンボディは跡形もなく消し飛び、周辺に落ちた残骸も焼け焦げていた。直径1メートルの球状で炸裂した時限爆弾は、その10倍以上の空間を完全破壊した。廊下は床も壁も球状に抉られており、表面が溶解している。エーテルボディは何種類もあるが、最も高熱に耐えられるドラグーンボディが、真っ白な灰を残して散乱しているのだ。床をよく見ると多分頭部と思われる部位の破片が落ちているが、ほとんど白く炭化している。ドラグーンボディの中にいたアーネイの魂は消失したのかな? まあいいや。


しかしこの次元爆弾付きの矢、まだたくさんあるんだよな。誤爆しないように気をつけないと。

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