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第47話 メイの惑星襲撃

大気を覆っていた障害性パウダーと首都を守っていた反物質シールドはすでに最初の次元爆弾によって完全に消滅し、ガバナー研究所は30年前からまったく損傷のない建物と敷地全体を白日の下にさらけ出していた。その研究室の地下深くでは、一国を一基で賄えるエネルギー生産施設である核融合炉が今も稼働している。


ガバナーにとって最重要拠点である核融合炉は詳細な設置場所を秘匿された上で、外部からの攻撃にも耐えうるシェルタの中に格納されている。この核融合炉が世界各地にあるガバナー研究所の関連施設やパウダー発生源に現在もエネルギーを供給し続けている。この首都の地下にある核融合炉を一時的に停止させること、そして炉をマヌエアリーフ側の管理下に置くこと、これがタウズンからメイに与えられたミッションである。


バスティトの身体となっているメイはパラシュートを背負い、地上に向かう有人探査機の中にいた。首都上空だけではあるが、センサを含めたあらゆる機器を阻害する有害パウダーが一時的に消失した今、探査機が投入可能となった。探査機の目的は首都上空からの調査活動だが、メイの目的は首都の地中にある核融合炉への突入とその確保である。マヌエアリーフからそこへはマゼランポイントを使っても数日かかる。時間との勝負となった今、一番早い方法としてメイは衛星軌道から直接地上に落下する探査機に同行することを選んだのだ。


人工衛星軌道から投じられたメイの乗る有人探査機は直径20メートルほどの球体であり、そこに5人の調査員と様々な測定機、そしてエレメントボディ・バスティトが乗り込んでいる。探査機は地上から2千メートルの高さで逆噴射を開始し、落下速度を緩やかにする。探査機のペイロードベイが開くと、そこには狙撃型レールガンを構えたバスティトが姿を現した。


レールガンには指向性次元爆弾が装填されており、着弾するとその進行方向のみに長細い空間破壊を起こす。メイはこの指向性次元爆弾を使って、地下にある核融合炉から各地につながっているエネルギー供給路の遮断と、炉への進行ルートを掘削するつもりだった。


バスティトの頭部はケーブルだらけのヘルメットをかぶっており、そのバイザーには現在計測している地上の様々なデータが投影されている。探査機に備えられた地上観測センサや測定器が、マザー地表を様々な手段で走査し、温度や振動、電磁波などの物理量を逐次計測する。そのデータを探査機に同乗する5人の調査員が解析し、目標物であるエネルギー供給路や炉を守るシェルタらしき構造物の場所を推定し、バスティトのヘルメットに情報を送る。地表走査を開始してから約20分ほどで、6箇所のエネルギー供給路と、その経路の中心にある巨大な構造物が断定された。現在、有人探査機の高度は地上まで千メートルほどの高さだが、バスティトはペイロードベイから上半身を乗り出すと、レールガンを地面に向かって構え目標に向かってトリガーを引いた。


精密ジャイロと超小型スタビライザが備え付けられた指向性次元爆弾の弾丸は、大気中をまっすぐに進み、狙った場所に寸分違わずに着弾した。指向性の名の通り、弾丸である時限爆弾は着弾箇所から進行方向のみに長細い円柱型の空間を他多次元から転移させ、極限圧縮による圧力と高温で破壊・焼失させる。


一発目の指向性次元爆弾が作動し閃光を放った次の瞬間には、直径10メートル、深さ500メートルほどのトンネルが地面に穿たれていた。トンネルの壁面は超高圧と超高温が作用したことで融解や結晶化が生じており、まるでガラス表面のように滑らかだった。


指向性次元爆弾によって、核融合炉からパウダー発生源に繋がるエネルギー供給ラインの一つが完全に遮断された。それを確認する間もなく、バスティトは次々と空中からレールガンで狙撃する。地面には6つのトンネルが生まれ、首都にある核融合炉から世界各地に繋がる主幹エネルギー供給ラインはすべて切断された。


バスティトが供給ラインを狙撃しているその間にも、探査機のスタッフは、地下深くに格納された核融合炉の場所やそれを守るシェルタの構造を詳細に解析していく。結果、地上から深さ1500メートルの位置にシェルタがあること、そして炉に被害を与えずにシェルタ内に進行できるポイントを診断する。さらにシェルタを貫通するために必要な指向性次元爆弾の大きさが算出される。バスティトは指定された爆弾をコンテナから取り出すと、熟こなれた手付きでレールガンに装填し、再び探査機の外に身を乗り出す。


シェルタと核融合炉のある場所はガバナー研究所本棟あたりであり、スタッフが指定した侵入経路は研究所正門の真下、ちょうどニコオーレグの胸像が飾られていた場所である。研究所本棟には地下のシェルタに繋がる通路が当然あったが、その通路を探す手間も時間も惜しいし、通路は厳重なセキュリティや守衛が予想される。だからメイとタウズンは、進むべき道を力づくでこじ開ける事にしたのだ。


ガバナー研究所の正門に向けて放たれた先ほどより大きい指向性次元爆弾は、ニコオーレグの胸像を破壊しながらその地面に着弾した。閃光が走り、数秒遅れで炸裂音が響き、上空にいるバスティトの耳に届く。ヘルメットのバイザーを通して、直径30メートル、深さ1500メートルのトンネルが生成された事、トンネルがシェルタの隔壁を貫いた事、そしてシェルタの内部空間が見える事を確認する。計算通り、指向性次元爆弾は核融合炉のある場所への道を力付くでこじ開けたのだ。


バスティトはヘルメットとレールガンをペイロードベイの床に置くと、小型推進機と武器を背負い、空中へと大の字で飛び出した。大気を切り裂きながら地面へと自由落下し、地下に繋がるトンネルへの進路を見定めると、身体を弾丸のように縮め推進機を使ってその中に突入する。高熱と粉塵の入り混じるトンネルの中を落下し、シェルタの隔壁を通過する手前でパラシュートを作動させ、核融合炉のある内部の床に着地した。そこは膨大な広い空間と、はるか先に核融合炉らしき建物と、そして緊急警報を受けて急ぎ招集されたガバナー側のエーテルボディたちが待ち構えていた。


メイは核融合炉を保護するシェルタの中にはじめて入ったが、そこは想像以上に広い空間だった。ドーム状であるはずのシェルタだが、側壁が遠くかすれて見えない、それだけ広いのだ。また地面は土で覆われ、天井も高い。建物も核融合炉だけでなく、周囲に大小様々な倉庫や住居が見える。建物は核融合炉の管理者や作業者が住むための施設や燃料倉庫などだが、それらがまるで観光地村のような風景を描いていた。そして人間は誰一人おらず、いるのはガバナー側のエーテルボディだけだった。



たった一体で侵入してきたバスティトを、30を越える侵食型エーテルボディ『アプス』が取り囲みつつあった。このアプスはマザー地表のナーガを侵食したものであり、リーフ侵攻時にアーネイ達を失った今、ガバナーにとって最強の駒である。バスティトの身体は2メートルだが、ナーガを取り込んだアプスはその倍近くもの大きさを持っていた。そしてこの核融合炉の守備を任されているモリアが、エーテルボディ「ケルベロス」の姿で、アプスたちの前に陣取る。ケルベロスは犬の性能を混合させた第5世代のエーテルボディである。


この場で唯一、通常のエーテルボディであるモリアは政府調査機関ヘリオスのメンバーであり、かつて惑星ミヌエトでもアーネイと一緒に墜落した宇宙船の探索を行ってきた。先のグランドスイーパー作戦の際に、ヘリオスのメンバーは全員マヌエアリーフを裏切ってガバナーの一員として活動している。モリアもそのうちの一人であり、マヌエアリーフへの攻撃部隊ではなく、マザーでの守備を担当していた。


そして先程、マヌエアリーフでのクーデターが失敗したという連絡を受けて、モリアは念のために核融合炉を警護していた。まだクーデター失敗の情報は裏付けがない状況であり、上級幹部でも誤報か何かだろうと考えている者も多い。この核融合炉で待機しているモリアも、何かの間違いだろうと軽く考えていた。


しかし首都の反物質シールド発生装置とパウダー発生工場の信号が途絶えたという重大事故警報が発令され、モリアが驚愕している最中に、突然シェルタの天井がぶち抜かれて侵入者が現れたのである。警報と同時にこの核融合炉で保管されていたアプス34体が緊急出動し、その侵入者を取り囲むことには成功した。想像すらしていなかったこの核融合炉への侵入と、見たことのないエーテルボディらしき侵入者、その両方にモリアも驚いているものの、見れば相手はたった一体である。こちらは最新の第5世代エーテルボディの自分に、さらに戦闘力でそれを上回る34体のアプスを動員している。過剰戦力ではあるが、最重要拠点である核融合炉を守るためには慎重すぎても問題ない。


アプスたちに最初に命令した包囲が完了した。他に侵入してくる後続も見当たらない。それを確認したモリアが、侵入者への攻撃を命令しようと口を開こうとした瞬間、場を支配したのは侵入者の雄叫びだった。


「くっはー!叫べる!イイねぇ!最高だーーーー!」


侵入者であるエレメントボディ『バスティト』は、銀色に輝く勇ましき闘姫だった。人間の女性と猫をあわせたような美しくも凶暴さを感じさせる顔。目は吊り上がった猫の目で色は赤と青に光るオッドアイ、首から下は陸上選手のように鍛え抜かれた人間の体躯に銀色の被覆と白い猫の毛が複雑な模様を描きながら全身を覆う。スラリと立つその姿は神々しく、2メートルの長身には溢れんばかりのオーラを称える。しかし驚くのは臀部で、尻尾の代わりに金色の鱗を持つ大蛇が2匹生えていることだった。ヘビの体長は長く、今は鎌首をもたげて両肩の上に威嚇するように牙を向いている。


バスティトは背負っていたパラシュートと推進機器を無造作に脱ぎ捨てると、背負っていた一本の棒状の物を右手に掴んだ。それは身長と同じくらい長い銀色の槍で、どうやら尻尾の蛇がそれに巻き付いていたらしい。さらに槍の柄もまた細長いヘビがぐるぐると巻きついた形状をしており、穂先は大きく口を開けたヘビのような禍々しい形をしている。蛇づくしの侵入者は、周囲を取り囲むアプスを一望し、笑い声を上げる。


「おお!以前のアタシみたいなやつらがいっぱい居る!こいつらがアプスか!よっし、やるか!」


どんな獲物も噛み千切れそうな牙を見せながら、メイはニヤリとする。背中を丸め、まるで獲物に飛びつこうとする猫のように体を弓なりにしならせる。尻尾のヘビも鎌首をさらに持ち上げる。それがバスティトの戦闘態勢だった。


いきなり現れ、場の空気を読まずに乱暴な口を叩く猫女、しかしその女王のような圧倒的な存在感にモリアは無意識に一歩下がる。


(なんだあれは?データにないエーテルボディだ…… いや、俺はあれを知っている?以前、どこかで遭った。いや、何度もどこかで遭っている。誰だ?見たことない奴なのに、なぜこんなに体が怯るんだ?)


モリアがそう考えたのは刹那のことだった。右手に持っている大太刀を両手に掴み直そうとした時には、バスティトの狩りは始まっていた。バスティトは踏み込んだ音を置き去りにして、まさに音速を超えてモリアに襲いかかった。モリアが大太刀を構えた両腕は、槍で切り裂かれ吹き飛ばされた。


「は?」


強靭なケルベロスボディの両腕はバスティトのたった一撃で本体からもがれ落ち、さらに返した刃で腰から肩にかけて袈裟斬りに両断された。肩から下を一瞬で失ったモリアは、そのままバスティトの突進で生まれたソニックブームをまともに受けて上空高く吹き飛ばされ、空中で何度もぐるぐると回転する。


(お、おいおい、何だ?おい、どうなってんだ?)


自分の体に起こった事がまったく理解できない。モリアが武器を構えた瞬間、体を斬り刻まれ、その後にデカイ音と衝撃で空中に高く吹き飛ばされた。できの悪い独楽のように首がいろんな方向に回転している。目は回らないが動きを止める事が出来ない。意味がわからない。そのまま地面に落下し、ようやく動きが止まるが、頭の中の混乱は止まらない。それでも意識だけはあるモリアの目に、こちらに音を立てずに歩いてくるバスティトの瞳が映った。左右の色が違う瞳の虹彩は、赤色と青色に大きく揺らめき、自分に対して怒りを見せているようだった。


「オマエ、前に見たことがあるね。ああ、あの宇宙船でワタシにちょっかい出してきたあの駄犬か!これに懲りて二度とワタシの前に立たないこと。じゃあね」


バスティトの足に思いっきり踏み潰されて頭部の機能も失ったモリアは、あまりに理不尽すぎる戦闘力の違いを感じ、そこでようやくメデューサの事を思い出した。すべてが遅かった。



アプス達に命令するより早くバスティトがモリアを屠ったため、アプス達はその前に受けた待機命令のまま動かなかった。しかしモリアが戦闘不能となったことで待機命令もまた効果をなくし、アプス達はバスティトを敵とみなして一斉に攻撃態勢となった。第5世代エーテルボディを越える戦闘能力を持つアプスの大群に囲まれているのにバスティトはまるで意に介さず、手にした槍を左右に大きく振りながら、ゆうゆうとその群れの前に歩みを進める。ガラガラヘビのような唸りがナーガを取り込んだアプス達から発せられ、雪崩のように一斉に襲いかかってくる。バスティトは造作もなく槍を大きく横に一閃すると、一番前のアプスが腹のあたりで上下真っ二つにされた。


「魂を食べられたお前たちのツラさは、アタシが一番わかる。だから……もう休め!」


そう叫ぶと、バスティトはまた体を弧に丸め、弾丸のようにアプスの群れに突進する。長い槍をしならせ、横に大きく振るう。槍の慣性に逆らわずに体を一瞬空中に浮かせ、足が再び地面に着いた瞬間に今度は槍を逆方向に振るう。あまりに野性的で暴力的な槍の暴風に、その進路にいるアプスが次々と体をまるで豆腐のように容易に斬り裂かれる。バスティトの背後を取ろうとしたアプスは、その尾のヘビに逆に顔を食いつかれる。さらにそのヘビを支点に、バスティトは体を浮かせて突進方向を変える。ついでにヘビが噛み付いていたアプスも縦に斬り落とす。あまりに凶暴で、凶悪な、ヘビを従えてヘビの怪物を狩る猫。


一分にも満たない時間ですべてのアプスを屠った後、バスティトは涙を流していた。エレメントボディは人間の身体に非常に近いため、神経だけでなく涙腺や唾液腺なども存在する。バスティトの中にいるメイは、墜落した宇宙船、そしてこのマザー地表で侵食型エーテルボディの犠牲になった人たちに黙祷を捧げた。


周囲に敵がいなくなった事を確認すると、メイは先ほど外した荷物から超小型のマゼランポイントを取り出すと、それを稼働させた。そして自分は核融合炉の入口まで進み、もう一度周囲に敵が居ない事を確認する。


マゼランポイントにマヌエアリーフから応援部隊が到着すると、メイは入れ替わる形で脱出ゲートを使って衛星軌道にあるシャノア研究所に帰還した。

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