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第46話 バスティトの初陣

「パウダー発生源の破壊を確認。さらに地下から微細電磁パルスを感知。予想通り電源ラインは地下を通ってる模様です」


「電源供給をしている地下ルートを追跡しながら、その上空を次元爆弾にてスイープします」


「供給ルート、探知完了しました。ターゲット周辺に軍用エーテルボディの反応なし。あるのはナーガ4体とバルログが複数体です。攻撃、問題ありません」


パウダーを発生させるためには、多大な資源と電源が必要となる。地表がパウダーで埋まっている以上、地下にその供給ラインがあることは自明であった。次元爆弾によってパウダー発生源が破壊されたことで、地表を肉眼だけでなく様々な検出器が走査できるようになった。シャノア研究所が所有する観察衛星は首都上空の調査を開始する。パウダー発生源の破壊は当然として、同時に資源と電源の供給元をガバナーから奪い取る必要があるのだ。


「地表スキャン、完了しました。現在も活動しているパウダー発生源を確認。ターゲットB2に設定します。準備完了後、ターゲットB2に向けて、誘導型次元爆弾、発射します。予定ではあと40秒」


オペレータの緊張が混じった声とともに、攻撃衛星から最初の自由投下式ではなく誘導ミサイルに搭載された次元爆弾が、地表のパウダー発生源に向かって一直線に向かう。障害となるパウダーが無くなった空間を進むミサイルは、その行く手を阻まれる事無く、目標に到達する。


ミサイルが地表に届く直前、指令通りに次元爆弾が作動する。次元爆弾は爆発時に光を発しない。ただ純粋な破壊力を持つ衝撃波を周囲に広げるだけである。ガバナーによる反物質シールドは、突然その場所に割り込んできた膨大な他次元からの空気によって押し潰された。シールドだけではなく、爆弾の着弾近辺は綺麗な真円球でえぐられ、そこにあった構造物はすべてミクロン単位にまで粉砕破砕された。音が聞こえないはずのモニタ映像に、まるでその爆発音が届いたように錯覚した。


「ターゲットB2、完全に消失しました。作戦成功です」


その映像とアナウンスは軍本部ビルにも流されていた。ビル内では軍人や職員がクーデターの後処理をしていたが、惑星襲撃作戦の様子がモニタに流されると、皆が作業を止めてそれを見つめている。マザー表面のパウダーが消失するたびに、そして地表のパウダー発生源が破壊されるたびに、歓声がわき若い軍人や職員たちが飛び跳ねる。中年以上の人たちはさすがにそこまではっちゃけないものの、拍手やバンザイで感情を顕す。30年間の鬱積が、次元爆弾によって文字通り吹き飛ばされたのだ。



5基の攻撃衛星ハイブレイザーが、マザーを覆うパウダーを除去し、地表をとらえ、そしてパウダー発生源を破壊する。第一次目標は現在もパウダーを発生させている生産拠点である。ターゲットに向かって放たれる次元爆弾を遮るものはなく、次々とマザーを包んでいた灰色のパウダーガスに、透明な泡が生まれ、綺麗に洗浄されていく。そして地表に太陽の光がこぼれ落ちていく。まだ首都上空の、ほんのわずかな表層しかパウダーは除去できていない。しかし蟻の穴から堤防が崩れるの言葉通り、少しずつガバナーの支配が綻び始めようとしていた。


この攻撃はまだ第一弾である。惑星襲撃計画は、まだ始まったばかりだ。



政府本部ビルにも、シャノア研究室を経由して攻撃人工衛星ハイブレイザーからの映像が届けられる。マザーに投下された次元爆弾が地表を覆うパウダーを次々に消失させ、そしてパウダー発生源も破壊されている光景が映し出されると、会場内から大きな歓声が起こる。衛星軌道の映像のために音はないが、次元爆弾が破裂し薄緑色の閃光とその後に透明な空間が生じる瞬間、見ている人間は爆発音を錯覚した。いわば祝砲であり、次元爆弾がマザー地表に透明な空間を作り出すたびに、拍手や喜びの声があがる。


「や、やめろ!今すぐ攻撃をやめろ!……ガバナー、いや、マザーが壊されてしまう。この蛮行をやめたまえ!」


しかし中には悲鳴も含まれていた。調査組織ヘリオスの長官を務めるエベルは席から立ち上がると、大声でスピルダラーに向かって叫ぶ。それをキッカケに、与野党から10数人の議員も立ち上がり追従する。しかし当のスピルダラー大統領は知らん顔のままだった。


「さきほどロヴァル局長も説明した通り、次元爆弾はマザーの大気だけを破壊する。壊れるのはパウダーとそのパウダーの発生源だけだ。そもそもこれまでの地表捜索結果から分かる通り、すでにマザーはガバナーによって人も住めない状況にまで破壊されている。地表の拡大映像でもハッキリしているだろう。何をそんなに慌てているのかね?」


エベルは真っ青な顔で、自分の左手で右の手首を掴むと、それをひねった。エベルの右腕は融合型エーテルボディとなっており、レーザー銃が内蔵されていたのだ。手首が外れて銃口が飛び出すと、スピルダラーに向け引き金を引く。エベルの右腕は眼球と連動したオートエイム機能を有しており、素人のエベルでも確実に狙った所に着弾する。人間一人を十分に殺害できる出力を持ったレーザー光はまっすぐにターゲットに向かって放たれ、そしていつの間にかスピルダラーを守るように立っていたバスティトの背中に照射された。直撃すればバルログすら破壊出来る出力のレーザーであったが、エレメントボディを破壊するには不十分で、バスティトの表皮が少し焦げる程度だった。しかし。


「あだだ!痛い!痛いね!エーテルボディと違ってこの体には痛覚があるんだっけ、忘れてた!」


エレメントボディ『バスティト』は人間の女性に猫を掛け合わせた女神である。人間の身体に白と銀の猫の毛が絡み合う表皮は特殊なプラズマコーティングが施されており、物理攻撃だけでなくレーザー光すら分散させほぼ無効化する防御能力を有する。そしてエレメントボディは、人間の細胞から作られ、その人間の分身とも言える。そのためボディの顔は元の人間を色濃く反映しており、バスティトは細胞組織を提供し、そしてエレメントボディの魂であるメイ=トパーズ本人の顔によく似ていた。


スピルダラーは自分を守ってくれたバスティト、いやメイの顔を懐かしそうに見上げる。


(そうか、生きていたのか。私は君たち親子に世話になりっぱなしだ)



いつの間にか大統領を庇っていた不思議な存在に、会場はざわめく。いや、それよりエベル議員が突然大統領を狙撃したのだ。つまり、エベルもまたガバナー側の人間であり、クーデターは終わっていなかったのだ。


事情を知らない議員たちは、クーデターは軍本部ビルだけでなくこの政府本部ビルでも発生したことを悟り、急いで机の下に身を隠した。一方でガバナーに通じている売国議員達は会議室の入口に殺到し、そこを占拠する。軍本部ビルの掌握は失敗しても、自分たちに与えられた大統領の暗殺と政府本部ビルの掌握を実行しようとしていたのだ。


しかし大統領を狙ったエベルは、成功したと思った瞬間にいきなり現れたバスティトに愕然とする。あまりの想定外だったからだ。


(何だ?あの大統領を庇った人間は?エーテルボディなのか?いや、今このマヌエアリーフにはエーテルボディは誰もいないはず。それよりスピルダラーだけでも殺しておかなければ!)


エベルは机を乗り越えると、右腕のレーザー銃を再びスピルダラーに向ける。エベルの視点からは大統領の姿はは完全にバスティトの背後に隠れて見えないが、その場所にいるのは確かである。エベルは銃口を向けたまま大統領の方にゆっくり近づく。1発、2発とバスティトに向かってレーザー銃を撃つが、しかしレーザー光はエレメントボディの背中ですべて防がれてしまう。


そこに大統領の護衛官2人がエベルの反対側からスピルダラーに駆け寄りながら、懐から銃を取り出した。2人が銃口をエベルに向けると、エベルの顔が引きつり、歩みが止まる。ところがそれを見た護衛官は、銃をエベルではなく護衛対象であるスピルダラーに向けた。護衛官もまたガバナーに与する人間だったのだ。エベルは演技を止めて、再びレーザー銃を撃ちながら今度は一気に大統領に向かって駆け出す。暗殺実行者はエベルだけでなく、護衛官2人もまたガバナーの信徒だったのだ。


エベルのレーザー攻撃から大統領を身を挺して守っているバスティトは動けなかった。そしてエベルの反対側から大統領を狙う護衛官を止める手段はなかった。そもそも護衛官自体が大統領を守らなければならないのに、彼らが大統領を狙うのだ。暗殺を防ぎようがなく、エベルはスピルダラー大統領の暗殺成功を確信する。



しかしなぜか大統領に銃を向けた2人の護衛官は動かなかった。


「おい!貴様ら!なぜ銃を撃たない!?大統領を守っているやつが何者かは知らんが、そちらからなら充分にスピルダラーを狙い撃てるだろう!」


レーザー銃を撃ちながらエベルは焦る。軍本部ビルでのクーデターが失敗し、マザー地表のパウダー発生源が次々に破壊されている今、大統領を弑して政府部掌握し、形勢を逆転させる必要がある。ニコオーレグは、リーフが墜ちた暁にはエベルを大統領にすると約束した。ガバナーの息が掛かったエベルとヘリオスチームは、今日この時のために、マヌエアリーフで毒牙を隠し続けて暗躍してきたのだ。エベルが大統領となるためにも、失敗は許されない。


最大権力を目前にしたエベルは刺客である護衛官を叱責するが、しかし彼らはそれに答えずゆっくりと床に倒れていった。エベルは驚愕する。2人の護衛官も自分と同様に身体の一部をエーテルボディで強化しており、そう簡単に戦闘不能になるはずがない。そもそもなぜ護衛官がやられたのかもエベルは分からなかった。周囲の人間はみな机の下に隠れており、唯一大統領を守っているバスティトはエベルの銃撃を防ぐため一歩もそこを動いていないのだ。


「これでネタは尽きたかな?じゃあそろそろアンタもお仕置きの時間だ。殺すつもりはないから安心しな…… 死んだ方がマシだと思えるような目には合うだろうけど。……以前のアタシたちのように、ね」


一瞬で腹の奥底まで潰されそうな、冷淡な女の声がバスティトの口から紡がれた。それほど大きな声ではなかったが、脳に直接突き刺さるようなその声に思わずエベルは小さな悲鳴をあげる。バスティトを駆るメイとその仲間は、ガバナーによって死ぬことも出来ず墜落した宇宙船の中で地獄のような日々を十何年も生きてきたのだ。宇宙船の生き残りは自分一人になってしまったからこそ、メイは彼らの魂を背負っている。侵食型エーテルボディ「メデューサ」の中でも魂を保ち続けていた理由の一つは、純粋な復讐心だ。そして今、復讐すべき相手の一人がすぐ近くにいる。


「アンタ、エベルと言ったっけね。アンタもガバナーも暴力で国が動くと思っているようだけど、それならアタシ達がもっと強い暴力でそれを(くつがえ)してやるよ」


今まで背中を向けていたバスティトがエベルの方を向く。その目は赤と青のオッドアイで、まるで冷たい氷が燃えているような輝きを放っていた。一瞬でその迫力に飲まれたエベルだが、それでも胆力を振り絞って右腕を構える。そしてその右腕は、その腕より太い蛇に咬み付かれ、あっけなく噛み千切られた。


「うわあ?!」


間抜けな声を出しながら、肘先からなくなった自分の右腕を見つめる。蛇?どこから?と思った瞬間、もう一匹の大蛇にエベルは足元から体中に巻き付かれて、まったく体を動かせなくなってしまう。そのまま蛇はどんどんとエベルの体や頭部を締め付け、さらにもう一匹の蛇が足に噛み付いて毒を注入する。毒と締め付けによる激痛にエベルの絶叫が響くと、ようやくほんの僅かではあるが、バスティトの気が晴れた。


その2匹の大蛇は、バスティトの尻尾であった。バスティトの臀部から尻尾の代わりに蛇が2匹生えていたのだ。そしてバスティトは短距離空間転移を使い、その蛇だけを離れた場所に飛ばした。蛇は牙の神経毒で最初に護衛官2人を無力化させ、今またエベルのレーザー銃を破壊し体を拘束した。バスティト本体はスピルダラー大統領を守りながら会議室を見回す。部屋の中には無力化した3人以外にも、会議室入口を封鎖しているガバナー内通者が残っている。部屋の外にもガバナー派の職員がいる事も把握している。


「今は殺さない。でも私はオマエたちを絶対に許さない」


バスティトはガバナーに与する人間を誰一人として逃がすつもりは無かった。


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