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第44話 エレメントボディの誕生

エーテルボディは情報を伝える神経がなく、エーテル人工細胞内のイオン移動で代用している。そのイオン移動による反応速度は秒速200mほどで、それでも人間より早い。


一方でタウズン博士が開発したエレメントボディは電気的な信号のやりとりではなく、空間転移技術を使って魂とボディを直に接続していた。つまり反射も命令もゼロ距離で魂と体が反応する。当然、エレメントボディの反応速度はエーテルボディのそれとは雲泥の差となる。さらに使用者の細胞と組み合わせて作られるエレメント人工細胞はいうなれば自分の分身であり、最初からボディと魂は慣れ親しんでいる。エーテルボディの場合は、魂が意識してボディを動かすが、エレメントボディは無意識で動作する。エーテルボディはあくまで乗り物の操縦であり、自分の体を動かすのと同等であるエレメントボディとは、反応から動作に至るまで天と地の差があった。


さらに超短距離に限られるが、エレメントボディは武器を空間転移させる事も可能である。アスラ(サノ)は矢を空間転移で飛ばしイザイアを撃ち抜いた。タマモ(アイト)は短刀を、グレナディア(ミガディ)は手刀を転移させて敵の首を狩った。


ただし欠点として、24時間連続稼働できない。あくまで自分の分身体のため、定期的な睡眠による休息が必要であり、エネルギー補給間隔もエーテルボディの半分以下である。



軍本部ビル内での鎮圧を完了した僕たちは、定期的に必要となるエネルギー補給(チャージ)をしていた。チャージは金色のビー玉みたいな丸薬を飲み込むだけでよい。エーテルボディと違って、人間の体にかなり近いエレメントボディは味覚も備わっているが、食べてよいのはこのチャージ用の丸薬だけである。


「チャージ一回で動ける時間、短いですね」アイトさんが丸薬を飲み込む。


「エーテルボディと違って、服用タイプだから使い勝手は悪くないけどね」ミガディさんも金色の丸薬を口に含む。


「あと人間の感覚に近いので、空腹感がありますね……人間の体に戻って美味しいご飯を食べたくなるな」2人と同じように丸薬を補給した僕の正直な感想である。


このエレメントボディ、結構燃費が悪く、特に武器の空間転移を多用するとあっという間に補給が必要になる。それに少なくとも2時間ほどの睡眠休息も取らなくてはならない。でもその方が、中にいる魂にとって負担が少ないと感じる。


あとエーテルボディは潜水服を着ている気分だったけど、このエレメントボディは水着を着ている程度に感覚が違う。まさに自分の分身体である。


「エレメント人工細胞は、本来の目的である人体の一部置き換えですから。感覚があるのは正しいんですよ」


タウズン博士が笑う。本来のエレメント人工細胞は人間の細胞から培養され、エーテル人工細胞でも再現できなかった臓器や神経といった複雑な器官を代用するために開発された。そのエレメント人工細胞を今回思いっきり注ぎ込んで、対エーテルボディ用の戦闘身体(エレメントボディ)をわざわざ制作したのだ。未発表のエレメント人工細胞を戦闘兵器として構築するのに、どれだけ予算が掛かったのか心配である。


「はい、ものすごい開発費が掛かりました。でもマザーを取り戻すためなら安いものです。ただ予算だけでなく培養に手間と時間が掛かりすぎるため、5体しか作れませんでしたが」


「え?あと2体は誰なんですか?」


「一人は私です。もう一人は皆さんととても縁のある人です。マザーに向かう時、ご一緒しますのでその時に紹介しますよ」


悪戯っ子のような笑顔のタウズン博士に、僕は不思議に思う。5人目のエレメントボディの人が、タウズン博士にとってとても大事な人だと言わんばかりだったからだ。



鬼神ボディと天狐ボディがマザーで汚染され、マヌエアリーフに離脱後、人間の体に魂が戻された。汚染がより深刻だったアイトさんは、魂が人間の中に戻っても、10時間ほど意識が戻らなかった。僕は許可をもらって、アイトさんの病室に居させてもらった。その間に、ミガディさんは一度帰宅し、タウズン博士の来訪を受けた。


その後、ようやくアイトさんが意識を取り戻した。僕は自分の未熟な考えでマザー捜索を引き受けたことと、それにアイトさんまで巻き込んでしまった事を心の底から謝った。アイトさんは微笑みながらすべて許してくれた。そして僕に着いていきますと言ってくれた。


アイトさんの退院後、僕はタウズン博士のもとに向かう。新たな力を貰うために。



僕の祖父は商売をしていた。両親の居ない僕は、祖父に育てられ、祖父からいろんな事を学んだ。祖父は愚痴や陰口を言わなかったけど、商売柄いろんな人と食事を共にしていた祖父が一度だけ僕にこぼした言葉が忘れられない。


「泣いている人間、怒っている人間、偉ぶっている人間。そんな嫌な人間と、気を使いながら一緒に食べるご飯はまずい。ご飯はおいしく食べたいね」


ああ、わかった。僕がこの次元に再び来たのは、ミガディさんからマザーの災厄を聞いてから、ご飯が美味しくなくなったからだ。僕にできることがあって、それをしないでいると、ご飯が美味しくない。たったそれだけの事なんだな…… 


なぜサノくんはそんなに親身になってくれるんですか?とタウズン博士に聞かれて、僕はそう答えた。マザーがこんな状態だとご飯がまずいから。そんな、個人的でちっぽけな理由。だけどタウズン博士は笑わなかった。


「良いお爺さんですね。私も同感です。私がまだ若かった頃、ニコオーレグ一派がいる場で食事をしましたが、ぜんぜん美味しくありませんでした。民衆は愚かだ、周りにはバカしかいない、軍はくだらない存在、政府は自分勝手、ガバナー以外の研究所は痴鈍ちどん、彼らは食事の席でそうボヤいてました。そんな会話が飛び交う中で口に入れる食べ物がおいしいと思いますか? 当時の私の役目は彼らに追従し、彼らを煽てあげ、彼らが気分良くなるように準備する下僕でした。彼らは私や私の大切な知己も低能だと笑って蔑みました。私は心の底で、彼らにいつか鉄槌を下そうと考えていたんです。そのために牙を研ぎながら、チャンスを待っていました。それが今だと思うと、興奮しますね。最悪の状況に見えるかもしれませんが、私にとって今が最高の機会なのです」


勝ち目はあるんですか?という僕の問いに、タウズン博士はニッコリと頷く。なら、僕は僕のやるべきことをやる。


あの老人と裏切り者たちは、僕のご飯をまずくする。そして僕にアイトさんを……。あいつらは僕のストレスだ。なら早急に消し去らなければならない。これは僕が美味しいごはんを食べるための戦いだ。


「彼ら古い時代の人間に、新たな時代の力がどれだけ素晴らしいか、教えてあげましょう。そしてサノくん、キミに頼まれていたあれ、出来てますよ」



地球人サノ。地位、不明。第4世代エーテルボディ『鬼人(キジン)』適合者。

ボディ適合度90%以上の「ランク5」到達者。第5世代エーテルボディ候補者。

第5世代エーテルボディ『鬼神(キシン)』を受領。マザー探索時に地表の戦闘で汚染。復旧不可。

地球人サノ、試作型エレメントボディ『アスラ』を受領。



マザーの汚染攻撃を受け、私は撤退した。汚染されたパラディンボディは使用不可能となり、今は凍結されている。私の魂は人間の体に戻り、自宅に一時的に帰った。玄関では娘のフェニーが出迎えてくれた。それだけで私の心は癒やされた。4ヶ月ぶりに再会したフェニーは少し大きくなっていた。私は一年前の事を思い出す。


今からちょうど一年前、サノくんのお蔭で惑星ミヌエトでの事件が無事に終わり、私はマヌエアリーフに戻る事ができた。軍に報告後、私は焦る心を抑えながら自宅に向かっていた。懐かしい玄関で、私は約3年ぶりに妻と娘に再会した。


娘は最初、父親である私の事を思い出せないようで、おどおどしていた。仕方ない、最後に会った時はまだやっと言葉を覚えた時期だ。娘は妻の背後に隠れて、おそるおそるこちらの顔を見ている。その顔が初めて会った時の妻に似ていて、ついつい笑ってしまう。すると私の笑顔を見て安心したのか、「パパ?」と声を掛けてくれた。


「そうだよ、フェニー。君のパパだよ。3年ぶりだね。大きくなったね……ごめんね、なかなか帰ってこられなくて」


しゃがみこんで娘と同じ目線になって、こころから謝る。笑顔を崩さないように努力するが、本心は情けない気持ちでいっぱいだ。こんなに可愛い娘に会いたくても会えなかった。


「パパ、おかえり」

そう言ってフェニーは私に抱きついてきた。


「フェニー、よく出来ました。そしておかえりなさいアナタ。本当にお疲れ様でした」

妻にも抱きつかれ、両手いっぱいに二人を抱きしめた私は、おかげで両目からこぼれ落ちる涙を拭くことができなかった。


あれから1年経ち、また私は帰れないかもしれない任務に就こうとしている。


私が生まれる直前に、ガバナーがマザーを人が住めないようにしてしまった。両親はリーフに避難し、そこで私は産まれた。軍人だった両親は、エーテルボディがない時代に、何度となくマザー地表の現地調査を行った。防護服を着ていたとはいえ有毒なパウダーを完全には防げず、幾度もそれを身体に受けてしまった結果、二人とも私が成人する前に亡くなった。


成人して軍所属となった私も、両親の意志を受け継ぐようにマザー探索の任務を志願した。その時に私の補佐に就いたのがスレンだった。危険でいつ命が無くなってもおかしくない任務にもかかわらず、スレンは私と結婚し、「アナタが生きてきた証を残したい」といって愛しい娘も授けてくれた。


本音を言えば、軍を辞めたかった。マザー調査の任務から逃げたかった。しかし私は殊の外エーテルボディとの親和性が高く、結果として常に最前線に投入された。


子供が生まれ、親となった今なら分かる。私の父も母も、私が生まれて、本当は軍を辞めたかったのだろう。でもそれをしなかった。自分の子供に、自分と同じ危険な目に遭って欲しくないからだ。自分の子供とその世代には、安心して笑顔で暮らしてほしいのだ。だから自分の代で危険な事を終わらせたい。そう願って、父も母も命を懸けて戦ったのだ。


残念ながら両親の願いは叶わなかった。でも二人の血と意思を継いだ私が、二人に変わってこの凶事を終わらせる。私にはその力がある。妻と娘が安心して生きられる世界を、娘が友達と平和に暮らせる時代を作るため、私はこの任務を志願するのだ。



第ニ宇宙軍所属ミガディ。地位、大佐。第4世代エーテルボディ『ナイト』適合者。

ボディ適合度80%以上の「ランク4」到達者。第5世代エーテルボディ候補者。

第5世代エーテルボディ『パラディン』を受領。マザー探索時に地表の戦闘で汚染。復旧不可。

第ニ宇宙軍所属ミガディ、試作型エレメントボディ『グレナディア』を受領。



楽しい人ではなく離れたくない人を選びなさい。

愛せる人ではなく許せる人を選びなさい。

そして、幸せにしてくれる人ではなく一緒に苦労を乗り越えられる人を選びなさい。


大好きな祖母の言葉。その言葉で目が覚めた私は、白い天井を見ながら、地表で自分が暴走してしまった事を思い出していた。でもサノさんが止めてくれた。いつもサノさんは私を助けてくれる。


離れたくない人、許せる人、苦労を乗り越えられる人。祖母も母も、そんな男の人と結婚した。


ベッドの上で目を覚ました私のそばには、サノさんがいた。サノさんは不安そうに私を見つめている。髪の毛はボサボサだし、無精髭も生えてるし、目の下にはクマがある。私はサノさんにどれだけ心配をかけてしまったのだろう。そして私が謝る前に、サノさんがゴメンねと頭を下げた。甘い考えでまたこの次元に来たこと、それに私を巻き込んでしまったこと、助けるためとはいえ天狐の首を斬ってしまったこと、それらを私に謝ってくれた。


私はサノさんに尋ねた。「この後、どうするんですか?地球に帰るんですか?」

サノさんは今まで見たことのない真剣な顔で答えてくれた。「僕は失敗した。でも僕にはまだやれる事がある。みんなのためにも、自分を許すためにも、もう少しだけここに居たい。ただ僕一人では無理だと思う。アイトさんにも手伝ってもらいたい」


検査の結果に異常はなく、私はすぐに退院した。その足で、私とサノさんはタウズン博士の研究所に向かった。サノさんは自分の意志で、もう一度マザーに向かうと決心していた。


今、私のそばにいるサノさんは、おじいさんの言葉でこの世界のために働くと言っていた。なら私は祖母の言葉でサノさんを選ぶ。これからもサノさんと離れたくないし、一緒に苦労を乗り越えたい。そしてサノさんなら許せてしまう。そしてそして、サノさんの隣で美味しいご飯をいっぱい食べたい。


だから私はこれからもサノさんと一緒に苦労を乗り越えて行く。私はそう決めた。



地球人アイト。地位、不明。第4世代エーテルボディ『金狐(キンコ)』適合者。

ボディ適合度80%以上の「ランク4」到達者。第5世代エーテルボディ候補者。

第5世代エーテルボディ『天狐(テンコ)』を受領。マザー探索時に地表の戦闘で損傷。復旧不可。

地球人アイト、試作型エレメントボディ『タマモ』を受領。



タウズンが所属するシャノア研究室にて、サノ、ミガディ、アイトの3人がエレメントボディに魂を移していた。残るエレメントボディは3つ、一つは自分のボディ『ブルーキャット』、そしてあとの2つは両方ともたった一人の女性のために作られたものだった。


タウズンはサノたちに嘘をついていた。開発したエレメントボディは5体ではなく6体だったのだ。しかしタウズンが意図して存在を臥せていた1体は、戦闘用ではなく人間を再生するためのボディであった。とある宇宙船の中から救い出した女性の体を、タウズンはエレメント人工細胞を使って蘇生したのだ。


宇宙船の中で氷晶保管されていたその女性の体には魂は無かった。いや魂が抜き取られていたのだ。タウズンは宇宙船の中からその魂の器も救い出していた。その器の名前はメデューサという。そして20年ぶりに、その魂は元の体に戻ろうとしていた。



アタシは暗闇の中にいた。体を切り刻まれ、訳のわからない液体に沈められ、得体の知れない何かに意志と体を奪われていった。何のために生きているのか分からなくなった。抗えない命令を受け、魂の入った何かを破壊していった。アタシは人を守るために軍に入り、宇宙船の護衛任務に就いた。なのに今の自分は人を倒すだけ。ただただ、向かってくる魂の器を潰すのが私の仕事。アタシはしゃべれない。何も語れない。何もかもが嫌になった。


ある時、アタシと同じようなヤツに出会った。それから少しして、面白いヤツにも出会った。アタシはしゃべれなかったけど、そいつらとは魂で会話する事が出来た。ようやくアタシは諦めることをやめて、得体の知れない何かに全力で逆らった。面白いヤツのお蔭で、ようやくアタシに命令するヤツが消えていった。ああ、ようやくアタシのこの暗闇の日々が終わったんだ……ああ、最悪の人生だったな……


『はじめまして…… いえ、おかえりなさい、というべきでしょうか?』


「え…… 誰? え? 声が出る?」


何十年ぶりかの自分の声。その忘れていた自分の声に驚いてしまう。


『よかった、どうやら無事にエレメントボディと魂が同期したようです。貴女は蛇の呪縛から開放されたんですよ。ようやく貴女を元の姿に戻す事ができました。』


「え?アタシの体……あの蛇の体じゃない……これ、アタシが人間だった頃の体?」


『貴女の魂は強かった。侵食されつつあっても、境界を保ち続けていたのです。残念ながらすべてが人間の体とはいきませんでしたが、無事に貴女の魂をメデューサから取り出して、こうして無事に人間の姿に戻す事ができました。宇宙船内の氷晶技術が初期の物だったため、目や鼻といった複雑な器官が損傷しておりまして、エレメント組織という私が開発した人工細胞で復活させたものになっていますが……今、貴女は人間だった頃の自分の体に魂が入っています。』


培養槽と言われる容器に、20代後半と思える裸の女性が、首から下をエレメント保存液に包まれながら直立していた。この世界では珍しい金髪のショートカットと、軍と実戦で鍛え込まれた体躯は、宝石の付いたドレスよりも軍服のほうがよほど似合う。女性の名はメイ、かつて惑星ミヌエトに向かう宇宙船に乗船していた軍人である。その宇宙船が意図的に惑星地表へ墜落した事件の際、メイは魂を抜き取られ侵食型エーテルボディ『メデューサ』に入れられ、人間の体は宇宙船内の氷晶に保管されていた。


しかしメイの魂は強靭で、ボディの侵食に抵抗したまま十数年間もその存在を保ち続けていた。そしてタウズンは惑星ミヌエトの宇宙船内から、メデューサとメイの体を苦労の末に救出した。かつて人間だった時のメイの体をエレメント人工細胞を使って蘇生し、そこにメイの魂を戻したタウズンは、椅子から立ち上がると涙をこらえながら目覚めたばかりのメイに向かって頭を下げた。



「すいません、貴女の意志を聞かず、私が勝手にこんな事をしました。あの墜落した宇宙船でつらい日々を送られた事は存じております。本来なら宇宙船と一緒に眠りにつきたかったのかも知れません。でも今、母星を取り戻せる最大のチャンスが訪れています。そのためには貴女の力が必要なんです。この戦いが終わったら、私にできる限りの事をします。私の命を差し出しても構いません。だからお願いです。貴女の力を貸してください。私を、私たちを助けてほしいのです!」


メイは何も答えない。恐る恐るタウズンが顔をあげると、メイはそれを待っていたかのように鋭い目で睨んできた。


「……二度も死に損なったアタシをまだこき使おうってのかい?……って、アンタはあのクソッタレな連中と違って、無理やりアタシに命令しないのかい? アタシを蛇から人間に戻せる程の学者様なら、それくらい出来るんじゃないのかい?なんで死に損ないのアタシを助け出した上に、自分の命まで差し出そうとするのさ?」


「貴女に憧れていたからです、メイ=トパーズ大尉。サノくんからあの墜落した宇宙船『ユーフューズ』の事を聞き、もしやと思い、中にいたメデューサと人間の体を救出しました。そしてやはり貴女は貴女でした。メデューサとなっても自分の魂を保ち、乗客員の魂を守り続け、サノくんと一緒に宇宙船を埋葬までした。今でも気高き貴女を尊敬しています」


「……久し振りに自分の名前を呼ばれた気がする……そっか、アタシがやってきた事は間違ってなかったんだ…… ねぇ、アンタ。アタシを助けてくれたアンタの名前を訊きたい。教えておくれ」


エレメント組織で作られた蒼色の人工眼球が、まるで長年連れ添ったかのようにしっくりと自分になじむ。暗闇の中から抜け出したメイ=トパーズは、目に入る光を眩し気に感じながら、恩人の顔をじっと見つめた。向こうは自分の事を知っているらしいが、自分は目の前の男を知らない。だからいろいろ知りたいのだ。


「私の名前はタウズン、タウズン=ウェアフです。25年前、学生だった私は貴女に助けられました。その時はお礼を言う事ができませんでしたが、25年ぶりにようやくお礼を言えます。あの時はありがとうございました」


その男の名前も25年前に助けた事も、両方ともメイには覚えがない。でもタウズンと名乗った男はその25年前の恩返しで、こうして絶望の中にいたメイを救い出してくれたという。なんとまぁ律儀な男だ。惑星に墜落した宇宙船から(メデューサ)を助け出し、さらに人間だった体を復元させて魂を戻してくれたとは。どうやったらそんな神業が出来るのか、そしてそれを行うためにどれほどの労力が必要だったのか、それを考えるだけでメイの心は熱くなる。


「お礼を言うのはアタシの方だよ。あのクソッタレな地獄から救い出してもらったんだからさ。あのまま宇宙船やみんなと一緒に沈むのも良いかなーなんて思ってたけど、やっぱ無しだ。アタシや宇宙船の仲間の命を弄んだ奴等にケジメをつけなきゃね。弔い合戦ってやつだ。タウズン殿、アタシに力をくれないか?アタシの敵を倒す力を。そして情報もだ」


メイの蒼色の眼球が強く光る。タウズンは安心したような笑顔を一瞬見せたが、顔を引き締める。


「わかりました。貴女の敵は、私の敵と一致しています。宇宙船を墜落させた犯人は、マザーを壊している犯人でもあります。そして恐ろしい相手です。それを捕らえるため、私は全てを差し出します。メイさん、ぜひ協力して下さい」



旧 第零宇宙軍所属、メイ=トパーズ。地位、大尉。侵食型エーテルボディ『メデューサ』被食者。

惑星ミヌエトにて殉職、軍名簿から登録を抹消。

旧 第零宇宙軍所属メイ=トパーズ、試作型エレメントボディ『バスティト』を受領。登録情報を修正。


「くっはーっ!! これがアタシの新しい力か! いいねぇ、最高だ!バスティト、ヘビを食らう猫の女神かい!いいセンスだタウズン殿、惚れ直したよ!」


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