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第37話 絶望の帰還

ミガディは後輩のリオと対峙していた。信じたくはなかったが、このグランドスイーパー作戦は最初からすべてガバナーの思惑通りだったのだろう。様々な思いが駆け巡るが、後悔も反省も今はしない。今すべきなのは、ガバナー側だった後輩を、敵であるリオを無力化することだ。リオを捕らえさえすれば情報を聞き出せる。冷静に感情を切り替えたミガディは、自分に課したミッションを修正する。


「先輩!なんで裏切ったのか?とか聞かないんですか?絶体絶命なんですよ?」


表情が乏しいはずのエーテルボディだが、それでもリオは蔑むような顔をしているように見える。対照的にミガディは口を開かず、水鏡の精神を貫く。ミガディの経験上、無言の殺意ほど恐ろしいし、自分はべらべら喋りながら戦う(たち)でもない。そもそも完全に敵の計画通りなのだろうから、ゲートで離脱する前に、少しでも敵の戦力を減らし情報を掴んでおきたかった。


一方のリオは、完全に当てが外れた。人格者で有名なミガディだからこそ後輩の裏切りに動揺するものと思っていたのに、何もしゃべらずにこちらを攻撃してくる。いくらエーテルボディが汚染されているといっても、もともと適合度はミガディの方が上回るため、あっという間に劣勢に追い込まれる。


「くそっ!」そう愚痴をこぼした時、リオのエーテルボディは胴体をスピアで貫かれてしまった。そのまま無様に地面へ仰向けに倒れたリオの首を、さらにミガディはまったく躊躇なく足で踏み潰す。リオはなぜミガディが自分と2歳しか違わないのに大佐になったのかを思い知った。弱点である頸部を破壊されたリオは、そのまま動けなくなる。



「ほうほう、たいしたものだ。この絶望的な状況で、そこまで冷静でいられるとは。ちょうどいい、もう一つの実験に付き合ってもらおうか」


空中からミガディの戦いを見下ろしていたニコオーレグが、いびつな笑いを浮かべる。すると建物の内部から、見たことのない怪物が1体、こちらに向かって駆け寄ってきた。体格は人間のようだが、胴体だけが妙に赤く太い。ただし殺気を感じない。ニコオーレグが実験と称し、そしてこの拠点にいる時点で、この怪物には恐るべき何かがある。


動作を止めたリオの胴体からスピアを抜くと、どんな攻撃にも対応できる構えを取りながらジリジリとミガディは後退した。その怪物はゆっくりとこちらに向かって飛び掛かってくる。しかし余裕をもってそれを躱す。が、怪物の狙いは、地面に倒れているリオだった。


「それは新たなパラスティック(侵食)エーテルを持つ人造兵器で、名前を『アプス』という。アプスは人間だけでなくエーテルボディすら侵食するのだ」


ニコオーレグの言葉に、それまで冷静さと集中力を保ち続けていたミガディもさすがに驚く。事実、アプスといわれた怪物は、リオを腹から丸ごと飲み込みはじめた。リオのうめき声が響く中、ミガディはスピアをそのアプスの腹部に向けて突き刺すが、想像以上に表皮が硬い。そうして有効打を与えられないまま、リオは完全に取り込まれてしまった。


再びスピアを構えて頭部を狙うが、今度は俊敏な動きで簡単に躱されてしまう。リオを取り込む前まで無感情だったアプスは、今は恐ろしいまでの殺気が溢れ出している。そして先ほどとは比較にならないほどの速度でアプスは襲いかかってきた。それは重いこん棒のような両手を振り回すだけの単純な攻撃ではあるが、こちらに向かってくる追い足とハンドスピードがあまりに異常である。


ナーガやリオを貫いた必殺の突きを放つが、アプスの表皮で止められてしまい、さらに穂先をアプスに掴まれてしまった。スピアを手から放すか一瞬迷うが逆にアプス自身が手を放したため、動きが止まってしまい、その隙にアプスの右フックがミガディの頭を捉えようとする。完全には躱せないと悟ったミガディはとっさに体をひねって肩でそのフックを受け流す。しかしクリーンヒットでもなかったのにも関わらずミガディは思いっきり吹き飛ばされた。かろうじて受け身を取り追撃されるのを防いだが、フックが当たった左肩は大きく凹み、左手が完全に動かなくなってしまった。リペアキットを肩に使いながら、フットワークを駆使して何とかアプスの猛攻から逃げ続ける。



ミガディは負けを認めていた。マザー地表に到達した瞬間から地中で追跡された上で、捜索部隊の中に内通者がいた。それに加えて、第5世代のエーテルボディすら汚染してしまう新型パウダーに、エーテルボディごと侵食してしまうアプス。そしてリオを取り込んだアプスはあまりに強く、第5世代のエーテルボディは力も速さも大きく負けてしまっている。


敗北には原因があるというが、ここまでの完敗だとかえってスッキリする。ミガディはこれまで何度も負けてきた。そしてその負けから学び取り、最後に勝利を掴んできたのだ。負けをしっかり受け止めた上で、絶対に諦めない性格、それが自分の武器だと知るミガディは負ける事に慣れていた。


「ほうほう、やはり浸食タイプは融合度が桁違いに高いようだ。もう君に勝ち目はない。大丈夫だ、君を取り込むアプスも用意している」


いつの間にか、建物からもう一体のアプスがこちらに向かってきている。リオを取り込んだ眼の前のアプスは、明らかにナーガや第5世代ボディの戦闘力を越えている。ミガディのボディ適合度は80%を越えているが、もし侵食型ボディの融合度が100%近かったら勝負にならない。さらにブラックパウダーに汚染されてから、少しずつボディと魂の感覚が乖離し始めていた。損傷した左肩に使ったリペアキットも汚染のせいかまったく効果が出ていない。ニコオーレグの言う通り、ミガディにはすでに勝ち目は無くなっていた。



リオの攻撃をまともに喰らって、とうとうミガディは地面に倒れ伏した。起き上がろうとする前に、自分を捕食しようともう一体のアプスが飛びかかってきている。ここまでか、そう察したミガディは脱出ゲートを作動させ、地表から離脱した。転移後に残されていたのは、リオの攻撃を受けてひしゃげたスピアだけだった。


「ははははは! そうだ、それで良い! ゲートで脱出できれば安心だと、そう思い込むがいい」


ニコオーレグは満足した顔で、その場から立体映像を消した。



首だけになったエーテルボディ『天狐』が、軍部の医療室に運び込まれてからどれくらい時間が経ったのだろうか。ダンジョン探索していた時に、魂はエーテルボディの頭部中央に保管されていて、そこさえ無事であれば体がどれだけ破壊されても問題ない、という説明を受けていた。


しかし魂が肉体から離れて時間が経ち過ぎると、魂の境界が歪み始めて暴走し、エーテルボディと融着してしまう問題が出てくる。以前、僕はカツモトという暴走してしまったエーテルボディと戦い、それを斬り刻んだ。その時は頭部さえ傷つけなければ大丈夫だと理解していたため、何も気負うことなくボディを無力化させた。


アイトさんのエーテルボディも暴走させられてしまった。あの敵の攻撃は、魂の境界を強制的に歪ませ、暴走させてしまうのだろうか。頭部さえ傷つけなければ大丈夫なはず、だから無力化させるために首を撥ねた。その理屈で僕はアイトさんの首を……でも理屈ではない、感情がどうしようもなく苦しい。……そうか、昔の彼女が怒っていたことは、こういう事か……



カツモトさんの魂は多分、エーテルボディとの融着が取れず、そのままマールによって放置されてしまっていた。その後、どうなったのだろう。アイトさんの魂も、融着が取れなかったら…… 僕がアイトさんを同行させなければこんな事には…… いや、この次元に連れてこられたときに依頼を断って地球に戻っていればこんな事には……



どれだけ時間が過ぎたのかわからない。僕の後に帰還したミガディさんに促され、僕はエーテルボディのチェックを受けていた。アイトさんが暴走させられたブラックパウダーを僕もミガディさんも受けており、その影響を調べてもらっていたのだ。


検査の結果、僕の鬼神ボディもミガディさんのパラディンボディも汚染が進み、内部まで侵食され始めていた。どうもブラックパウダーは、その粒子(パウダー)自体が小さな侵食型エーテルボディと同じ性質を持つようだ。魂の領域は無事だったけれど、汚染は今も止まることなく進んでいて、このままでは魂が侵食されるのも時間の問題だと言われた。僕もミガディさんも、急いでボディを捨てて人間の体に戻る事になった。


「あの汚染攻撃を受けたエーテルボディは、氷晶液に漬けられている。研究と軍のスタッフが総出で侵食部分の除去か浄化を試みているようだけど、結果は芳しくないということだ」


軍服姿のミガディさんから説明を受ける。そういえばあの攻撃を受けた後、妙に感情が昂ぶっていた。多分、僕の魂にも汚染の影響があったんだろうな。


「汚染し侵食されたボディの安全確保ができない以上、それを使うことは出来ない。無理に使って暴走するような事になってしまっては目も当てられないからね」


そう言ってため息をつくミガディさん。ため息が僕にも移ったのか、久しぶりの人間の体が、肺から重い空気を吐き出した。あのボケ老人、軍用エーテルボディの対処方法まで完璧に準備してたか……エーテル体の考案者らしいから、弱点も把握していたんだろうな。これについてはさすがに僕には対策はわからない。タウズン博士ら研究畑の人に任せるしか手はない。



アイトさんの現状を聞くと、魂は無事にエーテルボディから剥離でき、今は人間の体に戻っているとの事。でもまだ目覚めてはおらず、メディカルルームで安静状態を保ったまま、眠り続けている。あの汚染攻撃や僕の攻撃がアイトさんの魂を傷つけていなければいいけど、心配でたまらなかった。


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