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第35話 天才の挑戦状

ミガディは、呆然をその姿を眺める。もう死んだと思っていた世紀の大天才。教材や歴史の資料に輝く、伝説の偉人。それが立体映像とはいえ生きているようであり、さらにこうして自分に語りかけているのだから。まさか……本当にあのニコオーレグなのか……



「あんた誰?」


ミガディさんは呆然と立ち竦んでいて、その様子からもこの次元における大天才な人なんだろうけど、僕にとっては見ず知らずの人だし、そもそもムカついてるので正直に言う。するとこちらの声も向こうに聞こえていたのだろうか、途端に目を細めて僕を睨む。


「私の名前はニコオーレグ。このガバナー研究機関の長にして人類最高の叡智の持ち主だ」



自尊心というか豪放というか、世紀の大天才ってやっぱり自信家なんだなぁと変に感心してしまった。自分で最高の叡智と宣言できる人間は、地球でもそうは居ない。そして僕が資料を見る限りでも、自分で言いきれるだけの実績を持っているわけで、自他ともに認める世紀の大天才、それがこのニコオーレグという人間なのか。でも、


「僕は地球人だからアンタの事は知らない。それよりこんな廃れた場所で何してるのさ?誰も居ないこの星で、わざわざこんな映像を準備して誰かを待ってたの?人類最高の叡智とやらがするべきことがそれ?おかしくない?」


ミガディさんや他のみんなが驚愕した顔でこちらを見るけど、知らないものは知らん。


「君はこの次元の人間ではないのか…… ならその無知で蒙昧な事も致し方あるまい。でも喜んでいい。君はこうしてこの世界における最高の叡智を知ることが出来たのだから」


「いや、別に嬉しくない。どうせ地球に帰る予定だから、あんたの事はあまり関係ない。それより僕の質問に対する答えは?目的は何?」


大仰なセリフがいちいちむかつく。というか邪魔くさくて仕方ない。


「ミガディさん、建物の中を調べましょう」


そう言って立体映像を無視して進む。


「いい加減にしたまえ!無学の俗物が!私を誰だと思ってるんだ!」


辺り一帯に響く声で、その立体映像が怒鳴る。どうやら冷静さを失ったようだ。この爺さん、自分がどれだけ人を不愉快にしているのか分かってないらしい。ほんとクソ老人だ。


「だから僕は地球人だからアンタの事は知らん。もしニコなんとかだとしても、もう100歳を越えてるらしいし、本人だという証拠もない。誰があんたをニコ本人だと証明するんだ? そもそも本物だとして、こんな所にいる意味がわからない」


僕のセリフに、その老人は憐れみのこもった顔をする。本当に不愉快な存在だよな。


「私がニコオーレグである限り、年齢は関係ない。私の頭脳は年老いることなく、常に考えているのだから。私がニコオーレグである事は、今ここに存在している事で証明されるのだ」


……ああ、居たなぁ。こういう人の話を聞かない、自分の事ばかり言う、質問に答えない、自分がどれだけ偉いかをべらべらしゃべる年寄り。会話が出来ないんだよな、いつも自分の言いたい事だけ喋って終わり。もうこれだけで関わりたくないね。


「じゃあ、この星がこんな状態になったのはアンタが原因、という事でいいのか?ニコオーレグさん」


どうしても口調が悪くなってしまう。まぁいいや、できるだけ怒らせて、冷静さを失わせて、ホントの事を聞き出したいしな。


「ほう、君は愚鈍に見えるが、真実を見る目はあるようだ。なら君に分かるように説明してあげよう。いかにも、この星がこうなったのは、私が計画した。この星の状況は、私の挑戦状だ」


は?挑戦状?


「この私、ニコオーレグがこの星に産まれて、人類の歴史が変わった。私の言う通り、私の思った通りに、人間の文明が進んでいった。私が優秀だから?私が異端児だから?まぁそういう事なのだろう。ただ私は心配になってしまったのだ。私が居なくなった後、人類はどうなってしまうのかと。


だれも私の頭脳に追いついてこない。私の教えを理解できない。私の叡智を授ける事ができない。

なぜ私に並ぶ頭脳の持ち主が居ない?これでは私が居なくなったら、この世界は停滞してしまうのでは?

せっかく私が人類のステージを一段、いや三段はあげたのに、私が居なくなったらまた下がってしまうのではないか?

なぜ私に匹敵する人間が他に居ないんだ?


私には競争相手がいなかった。何をやっても私が勝つ。私の周りには、誰も私より優れた人間が誰もいない。

そう思った時、私は気付いた。私は、私と同じくらい優秀な存在と私は競いたいのだ。


だから私はこの世界と、運命と、神に、挑戦したのだ!

私がこの星をどんどん壊していくから、それが嫌なら私を止めてみろ!とね。


もしこの世界に私と同じくらい優秀な人間がいれば、私を止められるだろう?

もしこの世界に運命があるなら、この世界を壊そうとする私を止めるための補正力が働くだろう?

もしこの世界に善なる神がいるのなら、明らかな悪である私を倒すために神罰を下すだろう?


私は待っているのだ。この私に匹敵する人間を、運命を、神を。この私が全身全霊、全力全開で競える相手を!


しかしだ、いくら待ってもそんな相手が現れない。研究機関を立ち上げて優秀な人材を集めても、私に匹敵する人間がいない。

この世界の人間に期待するのはやめて、そして運命と神に挑戦するため、外道や悪と言われる事をいろいろ実行したのだ。

しかし私を止めようとする者が現れない。いや、何人か居たのだが、弱すぎて相手にならない。

世界と神の力すら私には及ばないのだろうか?政府や軍にも手を差し伸べても、まだ出てこないのだ。私の敵が!

人間も運命も神も、いつになったら私に挑戦してくるのだ?


私は神ではない。全知全能でもない。不死身でも永遠の存在でもない。

そのうち私が寿命で死ぬのを待ってるんだろうか?

この世界の人間も、神も、運命も、私が寿命で死ぬのを待ってるんだろうか?


ダメだ。そんな消極的な考えは認めない。だからまず私は、自分の寿命という壁を乗り越えた。

100歳を越えても、私は現役のまま、こうして挑戦を続けているのだ。

早く私を止めて欲しい。どんな手段でもいいから。

私は全力でそれに抗いたい。抵抗したい。喚くほどに悔しい思いをしてみたい。


私はずっと待っているのだ。私に匹敵する人間を。私を越える存在を。

君たちがここに来る事も私にはわかっていた。だからこうして待っていた。しかしダメだな。君たちは弱すぎる」



何いってんだコイツ。ただのボケ老人がペラペラと。ミガディさんは呆然としたままみたいだけど、僕には何一つ意味が分からなかった。ただ分かったのが、コイツ、本当のことを喋ってない。さっきの発言に本音は混じっているようだけど、何かを隠している。嘘つきは雄弁だ。だから白々しいんだ。


「君たちは私が招待してここまで来れたのだ。30年待ってもだれもここまで到達できず少々退屈になったのでね。君たちの実力でここまで来たのではない。私が今もこうして生きている事をリーフの人間に伝えてほしかったのだよ。そして私の実力も見せたくてね。君たちが自慢げに使っているエーテルボディは、元は私の研究から生まれたものだ。誰がエーテル体を作ったのか、分からせてあげよう。もし君たちがリーフに生きて戻れたら、この事を正しく皆に伝えてくれたまえ」


突然、周辺の地面から黒い霧が大量に吹き上がった。音もなく生まれ出たその霧は地面を完全に黒く染め上げてしまい、僕たちの脚から腰のあたりまで霧に包まれる。霧はどんどん増え続け、空を飛べない僕たちは逃げようにも逃げられない。そのまま為す術もなく霧に包み込まれてしまった。


「これは私が開発したブラックパウダーで、エーテル体すべてを侵食する。喜びたまえ、君たちが最初の被験者だ」


霧がエーテルボディの表面に付着すると、それはどんどん染み込み始める。銀色だった鬼神の皮膚はみるみるうちに黒と灰色の斑に変色する。途端に感覚や意識にノイズが走り出した。体の表面が刃物で削られていくような、痛みのような刺激すら感じ始める。


「ははは、感受性の高いボディは危険だよ。そのブラックパウダーは、魂を格納している領域すら破壊するからね」


立体映像のニコオーレグが笑う。その老人が見つめているのはアイトさんだった。アイトさんは両手で顔を覆っている。なんだ?何が起きているんだ?


アイトさんの天狐ボディは、すでに銀毛が黒く染まってしまっている。特に頭部の銀髪は真っ黒だ。天狐は感知能力が優れている。まさかそのせいで、この黒い霧の影響も……


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