第31話 英雄の憂鬱
「いやはや、地球人のお蔭で大成果を上げられましたなぁ」
政府、研究、軍、それぞれから重鎮が出席した報告会。第5世代エーテルボディとなった二人の地球人が加わった地表捜索において、3体のナーガを屠り、喪失していたマゼランポイントを発見し起動に成功した事が告げられた。地球人と第5世代のボディとの適合度は90%前後まで向上しており、そこまで適合すれば1対1でナーガを倒せると確定した事も朗報だった。
「首都近郊のマゼランポイントが見つかったのは大きい。これで一気にパウダー発生源に近づける。いよいよ大捜索の投入ですかな?」
今回新たに見つかったマゼランポイントのは、地上に投下した直後からこれまで行方不明だったA10位置のものだった。A10のある座標はA7より更に首都中心部に近く、また他のポイントの座標と組み合わせる事で、より地表の場所や方角が明確になる。A10から捜索の進行方向を絞っていけば、いよいよ目的地は間近である。
報告会ではあちらこちらから、この2つの吉報に湧いていた。はじめは疑念の目を向けられていた地球人の召喚についても、あっさりと手のひらを返して絶賛の声が上がる。とはいえ第5世代のエーテルボディを地表に投入してもなかなか大きな成果が得られなかった現状を考えると、今回はマヌエアリーフにとって久しぶりの吉報だった。
◇
そんな喜びにあふれる会議室とは異なる部屋で、まったく喜ばない人間が居た。タウズンとサノだ。
「そうですか、地中から追跡を……」
「はい、天狐のボディでようやく感知できるほどの存在です。地中の深い場所なのか、それとも存在が小さいのかわかりません。それだけ微細なものらしいです」
「その追跡者がマゼランポイントに待機していて、地上にエーテルボディが転移してくるとそれを追跡していた、というわけだね。ところで今回、新たなマゼランポイントを掘り起こした時に敵の襲撃は受けましたか?」
「いえ、まったく。それもおかしいんです」
「ですね。ガバナーは意味のある行動しかしない。つまりサノくん達がマゼランポイントを探し当てている最中に攻撃してこなかった事は、ガバナー側にも意味があったはずですね」
「はい、きっと次の捜索が鍵です。予想ですが大きく事態が動くかもしれません。それもガバナーにとって都合が良い方向に」
サノの魂は鬼神ボディに入ったまま、メンテナンスを受けている。サノは仮初めの肉体であるゴースト体の状態でタウズンと話をしていた。サノの隣には同じようにゴースト体のアイトもいる。ミガディは軍部にて別途報告を行っており、この部屋には居ない。
ナーガを倒し、マゼランポイントを見つけ、それを起動させた。マヌエアリーフに帰還した時、サノたち3人は周囲から絶賛の声を沢山浴びた。会う人会う人、皆が喜んでいた。ミガディは喜び、アイトも誇らしかった。しかしどうしたことだろうが、タウズンに報告するサノの声は悲壮感さえ浮かぶ。そしてそれを受けるタウズンも、同じように落ち込んだような様子だ。捜索が大きく進展して、てっきり喜び合うのかと思っていたアイトは、今の予想外の事態に驚きを隠せない。
「正直、サノくんとアイトくんが合流した事による捜索向上の成果がここまで上がるとは思いませんでした。それは大変に結構なのですが、ちょっと私の準備が間に合わない。そしてサノくんが考えているように、本来なら最優先するのは地中の探索者を突き止める事なのでしょうけど、上層部は今すぐにでも地表の大捜索を開始するつもりでしょう。次のマザー探索では、もしかすると相当な困難が待ち受けているかもしれません。サノくん、アイトくん、くれぐれも注意して下さい。絶対に無茶をしないこと」
沈痛な顔をしたタウズンがゴースト体の2人を見つめる。サノはそれを受けて頷くが、アイトにはその意味が分からなかった。
◇
タウズンの予見していた通りに、マヌエアリーフでは大規模な捜索計画が実行されようとしていた。これまでは500人を越える第4世代のエーテルボディが中心となってマザー地表での捜索を行っており、第5世代ボディは逐次追加される形だった。また捜索方針も、発見目標である未発見のマゼランポイント、パウダー発生源、そして地表に残った人間のいずれかを、各自が漠然と探す形を取っていた。
しかし首都中心に最も近いマゼランポイントが見つかった事により、地上捜索は新たなフェーズに突入しようとしている。第5世代ボディを中心に、パウダー発生源を発見する事を最優先とした一大捜索である。ナーガに対して第5世代が有効だと判明した事、そして目的地である首都中心部への進路が確定した事。捜索で大きな2つの壁が克服された以上は、マヌエアリーフが最大戦力を持って事態打開を目指すのは最善の策に思えた。
首脳部では連日連夜、近くに行われる地表大捜索のプランが検討され、また第5世代のエーテルボディは地表から戻り次第、メンテナンスや調整が行われている。関係者達の間に、日に日に緊張感と高揚感が向上していた。




