第30話 ナーガの遺言
第一部 完です
すぐに意識を周囲に飛ばして、アイトさんとミガディさんの状況を確認する。天狐のアイトさんは、その凄まじい身体能力で、ナーガを完全に翻弄していた。一方でミガディさんは、手にした槍と盾で、何とかナーガの両腕のヘビを防いでいる。僕は地面においたナーガの頭部を脇に抱え、捜索で使用する情報伝達用の杭を取り出すと、すぐにミガディさんの方に向かった。
以前、タウズン博士にも確認したけど、侵食型エーテルボディは敵と味方を識別するために、頭部に特殊な細胞が埋め込まれている。墜落した宇宙船でも味方識別で敵味方を判断していたし、どうやら侵食型エーテルボディの特徴らしい。
ミガディさんを攻撃していたナーガは、その背後に近付く僕を全く気にしていなかった。これは僕が抱えるナーガの首から、味方だと誤判断していたためだ。そのまま無防備なナーガの尻尾のそばに近づくと、尾の真ん中を杭で地面に縫い付けた。この杭は内部に超強力なバネを内蔵しており、鋭い先端が自動で地中に突き刺さる仕組みだ。硬い地面も容易に貫く杭はナーガの硬い胴体も簡単に貫通し、地面に突き刺さった。尻尾を固定されたナーガは、体の伸縮範囲でしか動くことができなくなった。
僕は長巻を取り出すと、ナーガの肩に斬りかかった。さすがにナーガも杭を打ち込んできた僕を敵とみなしたようだがもう遅い。背後から攻める僕に、正面からはそれまで防御に徹していたミガディさんが反撃に移る。尻尾を固定され大きく動けなくなったナーガは、両腕のヘビでなんとか僕たち2人に対応するが、混乱しているのが手に取るようにわかる。メデューサさんならこんな状況でも冷静だろうな、とまたもや変な事を考えながら振るった長巻が、ナーガの肩に突き刺さる。一瞬、動きが止まったナーガに対して、ミガディさんの槍がまるでドリルのように拗じられながら、ナーガの胴体を捕らえる。その重い一撃はナーガの腹を食い破り、先端が背中にまで飛び出す程の一撃だった。僕は長巻を引き抜くと、全身をねじって横に薙いてナーガの首を両断した。
「ミガディさん、ナーガの首を持って下さい。そうすれば他のナーガはこちらを味方だと判断します!」
僕の声を聞いたミガディさんは、宙に跳んだナーガの首をそのまま素早い動作で地面に落ちる前にキャッチする。
「よし、大丈夫だ。アイトくんに助力しよう!」
「はい、先に行って下さい。杭を持っていきます」
ミガディさんに先行をお願いしつつ、僕は荷物から杭をもう一本だして、アイトさんの方に向かう。地中に居るガバナーの追跡者は、この戦いをどこまで感知しているのだろうか。
残ったナーガも、同じように杭で尻尾を地面に縫い付ける事に成功した。さらに3対1だ。僕の長巻とミガディさんの槍で体を突き刺されたナーガは、最後にアイトさんが首を刎ねて行動を停止した。
ナーガとの戦いを終え、僕は同じように残り2人のナーガ頭部と会話をした。この状態で中にいた魂は、はじめて恐怖以外の感覚を感じた様子だった。会話を終えると、僕はゆっくりとナーガの頭部を地面に置き、手を合わせるようにしながら手にした刀で両断した。これがナーガの中にいた魂の、最後の願いだったからだ。
ナーガの魂が感じていた恐怖を少しだけミガディさんとアイトさんに伝える。二人とも何も喋らなかった。ただもう一つ、ナーガから教えてもらった事がある。僕たちにとって大きな転機になる情報だ。
「ミガディさん、3人目のナーガが未発見のマゼランポイントの情報を持っていました。まずそこに向かいませんか?」
◇
ナーガの魂に残っていた記憶に、塵芥の中に埋められた球体の映像があった。その球体はマヌエアリーフでの指導員タリアさんが見せてくれたマゼランポイントが入った保護ボールに酷似している。過去に16個の保護ボールを地表に投下し、未だ見つかっていない4個。場所はここから半日も掛からない距離だ。
もう一つわかったのが、ナーガの侵食型ボディは地中の追跡者を感知し、そこから命令を受けているという事だった。蛇が獲物を探すのに微小な温度差で把握する。なのでナーガのボディもこの地表で僕たちをてっきり温度差か何かで検知しているのかと思っていたが、地表に転移してきた時からすでに追跡されていた事になる。となるとガバナー側は、追跡対象が転移する場所、つまりマゼランポイントの位置を把握していて、そこに転移した捜索者に地中から追跡している。地表は様々な妨害パウダーでほとんどセンサが効かないのに、僕たちはガバナー側に常に見張られた状態だ。もしこの後に未発見のマゼランポイントを使えるようになったとしても、ガバナー側もそこを見張る新たな地中の追跡者を用意するはず。こういうのをイタチごっこと言うのだろうか。
地表を歩きながら、この事をミガディさんとアイトさんに相談する。二人とも、見えない地中の追跡者を意識しているようだ。
「なるほど、サノくんの説明で納得した。道理で同じ進路を使わなくても、要所要所でナーガの襲撃を受けてきたわけだ。しかもいつも同じ場所ではなかった。この地表ではガバナー達もセンサは使えないものだと思いこんでいたが、向こうはこちらが地表に着いた時から位置を把握できていたという事なのか……」
「そうなると、地中の追跡者をどうにかしたいですよね。でも私のボディでもぼんやりとしか存在が捕らえられませんし、地面を掘っている間に逃げられちゃいますよねきっと」
そうなのだ。アイトさんの指摘通り、地中に居る何かをどうにかしたいけれど、そのアイデアが浮かばない。でも今も地中から追跡されていると思うと、不快感が極まりない。空を飛べれば追跡を撒けるのかもしれないけど……
「全速力で疾走ったらどうでしょうか?地面の中なら、そんなにスピードが出ないと思います」
「いや、私の予想だが地中を掘って進んでいるのではなく、地中に張り巡らされてた既設のラインを動いているのだろう。私も詳しくないが、マヌエアリーフの地面にも同じような仕組みが地面に埋まっている。となると我々の全速力でも振り切れないと思う」
そんな事を話し合いながら、でも決定的なアイデアが出ないまま、いよいよ隠されているマゼランポイント付近まで来た。不思議と新たなナーガやバルログは襲ってこない。なぜだ?てっきりマゼランポイントを守るためナーガの集団が待ち構えているかと想定していたのに……?
◇
ナーガの中に居た魂に教えてもらった場所は、一見してただの廃墟であり、ここまでさんざん目にしてきた地表の光景と大きな差がない。塵芥が小さな山のように盛り上がっているが、そこにマゼランポイントの入った保護ボールが埋まっているのだ。保護ボールは直径20メートルはある巨大な球形だけど、眼の前のものはその大部分が地面に埋まっていて、遠目には何もないように見える。きっと過去にも他の捜索者が近くに来たのかもしれないけど、見つけられなかったのも仕方ない。それくらい、完全に周囲に溶け込んでしまっている。
僕がブロウガンの圧縮空気を撃ち込むと、厚く積もっていた砂塵が吹き飛び、見たことのない素材の球体が現れる。ミガディさんが嬉しそうにその球面を探っている。よかった、どうやらマゼランポイントの入った保護ボールそのものだった。ミガディさんがボール表面をしばらく操作すると、僕たちに遠く離れるように退避を促した。どうやら保護ボールには地面にめり込んでしまった事も想定して、強制的に脱出できる仕組みがあるらしい。
少し経つとボールは地面に思いっきり圧縮空気を放ち、空中に数メートルほど飛び出した。そのまま地面に落ちると、ゴロゴロと転がる。そして蕾が開くかのように、ボールの殻が割れて中からマゼランポイントが現れた。なんだか竹やぶでカグヤ姫を見つけた気分だった。
その後もミガディさんの作業は続く。マゼランポイントが起動するまで、かなりの時間が掛かるそうだ。その間、僕もアイトさんも周囲を警戒していたけど、バルログもナーガも現れる事はなかった。そうして保護ボールを見つけ出してから5時間ほど過ぎた頃、数年ぶりにマザー地表に新たなマゼランポイントが構築され、正しく動作を開始した。




