表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/49

第27話 抱擁のふたり

「さて、交戦した記録を残そう。あとここでチャージも行ってしまおう」


ミガディさんが地面に情報伝達用の杭を打ち付け、そこに時間や敵の情報と、マゼランポイントA7から2回目のチャージを実行した事などを記入する。アイトさんの感知能力だと、感じ取れる範囲に2本ほど別の杭がありそうだとか。僕の感知だと全然わからない。すごいなアイトさん。


「引き続き、首都中心部と思われる方向に進む予定だ。今までの記録では、次のエーテルチャージまで多分ナーガとは遭遇しないと思われる。しばらくバルログ相手になるだろうけど、サノくんは会話を続けるかい?」


「そうですね……出来る限り、会話に挑戦したいと思います。ただ今みたいに、戦いの最中に会話するのではなく、無力化した後にした方が安全かなぁと……」


要はとどめを刺した後に、会話するという事だ。なんか非道な行いのように感じてしまう。


「その方がいいね。これから先なんだけど、襲いかかってくるバルログは想像以上に多くなる。戦いながら会話ははっきり言ってオススメしない。心苦しいのは分かるけど、今私たちがするべき事は、中心部に到達して、この悪夢の連鎖を断ち切る事だ。バルログのボディに侵食されてしまった魂については、私としては諦めている」


本当だろうか?かつてこの母星マザーで生きていた人たちの魂について、侵食された、イコール死んだ、と割り切れるものだろうか。メデューサさんもロイヤルガードも、魂だけは生きていた。10年以上もエーテルボディに侵食され、そんな状態でも宇宙船を守り続けていた強く誇り高い魂の持ち主だった。メデューサさんのようにエーテルボディの侵食に負けなかった人もいたんだ。


「わかりました。まず優先することは中心部や生きている人たちを探す事です。ただ可能な限り、怪物になった人たちとの会話もしていきます」


ミガディさんだけでなく、アイトさんも安心したような顔をされた。そうか、心配掛けてしまってるんだな。



あのバルログとの初遭遇から何時間が経ったのだろうか、そしていったい何匹のバルログを倒してきたのだろうか。一度に10体のバルログに襲われてから、討伐数を記録するのを僕は諦めた。このマザー地表において僕たちが優先する事は中心部や生存者を探す事、そして生き延びる事。それを痛感するほどに、集団で次々に襲い掛かってくるバルログは脅威となった。


いや、戦闘力だけで言えば脅威ではない。第5世代エーテルボディであれば、バルログを倒す事は問題ない。アイトさんの卓絶した索敵能力に鬼神ボディの戦闘能力があれば、バルログは容易に無力化できる。ただバルログの中には、マザーに住んでいた人の魂が入っている。その事実に気が滅入ってしまっている。


そしてバルログを倒した後に余裕があれば頭部に触れて会話を試みるが、どの個体からも魂の形が失われていた。鬼神の手が感じ取れるのは、澱んだような、沈んだような、黒い水の中に泥を溶かしたような、そんなイメージだけだった。割り切れない感情のまま、ミガディさんの指示で3回目のエーテルチャージの時間が来た。


「ここまででようやく首都までの道のりの半分かな……」


腰の高さまである瓦礫に座ったミガディさんが、手にしている長槍を点検しながら呟く。あまりに変わらない風景に、次々に襲いかかってくるバルログ、そして気持ちが沈んでいく瓦礫の山。光が届かない薄暗い星の地表、人が作り上げた文明が崩壊した地表、確固たる道標がなく自分の足跡さえ消えていく地表。何もかも、つらく厳しい現実だ。


この地表捜索は、最初に思っていた以上に心への負担が大きい。アイトさんも沈んでいる様子が手にとるように分かる。彼女は戦闘において、その優秀極まりない索敵能力で何度もバルログの位置を教えてくれる。しかし疲労も大きいのだろう、戦闘が終わると明らかにぐったりとしているのだ。エーテルボディは肉体的な疲労がない。それでも感じる疲れは魂そのものが感じているものだろう。ミガディさんも僕やアイトさんのこうした精神的な消耗状況がわかっているのだろう。今回のマザー捜索を、そろそろ打ち切って撤退を考えている様子だ。


「二人とも不慣れなボディに、はじめてのマザーで疲れが溜まり始めた頃だろう。無理する必要はない。そろそろ撤退を考えようか。一回目の地表探索で、ここまで来れた事はたいしたものだ」


チャージを終わらせたミガディさんがそう提案すると、意外なことにアイトさんが反対した。


「あの、もう少しだけ進んでみませんか?私なら大丈夫です。どうしても不慣れな場所と、この天狐ボディを使いこなすのに苦労してますけど、リーフに戻るほどではありません。逆に今戻ってしまうと、またここまで来る方が大変です。もう少しだけ、進みたいんです」


「アイトさん、無理してない?無理だけは禁物だよ」


「サノさんに言われたくないです。ただちょっとだけ、サノさんとナイショ話したいです。良いですか?」


ミガディさんはそれを快く了承すると、記録用の杭を打ってくるといって、少し場所を離れてくれた。メンバーを気遣ってくれる、本当にいい人だ。そうしてミガディさんが僕の検知範囲から離れると、アイトさんがそばに寄ってきた。そしてぎゅっと抱きついてきた。


「すいません、ちょっとだけ、こうさせて下さい。これだけで元気が出るんです」


「良いよ。というか僕も元気が出るから、ちょうど良かった」


そう言いながら、僕も抱き返す。マザーの地表で、抱きしめ合うエーテルボディ姿の地球人の2人。なんだか不思議だ。こんな場所に来てしまったけど、アイトさんが一緒なら大丈夫、そう思ってしまう。アイトさんと抱き合っていると、心の底に澱んでいた暗い何かが溶けていくように感じる。鬼神ボディの手の平から、アイトさんの愛情のようなものが伝わってきて、何だか照れくさい。


僕もアイトさんも発言どおりに元気を取り戻せた気がする。人間の体でないのに、不思議とお互いの気持が伝わり合うのは、鬼神ボディのもつ精神感応のせいだろうか。呼吸の不要なエーテルボディなのに、二人で同時に息を吐き出す仕草をしてしまい、お互いの顔を見て笑ってしまった。


「エーテルボディの体なのにサノさんの体温が伝わってくるようで、なんだか嬉しいです。ところでサノさん、気付いてます?地面の下から、私たちをみているような気配があります」


「え?いや、全然気づかなかった。それってこの辺りって事?いつから?」


「私が感じ取れる範囲だと、マゼランポイントでこのマザーに着いた時からずっとです。人間がみているというより、なんだか小さい物がこちらに着いてくるような……地面の中を掘り進んできているような、そんな僅かな音と振動が感じられるんです」


「それは今もこの下にいるって事だよね?数はどれくらいか分かる?」


「一体のようです。ミガディさんではなく、私たちの下に居ます」


「なるほど……すごいねアイトさん。もしかして地下の気配がミガディさんと僕たちのどちらに着いていくか調べるために、この状況を作ったの?」


「はい。それもあります。でもサノさんに抱きつきたかったのも正直あります」


そう言って笑うアイトさん。天狐の姿でも十分に可愛い。そしてとても重要な情報をくれたし、僕にも元気をくれた。本当にありがたい。ついアイトさんを抱きしめる腕に力がこもる。


「いろいろありがとうアイトさん。おかげで少し謎が解けた。もうちょっと頑張りたいな。僕の希望は、ナーガと会話できるか試したい」


「いいですよ。サノさんのために頑張ります。そのために私は来たんですから」


ほんと、いい子だよなアイトさん。なんで僕にこれだけ好意を持ってくれてるのか分からないけど、今は甘えさせてもらおう。……いやホント、なんでこんなにいい子が僕のそばにいてくれるんだ?美人局か?


「また変な事を考えてますよねサノさん。ダメですよ、素直になりましょう!」


「はい。わかりましたアイトさん。じゃあ、そろそろミガディさんと合流しますか。ちょっと名残惜しいけど」


「ふふ、私ももうちょっとこうしていたいです。でも元気が出たのでミガディさんのところに行きましょう。今度は人間の体でお願いしますね」


ぐっと胸に来るセリフを食らう。エーテルボディなので心臓の鼓動はないけど、柄にもなくドキドキしてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ