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第26話 バルログの魂

「ミガディさん、サノさん。少し先に動くものが見えます。数は……6体。多分、バルログと思われます」


全身の体毛をふわふわと揺らしながら、アイトさんが警告を発する。ちょうど2回目のエーテルチャージをしようかと考えている時だった。周辺は相変わらず崩れ落ちた瓦礫の山しかないような場所だが、心なしかその瓦礫が今までよりも高く積もっていて見通しが悪い。今立っている場所は、元は高層ビル街のように大きな建物だらけだったのかもしれない。


「ミガディさん、アイトさん、バルログに鬼神の手で会話ができるか試してみたいです。なので2人はバルログにとどめを刺さないでもらえますか?」


僕が、というより鬼神ボディが持つ、手による他のエーテルボディとの会話能力。これが僕がこの次元に再び呼ばれたもっともな理由だと考えている。一世代前の鬼人ボディも同じ能力を持っていて、そのお陰で僕は何度も助けられたし、最終的にみんなを助ける事ができた。今、マザー地表にいる怪物は、すべて侵食型エーテルボディに囚われた人たちの魂が入っている。ならば、その魂に会話が通じるか、試してみたい。


2人から了承を得る。負担をかけてしまって申し訳ないが、やれる事はすべて試してみたい。


バルログはのっぺりとした目しかない顔に丸い関節をもつ2本足の怪物で、一見すると地球の操り人形で、手と足に刃物を付けたような外見を持つ。カチャカチャと音を立てそうな見た目に反して、動きは機敏で足音を立てずに必ず複数で奇襲してくる。奇襲は厄介だが、それさえ気をつければ第4世代エーテルボディでも対処できる程度の戦闘能力である。ただ時には大集団で襲ってくる事もあり、油断だけは出来ない敵だった。


惑星ミヌエトに墜落した宇宙船内の探索時に、迷路で遭遇したときにはなかなか苦労したバルログだった。さて今回はどうだろうか。鬼神ボディは様々な武器を使いこなす能力を有しているが、今回は会話を優先するため籠手を付けた。念のために刀を背中に収める。



やはり戦闘はバルログの奇襲から始まった。周囲の最も高い瓦礫から、まるで地面を滑り落ちてくるように2匹のバルログが僕の背後から飛び掛かってくる。しかしアイトさんの索敵に加え、鬼神ボディの持つ検知能力で、その攻撃はすでにわかっている。わざと奇襲を誘うように背中を見せていたのだが、あまりに想定通りにバルログが動いてくれるので、逆に罠かと疑ってしまったくらいだ。


まぁとにかく、背後から2匹同時に両手の刃物を突き出して飛び掛かってくる。ただマヌエアリーフで行ったシミュレーションとほぼ同じ攻撃速度なので、奇襲がわかっていれば避けるのは簡単だ。


僕は振り向くと、右側にいたバルログの攻撃を横に躱しつつ、胴体を殴りつけて遠くに吹き飛ばす。ほぼ同時に斬りかかってきた左側のバルログも、腕の刃物を籠手で受け流す。そしてそのまま腕を伸ばして頭部を掴み、地面に叩きつけた。地面は瓦礫の粉塵が積み重なっていて柔らかいため、バルログの頭部は壊れる事はない。僕は地面に這いつくばる姿勢になったバルログの背中に膝を落として完全に動きを封じつつ、頭部を掴んだままの左手でバルログの中に会話するように自分の意識を飛ばした。


メデューサさんやロイヤルガードとは、鬼人ボディの手に備わっていた特殊な精神感応の機能によって、中にいた魂と会話する事ができた。手の平を接触させる事で、中にいた魂をはっきり感じ取ることが出来たのだ。


しかし今、バルログの中に感じる魂は、まるでその形も意志もなくなっていた。メデューサさんの魂は硬い卵のようにはっきりとしていたのに、このバルログの魂は床に落ちて殻が砕け散ってしまった卵のようにドロっとしている。会話どころか、意味が全くわからない曖昧な残留思念のようなものしか感じられない。手の平から必死にバルログの魂に問いかけても反応がない。


手の平での会話はほんの数秒も掛からない。本当はもっと会話を試みたかったが、先程殴って吹き飛ばしたバルログが、再び体勢を立て直してこちらに向かってくるのがわかった。仕方なく、背中の刀を抜いて、今組み伏せているバルログの首を斬り落とす。すぐに立ち上がって、2匹目のバルログに対峙する。そいつは両手を大きく振りかぶって来るが、それを振り下ろされる前に右手の刀を横に一閃し、肘から上を斬り落とす。両腕の武器を失ったバルログは、今度は足を蹴り上げてこようとするが、それより早く僕は左手でネックハンギングし地面に掴み落とした。


もう一度同じような体勢になってバルログの頭部に手を当てるが、やはり中から感じ取れる魂は、確固たる形は失っていてぼやけたものしか伝わってこなかった。ただ1匹目と違った景色が、ぼんやりと見えた。僕は敵ではない、仇を取りたい、何か教えてくれ。いろいろ必死に問いかける。しかし最後まで会話は出来なかった。


申し訳ないながらも、2匹目のバルログも首を落とす。エーテルボディは頭部だけでも生きていられるが、活動源であるエーテルチャージが補充されないと、およそ100時間で活動を停止する。活動の停止、すなわちエーテルボディの中にいる魂の死、だ。バルログに侵食されてしまった魂が、これで成仏してくれるといいのだけど。


周りでは、アイトさんとミガディさんがそれぞれ2体のバルログと戦っている。アイトさんはその忍者のような動きで完全に相手を翻弄し、ミガディさんは構えた長槍と盾でバルログの刃物を次々と破壊している。どちらに行くか一瞬迷ったけど、まずアイトさんの方に向かい、3匹目のバルログを地面に叩きつけた。もう一匹はアイトさんに相手を続けてもらいながら、バルログの頭部に会話を試みる。会話ができなくても、なんとか情報を引き出せないか、いろいろ訴える。が、バルログの中に居るはずの魂からは何も返って来なかった。仕方なく最後は首を落とす。……それを6回繰り返したところで、最初のバルログとの邂逅は終わりを告げた。



「ダメでした……魂が侵食されて時間が経ちすぎたのか、それともこのバルログの侵食型エーテルボディの特性なのかわかりませんが、中にいた魂は6人とも境界が完全になくなってました。もう意識も記憶も自我もなく、何もかも溶けてしまったような感じで……」


後味が悪いマザー地表の初戦闘を終えると、僕はミガディさんとアイトさんに結果を報告する。そもそもタウズン博士から説明を受けるまで、バルログが侵食型エーテルボディだとは思わなかった。同じ侵食型エーテルボディであるロイヤルガードやメデューサさんは、中にいた魂がまだ境界というか、自分が人間であるという強い意志のようなものを感じ取ることができた。だから鬼人の手の平を通して会話ができた。


それを説明すると、ミガディさんも納得したような顔をする。


「確かにあの墜落した宇宙船では、ロイヤルガードもメデューサも、それぞれが自分の意志を持っていた。宇宙船を守るという確固たる決意を。それに比べてバルログは、ただ敵に襲いかかるだけだった。多分、中に囚われた魂の存在というか強さの違いがあったのかな」


そうなると、バルログとは多分会話は出来ない。会話を試みるなら、メデューサさんと同系の侵食型エーテルボディである『ナーガ』だろう。


「遭遇するナーガが1体だけで行動しているなら良いんだけど、場合によっては複数のナーガが一緒にいる事もある。状況を見ながら対応を考えよう。場合によっては撤退や、最悪の状況ならゲートで地表から脱出する必要がある。無理することだけは厳禁だ」


この中で唯一、ナーガと戦ったミガディさんの言葉だ。確かにその通りだろう。でも僕は、惑星ミヌエトの墜落宇宙船の中では、結構無理をして会話を優先してきた。虎穴に入らずんば虎子を得ず、決死の覚悟があったから会話ができた、そんな気がする。さっきのバルログとの会話も、僕は僕なりに必死で会話しようとした。


もし会話して、それでこちらへの敵対意識を止めてくれるならいい。でも会話した上で、こちらへの敵意が消えなかったら、そのまま攻撃される事になる。会話するために動きを止めている僕は一方的に不利になる。……やはり、首を斬り落としてから会話を試みた方が良いのだろうか。その方が安全なのは確実だけど、自分の首を落とした相手と友好的に対話してくれるだろうか?うーむ、答えが出ない……


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