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第23話 マゼランポイントの憂鬱

マゼランポイントA7への転送が一瞬で終わると、エーテルボディの目が捉えたのは腐ったミカンのような色の風景だった。宇宙から見た時は灰色に包まれていたけど、実際に地表に立つと、赤茶けた濃霧と白い大地が続く。ここには太陽の光は届かない。もし人間の目だったら真っ暗で何も見えないだろう。


でもこの鬼神が持つ目は、微細な熱や光を増幅し、どれだけ暗夜であっても周辺の状況をまるで日中のように見ることができる。とくに第5世代エーテルボディは、この惑星マザーでもかなりの距離を見通せる感知能力を持つという説明だった。



「初めてのマザー、二人の感想はどうかな?」


地表で待っていたミガディさんに言われて、隣にアイトさんが立っている事にようやく気付いた。あえ?いつの間にそばに? ……ああ、感覚がズレているんだ。周囲のパウダーが鬼神ボディの感知を乱しまくっている。タリアさんの忠告にあった『感覚の狂い』ってこういう事だったのか。


「すいません、自分の感じていたものと実際のものが違っていて、感覚の狂いがあります」


「私もです。景色は見えているんですけど、ミガディさんやサノさんが地形に溶け込んでしまっているようです」


「二人とも特殊な感知能力を持っているんだった。たぶん、いろんな情報が見えすぎているんだ。少し時間をおこう」


ミガディさんはそう言うが、どうも見えすぎているのとは違う気がする。本来なら街並みが見えていなければならないのに、それが見えないのだ。感じるのは砂糖菓子で作られたお城が熱で溶けてしまったような、津波で被害を受けた沿岸の街並みのような…… 


「わかった、アイトさん。周りに建物が何もないんだ。全部崩れ落ちて瓦礫のようになってる。あの宇宙船のB8みたいに」


落ち着いてもう一度、周囲を見回す。今度は先入観を持たず、ただ鬼神ボディが感じ取るものを見る。そこは街全体を巨大なヤスリで削り下ろしたような廃墟だった。材質の違いだろうけど、完全に粉々になっているものもあれば、少しだけ元の形がわかりそうな残骸もある。瓦礫というより塵芥といった方がよりしっくり来る、それくらいに崩れ去ってしまっているようだ。僕が知見できる範囲には、建物と認められるものは存在しない。


「私もわかってきました。いろんな大きさの固まりが積もったような地面になってるんですね。それで勘違いしてました」


僕もアイトさんも、何となくダムに沈んだ村や町のような、今のマザーはそんな場所なのだと思っていた。マヌエアリーフのように近代的な建物が残っている、そう思ってしまっていた。まったく違った。ここはパウダー技術によってすり潰された巨大都市の残骸しかない。そしてミガディさんも僕たちの思い違いに気付いたらしい。


「マザー地表の建物は、腐食性パウダーによってこの30年の間に、完全に原形をとどめないまでに崩壊してしまっている。地球の2人はそれを知らなかったのだな」


「もしかして、ほとんどの地表がこんな状態に?」


「すべてかどうかはわからないけど、今まで地表捜索が行われた範囲では、みな同じような状況だ。道路や建物との区別もほとんどつかない上、地磁気や電磁波もパウダーで乱されてしまい、自分がどこにいるのか判断するのも難しい」


まさかガバナーがここまでマザーを壊してたとは。そして気分は大砂漠のど真ん中に方位磁石も何も持たずに突然立たされたようなものだ。この次元で最初にこの地表に降りた人は、母星が変わり果ててしまった姿を見て、どんな気分だったことだろうか。……ん?何か変だ。違和感が……そうか。


「こんな状態になっても、まだ地表のパウダー発生源は活動しているんですか?」


「タウズン博士らが言うには、十数年にわたってパウダー発生源は稼働し続けているという事だ。その発生源はすべて首都中心部にある。だからこそ、そこに辿り着かなければならない」


「あの、サノさん。どういう意味ですか?」


「周囲の状況から考えると、もうまともな建物は残っていないし、電気のようなエネルギー供給も無くなっているように見える。でも中心部では今もパウダー発生源が動いている。って事は、中心部には建物やエネルギー供給が何かしらの形で今も残っているんだと思う。人も多分居るだろうね」



「地上班の探すべき対象は3つ。地表の人間と、パウダー発生源、そしてマゼランポイントです」


マヌエアリーフでタリアさんから講習を受けたとき、先生役のタリアさんから最初に言われたセリフだ。人間とパウダー発生源はわかる。最後のマゼランポイントについての説明はこうだった。


まずマゼランポイントとは宇宙都市マヌエアリーフから空間転移したときの出口となる装置だ。


数年前にマヌエアリーフでは、地上に向けてマゼランポイントが入った16基の保護ボールをマザー首都周辺に落下させた。投下時は4列×4行の均等な距離で、ほぼ同時に出射したらしい。なにせマザーの重力圏内は、あらゆる視認性が失われてしまうので、首都の正確な位置を確定するのも大変だったらしい。


そのため地上で少しでも簡単にマゼランポイントの入ったボールを見つけられるように、同時に地表むけて投下するだけでなく、一緒にエーテルボディの人たちも、そのボールに同伴する形で地上に降り立った。ミガディさんもその一人だったらしい。


その努力の甲斐あって、マゼランポイントは現在、マザー地表に12箇所ある。半分当てずっぽうの作戦にも見えるけど、効果は大きく、ちょうど半分の8基が地表着地時にきちんと発見され、中からマゼランポイントが取り出されて無事に設営と運転開始が可能となった。残りの8基のうち4基はその後の調査で無事に見つかっている。


しかし首都中心部により近いと思われる4基が、今も見つかっていない。当時、ボールの落下に追従した人たちも、いまだにマヌエアリーフに帰ってきてないそうだ。地上捜索班の役割の一つに、まだ見つけていない4つのマゼランポイントを探し出す事も含まれている。


地表の人間と、パウダー発生源、そして未発見のマゼランポイント、これら3つはすべて首都中心部にある。そこに近づけば、自ずとどれかが見つかるだろう。



ちなみにマゼランポイントが設置される以前は、十数人らがまとめて落下式ポッドの中に入って、地表に着陸する形でマザー地表に降り立っていたらしい。しかし様々なパウダーが吹き荒れる中、センサ類がまったく使えない状況での地表着地は当然危険が伴い、幾度も事故が生じたんだとか。そうした犠牲の元にマザー地表にマゼランポイントが設置され、今はこうして安全にマヌエアリーフから到達する事ができるようになった。


とはいえマゼランポイントを使っても、そこからパウダー発生源と予想されている首都エリアまで、エーテルボディの体で丸々10日間はかかるらしい。もっと首都に近い場所に、発見されていないマゼランポイントがあるはずなので、もしそれが見つかればかなり大きな足掛かりとなる。マゼランポイントが入ったボールは相当に大きいので、見ればすぐにわかるそうだ。またボールには様々な仕掛けや対策が施されているので、落下衝撃で地面に潜ってしまうことも考えにくく、近くまで行けばエーテルボディも感知できるでしょうとタリアさんが説明していた。


しかし未だに16個投下した中で4つもマゼランポイント入りのボールが見つかっていない。首都近郊にはナーガを始めとした侵食性エーテルボディの怪物たちが徘徊しているとの事なので、そいつらが守っているのだろうか。それともガバナー側が発見して、先に持ち帰ったのか。


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