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第20話 鬼神のサノ

軍用エーテルボディに魂を移すにあたっての契約を交わし、いよいよ実際に新しい自分の体になる第5世代のエーテルボディと対面する。僕の場合は、以前ポータルで一度見ているので新鮮味は無かったけど、それでもちょっとワクワクする。あの凄まじい超人的な鬼人ボディを、さらにパワーアップしたのが第5世代の鬼神ボディなのだ。バージョンアップ、パワーアップは男のロマンなのだ。


ちなみにポータルの時は、サギ女神を欺くために僕は鬼神ボディに入らず、鬼人ボディにいた魂を鬼神にこっそり入ってもらった。その策が的中し、サギ女神を倒した鬼神は目的を果たして満足し成仏したのか、しばらくして起動停止していたのだ。ミガディさんと一緒にポータルにあった鬼神ボディも一緒に本国に戻ったとの事だったので、やはりこれから僕が入るボディは同じモノだろう。ボディの中に魂が残っているのか、少し緊張する。


「サノさん、準備はいいですか?」


エーテルボディに魂を移すため、裸になって氷晶保存管の中で縮こまっている僕に、スピーカから女性オペレータの声が入る。準備はいいけど、この女性オペレータに裸を見られているのかと思うと少し恥ずかしい。


準備OKです、お願いします。そう回答すると、周囲が暗くなり、だんだんと薬品の臭いが立ち込めてくる。


「現在、全身消毒中……消毒完了しました。防腐処理に入ります……」


最初にエーテルボディに魂を移された時は、あまりに強引かつ迅速な作業だったのでわけがわからないうちに終わったけど、今回は余裕がある。胃カメラ検査の1回目と2回目くらいの違いがある。


「生命維持装置の取付けが完了しました。保存プログラムを実行します。魂の抽出を開始します」


いよいよだ。我が人間の体よ、しばらくの間眠っていてくれ……



「エーテルチャージ実行中・・・・・・魂の付着完了。定着度合い82%。神経同期率85%」


「うわぁ、この人。最初からものすごい同期率ですね」


エーテルボディ起動チームのスタッフがあまりの衝撃に声を上げる。今回のサノが50人目の第5世代エーテルボディになる。選抜された50人はみな第4世代でボディとの適合度が70%以上を有していたが、それでも第5の新しい体になるにあたって、最初は適合度が低かった。ここまでの48人で、第5世代ボディに魂を付着させた直後での定着度合いと神経同期率を70%越えた魂は1体もいなかった。


「天狐に入った女の子の適合度もすごいわよ。定着度合い71%。神経同期率72%。サノが異常なだけで、この子もすごい数値」


「曰く付きだけだって、二人とも圧倒的な適合を示してますね。この時点で現状でも上位の適合度だし。地球人が特別なのは間違いないようね」


とはいえサノの最初から80%越えははっきり言って異常で、スタッフ側にとってはちょっと考えにくい事態だった。


「なんだか一度、この第5世代に入った事があるような数値ですね……」


スタッフの1人がサノの数字を見ながらボソリと零す。サノは今回特例として地球という別の次元から呼んだメンバーだったが、このずば抜けた適合度を見ると、確かに呼んだ価値があったと思う。もう一人、地球人女性の適合度も定着度合いと神経同期率は70%越え。どちらも申し分のない数値だ。


「何で地球人って、こんなにエーテルボディと相性が良いんでしょうね?」


「さあ?仮装パーティが趣味なのかしらね。それよりもうすぐエーテルチャージが終了よ。気を引き締めて、ミスがないようにこちらも頑張りましょう」


「はい!」


あちらこちらから威勢のいい返事が起きる。第5世代がマザーに投入されれば、地表調査が格段に進むだろう。直接探索するメンバーだけでなく、こうしたスタッフ達もまた大切な役割を持っていた。



目が覚めると、以前と同じような円柱状の空間に僕は立っている。周囲に白い霧状の何かが漂っているが、目が冴えていくうちにそれは消えていく。そうだ、僕はまたエーテルボディの体になったんだ。


鬼人ボディに入れられた時は、すでにボディの中に隠れていた魂と会話をした。この鬼神ボディの中にも魂が残っているかと思ったけど、どうやら誰もいないようだ。ただあのサギ女神を倒したのは確かにこのボディだ。それは確信できるし、その時に入っていた魂の想いみたいな物が感じ取れる。そっか、満足したのか。よかった。


「サノさん、お目覚めですか?私の声が聞こえますか?気分はどうですか?体は動きますか?」


スタッフの声が聞こえる。聞こえます、大丈夫です、これから動いてみます。そう答えて体を動かそうとする。あれ?動かない。なんだか粘着板にくっついたように、体が動こうとしない。鬼人の時はどうやったっけなぁ……そうだ、アイトさんに声を掛けられて、無理やり顔を見ようとしたんだ。思い出した。変に体を意識せず、本能だけで動かすんだ。


呼吸しない体ではあるものの、いったん深呼吸し、そして本能……よし、僕の裸を見たこの女性スタッフにセクハラしよう! そう思った途端に、体は動き出す。おお!動いた。というかもう違和感がない。……いや、セクハラしないよ。しないけど、ちょっと自己嫌悪だ。どうもこの次元に来てから、心の中の狼が騒がしい。


そう思って頭をかいていると、女性オペレータの声が再び届く。


「サノさん、器用に体を動かせてますね。他の人は最初の駆動に苦労されてますけど……何かコツが有るんですか?」


君にセクハラしたかったからとは口が裂けても言えない。どう言って良いのか迷った末、心の狼に従ったまでですと回答してスタッフの人を混乱させてしまった。


さていよいよ第5世代の鬼神ボディ、時間が経ってくるとその明らかな性能アップがすぐに感じ取れる。特に周囲環境の把握が段違いだ。鬼人ボディと同様に、この鬼神ボディも頭部にある角のようなセンサが圧力や温度などを検知しているようだけど、その認識範囲が倍以上になっている。人間では絶対不可能な、顔を向けずに自分の頭上や足元を認識できる。これが凄い。おかげで死角なしに近いのだ。


あとは筋力、これも感覚の範囲でだけど、鬼人の時よりも全てにおいて一段上のポテンシャルを感じる。この建物の中ではエーテルボディにリミッタが掛けられているだろうから、すぐに試せないけど、なかなか楽しみだ。


ただ一つ気になる点が。最強の存在であるメデューサさんと一対一で戦った時、この鬼神ボディなら勝てるだろうか? サギ女神は互角に渡り合えると言っていたけど、いざ実際にこの鬼神の体になっても、今のところ自信がない。


なんだろう、メデューサさんは何というか、侵食型エーテルボディが強かったというより魂自体がものすごく強かったんじゃないかなと思う。だから侵食されていても、メデューサさんは最後まで自分を見失わず、圧倒的な強さを持っていた、そんな気がする。


覚醒した部屋の中でいろいろ体を動かしながら、鬼人ボディやメデューサさんの事を思い出す。ウォーキングを繰り返していくうちに、ボディとの一体感が高まっていく。今度このボディで赴く先は惑星マザー、30年前の人為的事故で人が住めなくなってしまった星だ。僕に何が出来るのかわからないけど、再びまたエーテルボディになってしまった。そこに後悔はない、けれど何か引っ掛かるものがある。たぶん、アイトさんを巻き込んでしまった事だろう。アイトさんを巻き込んでしまって、本当に良かったのだろうか。

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