第16話 マヌエアリーフの全貌
朝の支度を終えると、ミガディさんに連れられて出発する。「いってらっしゃ~い!」というフェニーちゃんの声が、たくさん元気をくれる。誰かに挨拶して家を出るのって、数年はしてなかったかなぁ。
「いってらっしゃいって、なんか良いですね」
アイトさんも嬉しそうだ。そっか、アイトさんも僕と同じ一人暮らしだから、家を出る時に誰かに声を掛けてもらうのは久しぶりなんだろう。
そんなこんなで集合住宅になっている建物からチューブを使って外に出ると、そこは昨晩と違って、周囲全体が明るく照らされていた。あれ?と思って天空を見上げると、やはり天井は真っ暗な宇宙が広がる。
「太陽の光をリーフの床が拾って、周囲に拡散させているんだ。だからこの明るいのは自然光なんだよ」
となると、リーフはマザーの自転周期に合わせて動いているのか。
「そうだ、本部ビルに行く前に、少し遠回りになるけどちょっと寄り道をしていこう。いい場所があるんだ」
そう言うと、昨日と異なる経路のチューブに乗り換える。ほとんどの移動用チューブは直線なのに、今乗っているものは大きなカーブを描きながら上に向かって進んでいる。
「このチューブはリーフ最外殻に沿って、天頂部付近まで行くんだ。ほら、リーフの外がよく見える」
チューブの高度が増しながらビルの外側に移動すると、ここから見える景色が大きく変わる。周囲がビルだらけで天井しか宇宙が見えなかったのに、今は横にも宇宙が広がっている。そしてさらに高い位置に登ってくると、下の方に大きな惑星が見え始める。太陽の光を浴びているのに、この距離からもまったく色彩のない、灰色の星。この世界の母星『マザー』は、煙のような帳の中にその姿を沈めている。あれでは地表に太陽の光は届いていないだろう。
僕に寄り添う形でアイトさんもマザーの姿を見ている。あのポータルには地表に直結している軌道エレベータがあった。という事はリーフとマザーの間にも、同じ様に軌道エレベータの建設計画があったのではないだろうか?
「もちろん。もともとリーフとマザーの行き来は軌道エレベータを介して行われる計画だった。今はマザーがこんな状態だから計画は凍結しているけど、でも毎年、必ずその予算は確保されるんだ。このリーフに住むみんなは、マザーを諦めていないんだよ」
強い決意をもった目で、マザーを見下ろすミガディさん。顔つきもいつの間にか軍人さんになっている。
人工宇宙都市を見下ろせる場所に、公園のような円形の広い場所がある。僕たちの乗ったチューブがそこに到着すると、早朝であろう時間なのに、結構な人で賑わっていた。
「なんだかプラネタリウムの中に置かれたガラス細工のような街なんですね」
天井だけでなく、周囲すべてが宇宙空間に囲まれている。地球とはぜんぜん星空が違うし、そもそもこんな間近に宇宙を感じられる事もない。そして太陽の光がマザーとこのリーフを青白く照らしている。自分が一つの天体になってしまったような、幻想的な景色だった。
「リーフは大きく4つの区画に分かれている。私が働いている軍部は中央から南、研究部は中央から東、政府部は北、そして居住区は西。さて、じゃあ昨日と同じ軍本部ビルに行こうか」
再び、宇宙都市の天頂付近から地面に向かって下がっていき、昨日僕とアイトさんが転送されたビルに向かう。一晩過ごしたせいか今日は何となく周囲を観察する余裕があった。今この瞬間だけ、僕はマザーに起きている災厄を忘れる事ができた。しかしこの世界に住む人たちの事を思うと、心はまったく晴れなかった。




