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第14話 サノの大切な人

夕食はとても美味しかった。最近は研究室で宅配弁当か食堂の安くて味がイマイチな定食しか食べていなかったので、もう感動するくらいに美味しかった。というか、こうして気兼ねなく会話する食事自体を、長いことしていなかった。僕にとって食事とは、いつの間にか必要な栄養素を体内に取り込むための作業になってしまっていた。ちょっと反省しないと。



「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。ついつい食べ過ぎちゃいました」手を合わせながらご馳走様を伝える。

「私も食べ過ぎちゃいました。すごく美味しかったです」アイトさんもお辞儀をする。


この次元に来て、初めて手料理というものを食べたけど、日本人の味覚にもおいしいと思えた。当然見たこともない形の素材ばかりだけど、あっさり味で歯ごたえがあって、久しぶりに食べることに満足感を覚えた。そして一緒に食べる人達がいい人ばかりだと、食事がこんなに楽しいものだと改めて思った。


最初は会話が硬かったフェニーちゃんとも、この夕飯を通して仲良く慣れたと思う。特にアイトさんは、いつの間にかフェニーちゃんとスレンさんと一緒に、女性トークを始めている。この次元に再び連れてこられてから、アイトさんにとって厳しい話が続いていた。でもここに来て、ようやくアイトさんが心から笑顔になったようだ。そんなアイトさんを見ていると自然と笑みがこぼれてしまう。


楽しい夕食のひと時が過ぎ、お風呂に相当する人間用の自動洗濯機に入る。ポータルでも同じだけど、宇宙空間なので水は貴重なため、お湯につかるのは不可能らしい。ちょっと残念だ。そして洗体後、近未来的なデザインの寝巻き?を貸してもらう。みんなの洗体が終わって一段落ついた時に、ミガディさんから素敵なお誘いを受けた。


「サノくん、ちょっとだけ、お酒に付き合ってくれないかな?」


「いいですよ。こちらの世界のお酒に興味ありました。ぜひご相伴させて下さい」


琥珀色の液体が、とても薄いガラスの容器に注がれる。ここは人工都市なので、地球のように木の樽を使っての酒造など出来ないだろう。となるとこの都市のお酒ってどんな味がするんだろうかと、とても気になっていたのだ。


粘度がある液体を口に含むと、何かの果実の甘い味が口いっぱいに広がる。おお、これは予想外の味だ。そして次に炭酸のような泡がパチパチと舌の上をはじける。ちょっとびっくりしながら液体を飲み干すと、喉の奥から強い酒を飲んだ時と同じような焼けるような感触を感じる。でも胃の中が熱くなることはない。そんなに沢山の種類のお酒は飲んだ事はないけど、地球では味わったことがない味とのど越しだ。個人的にすごく好みで美味しいと思う。しかし食事をおざなりにしてきたせいか、食べ物に関して「美味しい」という感想しか出ないのは良くないなぁ。味について語彙が全然ないんだな自分。


アイトさんはスレンさんと一緒にフェニーちゃんの相手をしていた。でも僕とミガディさんがお酒を飲み始めると、フェニーちゃんが「あー!パパお酒飲んでるー!」とこちらに駆け足でよってきた。ミガディさんは笑いながら愛娘を膝の上に乗せると、スレンさんがフェニーちゃん用の飲み物を渡す。コクコクという音が、また格別なツマミに感じる。


自然に僕の隣にはアイトさんが座って、目を細めてほほえみながらミガディさんとフェニーちゃんの様子を見ている。あの墜落した宇宙船の中、サギ女神のせいで家族に会えないと零していたミガディさん。僕がした事は、再びミガディさん一家が揃う手助けになったのかな。


アイトさんの手にも、薄い金色の液体に満たされたグラスがいつの間にか握られている。こちらの世界は、お酒は16歳から飲めるらしい。ただお酒に含まれるのは、アルコールと似て非なる成分で、悪酔いも深酔いもしない、体内に負担がなくリラックスできる薬用成分に近いものらしい。なので飲んで酔うわけではないけど、少し本音が出せる程度に気持ちよくなるのがこちらのお酒なんだとか。


アイトさんも人生初のお酒という事で最初は緊張していたようだけど、フルーティな味と爽やかなのどごしを随分気に入ったようで、おかわりをしていた。



「アイトお姉ちゃんは、金の狐の体になって、フェニーちゃんのパパやサノおじちゃんと一緒に冒険してたんだよー」


「えー!すごいすごい!キツネさんだー!」


「フェニーちゃんのパパは、格好いい騎士だったんだよー」


「えー!パパ、格好いいんだー!?パパ似合いそうー! ねぇ、サノおじちゃは?サノおじちゃはどんな格好だったの?」


「サノおじちゃは赤鬼でーす」


「やだー!鬼やだー!」


お酒で気持ちよくなっているのか、アイトさんとフェニーちゃんのやり取りがとても面白い。ミガディさんのそばで聞いているスレンさんも、楽しそうに二人の会話を聞いている。そうか、鬼はイヤか……


「でもサノおじちゃが悪い魔女をやっつけたんでしょ?じゃあ赤鬼さんって良い鬼なの?」


「ううん、サノおじちゃは悪い鬼だよー。だってキツネの私をぐるぐる巻きにしちゃったんだもの」


「えー!キツネさん死んじゃうー!」


「それに赤鬼さんは、大きなヘビさんも連れてきちゃって、大変だったんだからー」


「ええー!ヘビさんも来ちゃったのー!?パパ大丈夫だったの?」


真実とはいえ、5歳の女の子を混乱させるのは良いんだろうか……そんな心配をよそ目に、フェニーちゃんのテンションはどんどん上がっていく。どうやって魔女をやっつけたの? 鬼が増えてやっつけたんだよー という説明はひどいけど、「鬼すごい!悪い鬼さんも頑張ったんだ!」と喜ぶフェニーちゃんを見てると不思議と嬉しい。そう、二匹の鬼は頑張ったんだよー。



しばらくそんなやりとりをしているうちに、フェニーちゃんが突然こっくりし出した。小さい子ってブレーカが落ちたみたいに動作が切り替わるんだな。ミガディさんの膝に乗っているフェニーちゃんが完全に眠ってしまうと、スレンさんが優しく自分の胸元に引き寄せる。そしてそのままフェニーちゃんを抱きかかえたまま、アイトさんと僕に質問をしてきた。


「アイトさん、さっきの話で気になったのだけど、悪い魔女をやっつける時になぜ鬼さんは狐さんをぐるぐる巻きにしたの?」


「ああ、僕も気になった。なぜサノくんはアイトくんにそんな事を?」


……確かに状況がわからず話を聞いていると、僕の錯乱行動のように感じるだろう。というか僕が本当にひどい事をしたように思われてしまう気がする。弁明するためにも、じゃあきちんと状況から説明しようかな……


「サノさんは、大切な私を守るため、私を魔女との戦いに巻き込まないように、私の手足を縛ったんですよ」


口に含んでいたお酒を噴きそうになる。ちょっとアイトさん!説明がおかしい。ほら、聞いているミガディさん夫婦も理解できてないようだぞ。でも補足したくても、ちょっとお酒で気分がふわふわしているせいか、うまい説明が思いつかない。どうしたら良いんだ……


「なぜ大切なのに手足をしばるのかしら?」ほら、スレンさんが混乱してる。そもそもその”大切”という前提が間違ってるわけで……正しい条件からしか正しい答えは導き出せないわけで……


「そうか。もしアイトくんがサノくんの恋人だとバレてしまえば、マールはアイトくんを人質に取るだろう。だからサノくんはわざとアイトくんを攻撃して、マールの目を逸したんだ」


ちょっとミガディさん!何で大切がランクアップして恋人になるの!さてはミガディさんも酔ってるな!

どうやって話を正しい方向に戻そうかと、少し酔った頭で必死で考える。なのに「ああ、そういう事ね」と頷くスレンさん。そういう事じゃない! うんうんと頷くミガディさん。頷かない! 両手で顔を隠しながら真っ赤になっているアイトさん。んーーーー?なんかさらに変に誤解されてる?というかアイトさんも恋人の部分を訂正してよ! そう思ってアイトさんを見ると、顔を背けられてしまった。


結局、誤解されたまま、その後どうやってサギ女神を倒したのか、しどろもどろで話す羽目になった。

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