第11話 タウズンの告知
アイトさんが泣き止んだ頃、ミガディさんが部屋に入ってきた。多分、こちらの状況を把握していたんだろう。そして今度は一人ではなかった。
「タウズンと申します。はじめまして、地球から来たお二方。私たちの世界に心を痛めて頂き申し訳ありません」
それは髪の毛に少し白が混じった、ミガディさんよりもさらに歳上の男性だった。身長は僕と同じくらい、強い意志をもった目つきから、優秀な人なんだろうと感じさせる。それでいて雰囲気はとても穏やかで全然威圧感がない。また白衣に似た服装で体つきが細いので、軍人さんではなさそうだ。
「タウズン博士は、この世界の研究機関に所属する方で、次元転移のオーソリティと言われる優秀な方だ。サノくんの使っていたエーテルボディ『鬼人』の開発者でもあられる」
その紹介に、僕は大きな衝撃を受ける。この次元に誘拐されエーテルボディに入れられてしまった自分を、もっとも助けてくれたのは紛れもなくあの鬼人だった。鬼人の中にいた魂と、鬼人が持つ他の魂と会話ができる能力、それが無ければ僕はサギ女神を退治することも出来ず、今もあの墜落宇宙船の中にいただろう。
そう、僕にとってエーテルボディ『鬼人』は大恩人でもある。その鬼人を造ったのならば、タウズン博士も僕にとって大恩人だ。
「私が造ったのは道具でしかありません。それを活用したサノくんと、他の方々の魂があっての事です。私としては造った道具が役に立ったという事だけわかれば十分です」
人が良さそうな笑顔でタウズン博士が答える。ああ、僕がこの世界に捕まった時に、魂を入れられたのが鬼人ボディで良かった。
「鬼人にはあまりに突拍子もない機能を入れてしまったので、まともに動かせる人間はこの次元には居ませんでした。あと正直、自分でもやりすぎたと反省してしまうくらいに性能や機能をピーキーにしたせいか、通常の感性だと鬼人と魂が同期する事すら難しいという扱いづらいエーテルボディになってしまったようで…… 周りや候補生からは、鬼の『鬼人』ではなく変わり者という意味の『奇人』だと酷評されたものです」
あれ? という事は鬼人と最初から相性抜群だった僕もそういう評価になってしまう?……隣に座るアイトさんも、僕の顔を見ながら「わかる」と言わんばかりの表情を浮かべる。ひどい。
「さて、鬼人やサノくんの評価はともかく、私から少し話をさせて下さい」
そう言いながらタウズン博士は、部屋中央のモニタに僕たちと因縁深いものを映し出した。それはメデューサさんだった。
◇
「まず、エーテルボディには種類があります」
スクリーンに突然映し出されたメデューサさんの姿に、僕やアイトさんだけでなくミガディさんまで軽く驚く中、淡々とタウズン博士は説明を続ける。
「1つは軍が開発した軍用エーテルボディ、もう1つは研究所が開発した融合型エーテルボディ。鬼人をはじめ、みなさんが墜落した宇宙船内で使用していたのは、すべて軍用エーテルボディです。これは一つの独立した人工生命体で、魂を移して動かすタイプですね。ですので正式には魂移転式独立型エーテルボディと言います。まぁみんな軍用と言っていますけどね」
モニタに鬼人のエーテルボディが新たに映し出され、メデューサさんの左隣に並べられる。
「もう1つの融合型エーテルボディは、人間の体の一部をエーテル人工細胞体に置き換える形式のものです。もともと融合型は医療目的に開発されたもので、例えば事故で身体の一部を失った人の新たな部位になったり、人工臓器に使ったり、そんな用途が主になります」
そしてあのポータル管理者であり誘拐犯のマールの映像が、今度はメデューサさんの右に並ぶ。僕がもっていた疑問が一つ解ける。
「ああ、それであのサギ女神は首から下がエーテルボディだったんですね」
「サギ女神とはひどい例えをしますね。まぁ言い得て妙ですが。マールは美貌を保ち、さらに通常の人間より優れた機能を得るため、身体内部の大部分を融合型エーテルボディに置き換えていました。見た目だけは優秀だったという訳です」
軍用エーテルボディは人間の体から魂を一時的に移した仮初の体。そのため戦闘能力や継戦能力は圧倒的に優れる。
しかし魂が肉体から離れる時間が長過ぎると魂の境界が歪み、元の人間の体に魂が戻らなくなったり、暴走してしまう恐れがある。
一方で融合型エーテルボディは人間の体に付随するため、人体や魂への負担はほとんどない。反面、戦闘能力などは軍用エーテルボディに遠く及ばない。
サギ女神ことマールと対峙した時は、ポータルに備えられた強力な斥力場を武器に使われたため、軍用エーテルボディの鬼人でも窮地に追い詰められた。しかし本体そのものはそこまで強力ではなかったので、サギ女神の不意をついて倒すことが出来た。
「さて、問題です。メデューサのエーテルボディは軍用と融合型のどちらでしょうか?みなさん、それぞれお答え下さい」
またもやタウズン博士に意表を突かれる。宇宙船の守護者メデューサさんもまた宇宙船側のエーテルボディだった。あの惑星に居た60名余の軍用エーテルボディが、誰一人敵わなかった最強の存在、メデューサさん。という事は、
「あれほどの戦闘力だ。メデューサは軍用エーテルボディなのだろう」ミガディさんがそう答える。
「私も軍用だと思います」アイトさんも頷きながら答える。
「メデューサさんは、軍用でも融合型でもない?」それが僕の素直な答えだった。
タウズン博士は口角を少し上げながら、画面を指差す。
「サノくんの答えが正しいと言えるかな。正解は、寄生型エーテルボディです」




