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人間と龍と人間の三馬鹿の話-1


 ダイヤモンド。


 その輝くは老若男女問わず、人の心を魅了する。

 宝石であるそれを採掘できる場所は限られており、また採掘方法も至難の業である。

 地表に現れるダイヤモンドは数少なく、かといって地下を掘ると落盤などの事故に見舞われることも珍しい話ではない。

 肉体労働ということもあり、採掘する者の体力にも限りがある。掘れば毎回採れるとは限らないので、無駄足に終わる日も多い。


 曇りない輝きを放ち、高い硬度を誇るその宝石がもし無限に手に入ったら――。

 需要は限りなく高く、巨万の富を得る事も不可能ではない願い。

 その願いを抱く者は少なくなかった。


 これはとある国に伝わる話である。


 『国の端にある火山と毒の沼、その奥地には伝説の赤い龍が住んでいる』

 『龍はダイヤモンドを山のように所有していて、心を許した者にのみ譲る事が有る』


 それは御伽噺のようにも聞こえるが、知っている者は数少ない。

 その国の王族と、お抱えの宝石商の一家と、選ばれた騎士のみである。


 『この話は知られてはいけないよ。世界を滅ぼす事になるかも知れない』


 その選ばれた騎士である金の髪の青年――名をアインスという――は、ひと月前にその話を聞いたばかりである。

 これまで、国のあらゆる猛者達がその奥地にダイヤモンドを取りに向かったという。

 そして帰って来たものは、誰ひとりとして居なかった。

 王の勅命を受けて、アインスは話を知る宝石商の嫡男を同行者を連れ、龍の住まう地へと向かうことになる。

 其処に待ち受ける話など、想像もしないままに。




 火山。

 毒の沼。

 赤い龍。

 限られた者にしか伝えられない話。

 男はいつまでも少年心を忘れないというが、アインスも例外なく心は成長していなかった。


 伝説の龍に纏わる秘伝の話を聞いたアインスは、それこそ冷静に、粛々と、物語に出て来る騎士像そのままに勅命を受けた。

 しかしその脳内では大興奮で『なにそれ浪漫!! 知られてはいけないとか世界が滅ぶとか俺王様から認められてんじゃん!! もしかしたら伝説になれる!?』とかいう頭の悪い事を考えていた。

 浮き立つ心のまま出立の準備。いざ当日になると、見送りに来ていた家族は全員泣いていた。

 これから俺の伝説が始まる! そんな涙は似合わないぜハハン!! などと考えているアインスの頭からはある一文が抜けていた。

 『誰も帰って来なかった』。

 高揚する気分のまま気分で意気揚々と出発したはいいが、道の途中で同行者であるオズから言われて気付く。


「帰って来なかった人達は皆、龍の餌になったんだろうね」


 男としては長く肩まで伸びた黒の髪を掻き上げながら、オズは気が重そうに言っていた。


「こんな勅命を受けたんじゃ、手ぶらで帰っても居場所がなくなるだろうし、そもそも帰れる保証もないんだけど」


 アインスはその時になって漸く、事態の重大さに気が付いた。

 馬鹿だったのである。




「城を旅立ち早二ヶ月、雨の日も風の日も雷の日も勅命を果たすべく一心不乱に火山を目指して旅を続けた我々は漸く火山最寄りの村まで来た訳だが」

「説明口調ありがとうオズ」

「我々は大陸の最西端まで来て、そこで何を目にしたか。ああ国で待つ僕の婚約者、君にもこの景色を見せてあげたい」

「お前半年前に婚約者から逃げられたじゃん。猫嫌いな男なんて嫌だって言われて」

「嫌いなんじゃない。アレルギーだ。猫は飼えないよって言ったら十年の付き合いの婚約者より猫を選ばれた俺の気持ちったら」


 男二人の旅なんて、面白みも無ければ胸を焦がす恋物語も無い。びっくりするほど冒険譚も無い。

 それもその筈。城下から最西端のこの街まで綺麗に道が整備され、魔物や害獣といった類は舗装された道に仕込まれた外敵除けの魔宝石によって攻撃は疎か近寄る事も出来ないのだ。

 あれよあれよという間に街に辿り着き、馬鹿正直に「龍はどこですか?」なんて聞いたらこれまた馬鹿正直に「あっちの山奥ですよ」と返って来るときたものだ。じゃあ行くか、とトントン拍子に話は進む。

 驚くべきことに、その街はとても裕福に見えた。通りはどこもかしこも栄えていて、お土産屋にはこれでもかというほどにダイヤモンドが並んでいる。そのどれもが小粒ではあるものの、市民の装身具としては充分すぎるものだ。この量がもし城下にそのまま流れたら、宝石市場の大規模な価格変動がおきてしまうだろう程に。

 龍に会いに来た、という余所者の二人に、街の人々はとても優しかった。

 そうなの、じゃあ貴方達が次の、いえ何でも無いのオホホホホ。そんな言葉が聞こえもしたが馬鹿な二人は気にしない。


 あっという間に火山噴火口すぐ側の、龍の住処まで来た。

 聞いていた通り、毒の沼はあるがそれと同程度の範囲に広がる溶岩。普通に考えて、こんな軽装で来れるような場所じゃなかった。

 けれど、馬鹿達は知能と引き換えにしたかのように、運が良かった。普段ならば溶岩が近すぎて通れない道が今日は溶岩が引いていて通れるようになっており、小規模の噴火で飛び散る灰や小石も少なく、真夏のそれを軽く越える温度にさえ耐えられたらちょっとした過酷な遠足気分だ。


 そうして最奥へと辿り着く。


 そこに居たのは、僅かな地面に横たわる火山の主。

 毒の沼と溶岩溜まりの間で無防備に丸くなるのはそこら辺にいるような獣ではない。牙と爪と翼を持つ、全身を赤黒い鱗に覆われた龍だった。

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