第7話 棚ぼたの平和
マリーは小百合を見るなり不機嫌そうな顔をした。
「何で小百合が人ん家に無断で来るのよ」
「あれ? 付き合っている彼の家に来ることってないかしら?」
小百合、頼むから穏便な言葉を使ってくれ。俺の命がかかってるんだぞ。
「あなたも四朗と一緒に処刑されたいみたいね?」
「四朗君と心中させてくれるんだ」
「今のはなし」
マリーが慌てて言い直した。
「四朗君を処刑するってどういうこと? 恋人の私はそんな許可出した覚えはないけど?」
だ・か・ら・マリーを挑発すんなって。
「何であんたの許可がいるのよ! 恋人より許嫁の方が上よ!」
「四朗君に相手にされないからって変な噂を振りまいてるみたいだけど、それって虚しくない?」
これは何だな。はっきり終わったわ。もう好きにしてください。
「何ですってー!」
「私ならどんな理由があっても四朗君を信じるけど」
「四朗は浮気したのよ」
小百合が俺の方を見る。
「してないぞ」
俺は必死で無実を証明するポーズで否定した。
「ふうん。浮気したんだ?」
「そうよ!」
「それでどんな浮気?」
「クラスにいる陽葵とか言う女子に手を出したのよ」
「証拠は?」
マリーが一瞬黙った。
「仲良く話をしていたわ」
「それだけ?」
「それだけって・・・・陽葵のことをいい人って言ったのよ」
小百合がまた俺の方を見る。
「クラスの室長をしていてとても面倒見のいい人よね。私もいい人だと思うわ」
「でも、男が言うと違う意味になるじゃない」
「四朗君が信じられないんだ?」
「そ、そんなことないわよ」
「だって処刑しようとしてるじゃない」
「それはそうだけど・・・・」
「私は四朗君を信じてるから誰と話しても怒ったりはしないわよ」
マリーは完全に黙ってしまった。俺は助かったのか? 小百合ありがとう。やはり頼れるのは小百合だ。
「わかったわよ。今日のところは処刑は止めたげる。でも私以外の女子と仲良くしたら許さないんだからね」
「四朗君の恋人の前でよくそんなことが言えるわね」
小百合! 一言多い!
「やっぱり死刑執行よ! 四朗、首を洗ってきなさい!」
どうして電気椅子で首を洗う必要があるんだ?
その時、芽依が入ってきた。
「小百合さん来てたんだ?」
「芽依ちゃん、こんにちは」
芽依は部屋を見渡すと早速電気椅子を発見した。
「これは?」
「電気椅子らしい」
「何でこんな物があるの?」
「俺が処刑されるらしい」
「またマリーさんを怒らせたんだね」
その通りだ。でも俺は悪いことなどしてないからな。
「四朗は私という許嫁がいながら他の女子に手を出したのよ」
手なんか出してないぞ。握手すらしてない。
芽依が俺を睨む。恋人の小百合に睨まれるならわかるが、何で妹に睨まれなきゃならん。
「まずは小百合から処刑してやろうかしら。椅子に座りなさい」
「え? 体が勝手に動くわ」
小百合がゆっくり電気椅子に向かって行く。
「いい気味ね。私に逆らうとこうなるのよ」
「そういうことなら。ほい!」
芽依が白い粉を小百合に振りかけたとたん、小百合の動きが止まった。
「どういうことよ!」
「白魔術でマリーさんの黒魔術を消したんだよ」
芽依は白魔術が使える。高度な物は無理だが簡単な物はマスターしているようだ。勿論、芽依は魔法使いでも異世界人でもない。自分で白魔術の本を見つけてきて自分の力で覚えたのである。我が妹ながら凄い!
「覚えてらっしゃい!」
マリーが負け惜しみを言った直後。『ポン』という音と共にマリーが消えた。
「ちょっと何なのよこれは!」
俺の足下で長さ10センチ程度の黒いしっぽアクセサリーがもがいている。
「マリーか?」
「そうよ! 芽依、何をしたのよ!」
「芽依、何もしてないよ」
「だったら何で私がしっぽアクセサリーになるわけ?」
マリーが空中に浮かび上がって抗議をしている。何とも懐かしい光景だ。
「わかったわ。黒魔術を無断で使ったのをあなたの世界の公安局に見つかったんじゃない?」
「ウッ!」
マリーが黙った。図星のようだ。
「暫くこの姿でいなさい。かわいがってあげるから」
小百合がマリーの毛を撫でながらい言った。
「もう、覚えてらっしゃい」
とんでもない展開だが少しは平和になりそうだ。
「学校へは暫く実家に帰ることになったと言ってあげるわね」
なるほどマリーは学校へも来ないのか。これはかなり平和になったんじゃね?
マリーの母親である2号と父ぴ親である3号が何やらひそひそ話を始めた。そして30分後。
ポン! マリーが突然元の姿に戻った。なぜだ? 俺の平和はどこへ行った?
「お父さんが公安局に交渉してくれたの」
「じゃあ、もしかして許されたのか?」
「当然よ。しかもこの部屋内だったら黒魔術を使ってもいいことになったわ」
何ですと! 3号余計なことをするんじゃねえ! 俺は手を突いて逃げていった平和な日々を惜しむのであった。