第59話 かすかな希望
ヤバ過ぎる! ついに日葵にまで嫌われてしまった! これで小百合、芽依、日葵と全滅じゃねえか。
「ねえ四朗。この服なんかどうかな?」
マリーは相変わらず結婚式の衣装を選んでいる。はっきり言ってどうでもいいので好きにしてくれって感じなんだが。
「四朗はこの服にしなさいよ」
「ああ」
何でもいいんだって‥‥‥‥って何だこの死神みたいな服は! こんなの大きな鎌を持ったら100%死神じゃねえか。これって冗談で言ってるのか? そうだよな? 俺が気のない返事ばかりをしているので怒ったに違いない。でも、どうでもいいか。
「私この服を前から気に入ってたのよ。いかにも黒魔術って感じじゃない?」
本気で言ってたのか。全く異世界人の感覚はさっぱりわからねえ。
「そうだ。結婚式が終わったら四朗にも特級黒魔術士の資格が与えられるわ。その時に式場で黒魔術を披露するの。何がいいかしら? 生け捕りにしたファイヤードラゴンと戦うってどうかな?」
「無理だ! そんなのできるわけないだろ!」
とんでもないことを平然と言ってくれる。
「え~、いいと思ったんだけどな。インパクト十分だし」
インパクトを求められて結婚してすぐ死ぬのはごめんだ。
「じゃあ、何にする?」
「やかんや土鍋でも降らすか?」
「う~ん、ちょっと弱いわよね」
嫌味で言ったのだが全く通じていない。マリーが黒魔術で攻撃をするときは決まってやかんや土鍋を降らす。王族のくせに魔力が極端に少ないのだ。マリーのお姉さんは凄いのだが。
「第一、俺は黒魔術なんてほぼ使えないからな」
以前、マリーの住む世界に行ってドラゴンと戦ったことがあるのだが、俺だけ魔力が少なかった覚えがある。基本的には男性は女性より魔力が少ないみたいだが。
「そうだ。今から黒魔術の特訓をしない?」
「どうやって?」
「お姉ちゃんに教えてもらうのよ」
「お前の世界に行くってことか?」
「もちろん」
「断る」
「どうしてよ」
マリーの世界に連れていかれたら帰ってこれないかもしれないではないか。ここで暮らせる残りの貴重な時間を無駄にしてたまるか。
「じゃあ、どうするのよ!」
「その黒魔術の披露と言うのはどうしてしなくちゃいけないものなのか?」
「一応、王族に入るわけだし。必要だわ」
「絶対に無理だと思うぞ」
突然言われても困ってしまう。わずか20日で魔力など身に付くものなのか?
「これは荒行が必要かも?」
「荒行?」
「魔力を高めるための修業よ。例えば火山に飛び込んで10分間耐えるとか」
「確実に死ぬわ!」
「困ったわね。私、城に戻ってお姉ちゃんに相談してくるわ」
まったく計画性が感じられない。まあどうでもいいけど。
ん? ちょっと待て。もしかして俺が黒魔術を会得しなければ結婚は破棄されるのか? だとしたら絶好のチャンスじゃねえか。はっきり言って黒魔術など普通の日本人が簡単にマスターできるもんじゃなし。これはいける! やや希望の光を見つけた俺は少し気が楽になって机に向かった。このことを小百合にラインしよう。マリーと結婚しないとなればきっと喜んでくれるはずだ。俺が勝手にマリーとの結婚を決めたからこうなっているに違いないからな。
俺はスマホを取り出してボタンを押す。そして送信と。数分後、既読がついた。見てくれたんだ。じっと返事を待つこと30分。音沙汰がない。どういうことだ? 確かに既読がついたのだから事情は分かってくれたはずだ。だったらなぜ何も言ってこないんだ? もしかしてもう他の男と付き合いだしたとか? まさかな。小百合がそんな軽い性格とは思えない。でも寂しさのあまりに‥‥。ああ、変な想像をすると気が狂いそうになる!
その時、俺の机の本棚にあるものが挟まっているのが目に入った。何だこれ? 小百合の写真だ。こんな写真あったっけ? この写真には小百合だけが写っている。とても魅力的な笑顔だ。こんな表情を見せられると小百合との思い出が蘇ってくる。小百合って本当に美人だったんだなって痛感する。なんでこうなってしまったんだ? わかっている。俺がすべていけないんだ。ちょっとマリーがかわいいからって優柔不断な態度で小百合に接していたからな。今考えてみれば振られて当然だ。でも、できることなら小百合と一からやり直したい。
ふと写真の裏に目が行く。文字が書かれているのを発見した。
『いつまでも仲良くしていられたら嬉しいな』
こんなメッセージが書かれた写真なんか持ってたか? でもこれは嬉しすぎる。やはり俺には小百合しかいないんだ。でも、もうどうすることもできない。いや、まだ黒魔術を得とくできない可能性が残されているではないか。諦めるのは早い。
1時間後。マリーが戻ってきた。
「仕方ないから結婚式後の黒魔術の披露は止めにしようって話になったわ」
「それはダメだ!」
俺の唯一の希望が!
「今までやってきた重要な行事なんだろ! 王家に伝わる大切な行事なんだろ!!」
もう必死だ。
「わかったわよ。四朗がそう言うと思ってちゃんと対策も考えてきたわ。四朗が黒魔術をかけるふりをして、お姉ちゃんがそっと黒魔術をかけるの。これなら完璧よね」
「インチキじゃねえか!」
おお! この世は神様も仏もないのか! 俺は思わず近くに浮いていた3号で涙を拭くのであった。




