第58話 四朗を振らなきゃ!
私は努力を怠ったことはない。自分の体を限界まで鍛え上げてきたから、ボクシングチャンピオンになることができた。もちろんプロのチャンピオンではないがここ数年で試合に負けたことはない。今は誰にも負けない自信がある。勉強だってそうだ。私は本来頭脳勝負をするタイプではないが、予習復習を欠かさずすることで成績上位を保っている。生活も甘えが出ないよう、あえて家から出て安アパートで暮らす道を選んだ。だから私は自分に自信を持っている。どんな逆行でも切り抜けられると言う確信がある。だが、林郷小百合の言葉には説得力があったのは確かだ。黒魔術相手だと四朗を守ることはできないのだろうか?
「おはよう、日葵」
いつも以上の笑顔で四朗が挨拶してくれた。どういうことだろうか? 今までこんなことなかったよね。もしかして私のことを愛してたというあの言葉は本当だったのかと思ってしまう。
「おはよう‥‥」
思わず挨拶を返してしまったが、私は四朗を振らなければいけなのだ。
「日葵、今日も元気そうだな」
思いっきり暗い声で言ったんだけど。
それにしても、どうやって振ったらいいのかしら? きつい言葉を続ければそれらしくなるかな?
「別に明るくなんてないわよ」
四朗に対して凄い言葉を使っちゃった。嫌われる~。ああ嫌われていいのか。
「大丈夫か? 具合でも悪いんじゃないか?」
「え?」
四朗が私のことを心配してくれた?
「病院に行った方がいいぞ。一緒に行こうか?」
嘘でしょ? 何でこんなに親切なの? これじゃ振れないじゃない。
「私は大丈夫よ。気にしないで」
せっかく優しい言葉をかけてくれたのに、なんて返事をしてるのよ、私のバカ。
「なら、いいんだ。具合が悪いんなら言ってくれよ。俺はいつでも日葵の味方だから」
何てこと言い出すのよ。振ろうとしているのに、どうしてこんなタイミングで優しくしてくれるわけ?
ダメだ。このままでは四朗を振れない。でも、林郷小百合は振るしか方法がないと言っていた。早く振らないとますます言い辛くなってしまう。何て言おうか? 『もう私に話しかけないで』かな? こんなに優しく話しかけてくれた四朗に、そんなこと言えないよ。でも、心を鬼にしなきゃ!
「もう私に話かけ‥‥」
「そうだ。今日は日葵にプレゼントを持ってきたんだ」
「はい?」
「このヘアアクセサリー。かわいいだろ?」
確かにかわいい。でも私には似合わないよね?
「私のために買ってきてくれたの?」
ああ、つい聞いてしまった! ここは『いらない』って突っぱねるとこでしょ!
「買ってないよ」
え? どういうこと?
「日葵のために一生懸命作ったんだ」
えええーーー! まさかのハンドメイド~? 四朗が私のために作ってくれたの? 嘘でしょ? これって作るの難しいよね? 今までこんなことなかったのに?
「意外に器用なのね?」
またまた、つれないことを言ってしまった! もう嫌われちゃうよ~。あっ嫌われなきゃいけないんだよね? でも無理! こんな四朗を見せられたら振れないよ。今日の四朗って私の理想だよね。もしかして本当に私のことを一番好きなんじゃないの? きっとそうだよ。でなきゃこんなヘアーアクセサリーまで作ったりしないよね? 今なら四朗をものにすることもできるんじゃないの? どうする私。でも黒魔術に対抗できなかったら四朗が危ないんだよね?
「器用でもないよ。ほらこんなに指を怪我しちゃったから」
うおおおーーー! 私のために指に血豆がー! もうダメ! 四朗は私のことを愛してるのよ! 絶対そうだわ。ここは林郷小百合を裏切って突っ走るしかないわよね? でも、もしかして林郷小百合に振られて味方がいなくなったから優しくしているのかも(正解)?
まさかそんなことないわよね? ついに私の気持ちが伝わったんだわ。
「四朗! ありがとう!」
私は満面の笑みで四朗を見た。
「嬉しいな。受け取ってくれるんだね?」
「もちろ‥‥」
『黒魔術は離れた状態でも攻撃できるの。いくらあなたが強くても一瞬で四朗君は死ぬわ』
どうしてこんな時に林郷小百合の言葉が出てくるのよ! 私が幸せになれば四朗が死ぬってこと? もう、どうすればいいのよ!
林郷小百合! 私はあなたの言葉を信じるしかないの? もし、うまくいかなかったら覚悟しなさいよ!
「もちろん、受け取れないわ」
「どうして?」
「私は林郷さんの次って嫌なの」
「小百合の次なんて思ってないよ」
「林郷さんに振られたんでしょ?」
「それは‥‥」
「だから、もう私に話しかけないで」
この後、私はクラス1明るいキャラからクラス1暗いキャラに覚醒するのであった。




