第57話 小百合の野望
私は最大のピンチにさらされている。大好きな四朗君が無理やり結婚させられそうになっているのだ。さすがに結婚してしまったら恋人の私でもどうすることもできない。そこで私は大きな賭けに出ることにした。一歩間違えばすべてが終わってしまう危険な賭けにだ。
「どうして日葵が四朗と登校してくるわけ?」
「四朗が本当に好きなのは私なの。あなたと私、一緒に登校して四朗が喜ぶのはどちらかしら?」
勢いだけの無鉄砲異世界人と極度の過保護に育てられた筋肉少女が揉めているわね。
「四朗も私と登校するのは嫌って言うくせに日葵ならいいわけ?」
「登校途中で日葵が待ってたんだ。1時間も前からいたと言われたら断れないだろう?」
「私は桂木さんとは頭の良さが違うの」
「何よ! この前の試験では私が学年2位であなたは3位だったじゃない」
「あれはちょっと油断しただけよ」
「私はこちらの世界に来る前は飛び級をしてたの。ここのテストなんて簡単すぎてテスト勉強なんてしたことないわ」
そんなこと言ったら別の世界から来たって言ってるようなもんじゃない。ちょっとは考えなさいよね。
「ふん。1位になれなかったくせにえらそうな口を利くんじゃないわよ!」
その1位は私なんだけど。この2人に勝っても何の自慢にはならないわね。
「とにかく人っていうのは本当に好きな人と結婚するのが1番なの。いい加減諦めたら?」
「私と四朗の恋愛物語は奥が深いの。いきなり出てきたあなたが何を言ってるのかしら?」
見苦しい言い争いだこと。でもこの2人なら仕方ないわね。とにかく日葵は目の上のたん瘤だわ。彼女の存在が私の計画を狂わせる。マリーと四朗君の結婚式まであと22日。時間がないわ。早急に日葵をなんとかしなくてはいけないわね。
「私は四朗を守って見せるわ。あなたと結婚なんて絶対にさせないから!」
「その強がりがいつまで続くかしら?」
「四朗! 桂木さんとは結婚したくないってはっきり言ってあげたら?」
「ええっと‥‥」
四朗君はのど元にナイフを突きつけられている状態なのよ。どうしてわからないの?
「桂木さんが怖くて言えないのね。大丈夫よ。私が命に代えても四朗を守ってあげる」
黒魔術は遠隔攻撃なのよ。物理では防げないわ。そんなことも気付かないのかしら。
「私の愛しい四朗。私に任せて」
日葵は座っている四朗君の顔を抱きしめた。
「ちょっと! 胸が四朗の顔に当たってるじゃない!! なんてことするのよ」
「あら? 桂木さんはこんなことしたことないのかしら? 私に先を越されたわね」
「許せないわ! この場で殺してあげる」
もう仕方ないわね。
「ちょっと2人ともいい加減にして! ここは教室なのよ」
「何よ小百合。こいつが悪いんじゃない」
「自分の素性をクラスメイトに言いふらしているみたいだけど。いいのかしら?」
「わかったわよ」
本当に困ったものね。この異世界人なら突然黒魔術を使いかねないわ。使った後、どう収拾を付けるつもりなのかしら。
昼休み。私は誰にも気づかれないように日葵を生徒会室に呼び出した。
「何の用事? 私、忙しいんだけど」
「四朗君のことで大切な話があるの」
「何よ。早々に四朗に見切りをつけたあなたに言われることはないわ」
日葵はそれだけ言うと生徒会室の扉を開けようとした。
「マリーのお母さんの魔力は強力よ。あなたのしている行為は四朗君を殺すことになるかもしれないのよ」
日葵の手が止まった。
「どういうこと?」
「どうして四朗君はマリーとの結婚を否定しないのかしら?」
「それは死にたくないからでしょ?」
「そうよ。四朗君はいつでも殺される状態にあるの」
「だからボクシングチャンピオンの私が守って」
「守れると思うの?」
「守れるわよ。私は誰にも負けたことないのよ」
私はふうっと大きなため息をつく。
「黒魔術は離れた状態でも攻撃できるの。いくらあなたが強くても一瞬で四朗君は死ぬわ」
「それは‥‥」
「さっき四朗君が『マリーと結婚したくない』って言ってたらどうなったかしら?」
「‥‥‥‥」
日葵が黙ってしまった。ようやく事態が呑み込めたようね。
「私に作戦があるの。あなたも協力しない?」
「作戦?」
「そう。時間がないわ。四朗君がマリーと結婚式を挙げてしまう前に何としなくてはいけないのよ」
「わかったわ。何をすればいいの?」
「四朗君を振って」
「どういうこと! そんなことしたら桂木さんを調子に乗らせるだけじゃない!」
「もう心理作戦に出るしかないの。マリーから結婚の延期を言わせるしかないわ」
「そんなことできるの?」
「わからない。でも、これしか方法がないの」
結局、日葵は半信半疑ながら私に同意してくれた。芽依も賛同してくれたし、あとはあの2人から離れて様子を見守るだけ。もし失敗したら結婚式に乗り込んでいって壮絶な最期を遂げるだけね。私は意味もなくニヤリと笑った。




