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第55話 俺の味方がいなくなった

 俺は慌てて部屋に戻るとベッドに飛び込み布団を頭からかぶる。まさか妹に命を狙われるとは思わなかった。

「どうしたのよ?」

マリーの声が聞こえる。だが何も話す気になれないので無視した。

「もう何なのよ! 返事くらいしなさいよ!」


 芽依は本気であんなことをしたのだろうか? 今まで好きだと言っていた人を殺すなんて発想はあり得んだろ! まあ、ネット依存症の芽依ならあり得るか。もう何を信じていいのかわからくなったぞ。ああ、小百合に相談したい。どうして俺を避けるようになったんだ?  俺はそのままパジャマに着替えることもなく眠りについた。そして、翌朝は何事もなかったようにやってくる。


 学校へ着くといつもの日常が始まろうとしていた。俺はそっと小百合を見る。だが、小百合は俺を見ようとしない。俺と小百合は本当に終わってしまったのか?

「おはよう」

俺は恐る恐る小百合に声をかけてみた。返事がない。それどころか俺の方すら向くこともない。やはり終わってしまったようだ。


「本当に別れたようね?」

マリーが嬉しそうな笑顔で話しかけてきた。なんかすっきりしないのだが。

「まだ別れたと決まったわけじゃないから」

マリーは露骨に不機嫌そうな顔で睨んできた。睨まれたっていい。今ははっきり言える。俺はマリーより小百合が好きだ。


 ここは何と言われようと小百合に自分の気持ちを伝えるべきだろう。2号は怖いが事情も聞かず一方的に嫌われるのは悔いが残る。

「小百合、俺は‥‥」

「マリー安心して。私と四朗君は別れたから」

何もこんなにはっきりと言わなくても。

「ちょっと待てよ! 俺は別れるつもりはないから」

「そんなこと言われると迷惑だわ」

「え?」

「私は四朗君の優柔不断なところが我慢できないの。それにミジンコレベルに頭が悪くてイケメンとは真逆の顔立ちに愛想がつきたの」

「そこまで言うか!」


 ダメだ。本気で終わってしまった。

「これで決まりね」

マリーの喜びに満ちた声が聞こえる。俺は何も言えず俯いた。さすがにここまで言われると逆転不可能だろう。

「昨日は芽依も『お兄ちゃんのことは諦めた』と言ってたし、これで私を邪魔する者はいないわね」

何だって? 芽依がそんなこと言ったのか? 俺を誰にも捕られたくないって言ってたじゃないか。これは本気で訳が分からんぞ。


「おはよう四朗」

「まだこいつがいたわ」

マリーが声をかけてきた日葵を睨みつけて言った。

「日葵! おはよう」

そうだ。日葵だけは信頼していいだろう。この状況となっては俺の心の支えは日葵だけだ。


 俺は思わず日葵の手を握った。

「どうしたの四朗?」

「お願いだ。俺を助けてくれ」

俺は小さな声で囁く。


 いきなり俺が手を握ったからか、日葵はあたふたした目で俺を見ている。

「何? 何? 何がどうなってるの?」

「今はっきり小百合に振られたからよ」

マリー! 余計なことを言うな!

「それって林郷さんに振られたから私を選ぶってこと?」

「違う! 決してそんなことはない!」

俺は力いっぱい叫んだ。ここで日葵にまで嫌われたらもうおしまいだ。


 日葵が俺の手を離した。何気に嫌な予感がする。

「私は林郷さんに振られた時の安牌だったわけ?」

「まさかそんな‥‥」

「ごめん。ちょっと心の整理をさせて」

ええーーー! 

「これで私のライバルは完全にいなくなったわね。結婚式まであと23日。もう誰にも邪魔をされずに済みそうね」


 俺は燃え尽きたボクサーのように椅子に腰かけた。マリーとの結婚が決定的になったショックより、俺の周りにいた身近な存在の女子に愛想をつかされたショックの方が大きい。それはそうだよな。流れに任すだけで自分の意志を持たずに接してきたんだ。いつかはこういう日が来てもおかしくない。すべて俺が悪い。


 完全にノックアウト状態の俺はほぼ一日放心状態であったことは言うまでもない。話しかけてくるのはマリーだけ。当然か。

「私たちの世界ではウエディングドレスは黒なの。黒でもいいでしょう?」

「ああ」

「嫌だったら式の途中で白のドレスも入れるけど」

はっきり言ってどうでもいい。それよりこんな話をみんなの前でしていいのか? 徐々に内堀を埋められている気がする。もう逃げられない運命なのか? 小百合と芽依と日葵を失った今の状況だとこうなるのは仕方ないことかもしれない。マリーの独り舞台なのだからな。もう足掻く気にもなれない。俺は俯くと大きなため息をついた。


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