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第53話 芽依の決心

 日葵と言う唯一の希望を失った俺はとぼとぼと階段を上り俺の部屋へと向かっていた。ん? 何か忘れているような。そうだ。芽依の様子を窺うのだった。

「芽依、俺だ。お兄ちゃんだ」

相変わらず部屋の扉に鍵がかかっている。

「どうしたんだ? 寝てるのか?」

まったく返事がない。最も寝ているんだったら返事がなくて当たり前か。俺は諦めて自分の部屋へと戻った。


 部屋に入るとすぐベッドに寝転んだ。とにかく疲れた。本来、宿題と言う禍々しい代物をする時間なのだが、何もする気になれない。明日の朝、小百合に見せてもらおう。ん? 小百合は見せてくれるのか? 今日の雰囲気では無理っぽいな。それにしても小百合と言い芽依と言いどうなってるのやら。さっぱり理解できん。クロシッポ2匹が俺をじっと見ている。もちろん、このシッポアクセサリーはマリーの両親だ。言っておくが俺は何も悪いことはしてないぞ。


 俺が目を閉じて考え事をしているとノックもなしに部屋のドアが勢いよく開いた。

「四朗、今日から私もこの部屋で寝ることにしたわ」

自分の布団を持ったマリーだ。

「何言ってるんだ? そんなのダメに決まってるだろ?」

「1か月後に結婚するんだし、別にいいじゃない」

「ダメだ!」


 このままでは確実に俺の人生は終わってしまう。一緒の部屋で寝ていたらもう逃れられないではないか。結婚の日まで俺は決して諦めないからな。きっと白馬に乗った王女が助けに来てくれるに違いない!


「キュピー!!!」

「キュピピーー!!!」

マリーがクロシッポに怒られている。

「わかったわよ」

さすがに父親と母親には常識と言うものがあったようだ。助かったぜ。


「あれ? マリー、その布団どこから持ってきたんだ?」

「芽依の部屋に決まってるじゃない」

「芽依の部屋ってカギがかかってなかったか?」

「かかってたわよ」

「どうやって入ったんだ?」

「普通に開けてもらったけど」

芽依は寝てたんじゃなかったのか?


 プルルル、その時俺のスマホが鳴った。これは芽依じゃないか!

「芽依! どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」

「私の部屋に来て」

プープープー。切りやがった。何なんだ一体。俺はそっと芽依の部屋に行くことにした。


 俺が芽依の部屋に入ると芽依がドアを閉めカギをかけた。

「気分でも悪いのかと思って心配したぞ。ところで何でカギを?」

芽依は俺を見て笑みを浮かべている。なんとなく怖いのは気のせいだろうか?


 暫く何も言わず微笑み続ける芽依。

「どうかしたのか? なんか変だぞ」

「お兄ちゃんはどうしても芽依じゃなくマリーさんを選ぶの?」

「マリーを選ぶのって、妹を選ぶ選択肢はないと思うのだが‥‥」

なぜか俺の声は小さい。完全に芽依の雰囲気にのまれている。


「これが最後のチャンスだよ。お兄ちゃんはマリーさんを選ぶんだね?」

怖い。なんだか怖いんだけど。

「選びたくなくても選ばないと殺されるんだ」

「そう、だったら仕方ないね」

「俺の話を聞いてるか?」


 芽依は机の引き出しから藁人形と1本の針を取り出した。

「お兄ちゃんの藁人形。上手にできてるよね?」

「え?」

「この藁人形に何かすると」

芽依が針で藁人形の右腕を刺す。

「痛い!」

俺の右腕に激痛が走った。


「何? 何? 何?」

「今度は足」

「痛い!! 止めてくれ!」

こんなこと信じられるか? たかが藁人形だぞ!


「芽依、これはどういうことだ?」

「この人形は白魔術で作ったんだよ」

「白魔術って回復的なことに使うんじゃないのか? 完全に使い方を間違ってるぞ!」

芽依はマリーの世界にいた人物が書いた『白魔術』の本を手に入れてから白魔術の研究をしている。最近は徐々に成果が出始め白魔術の基礎が使えるようになっているのだ。


「間違っててもいいよ。今の私にはこれが必要なんだよ」

相変わらず笑みを浮かべながら俺を凝視している。

「そんなものどうして必要なんだ?」

俺の声はやや震えている。

「芽依はお兄ちゃんを誰にも捕られたくないんだよ」

「はい?」

怖い! 続きの言葉を聞くのが怖い!


「お兄ちゃんが誰かのものになるくらいならお兄ちゃんを殺してこの部屋でホルマリン漬けにするつもりだよ」

「へ?」

「そうしたらお兄ちゃんは永遠に私だけのもの」

「何を言っているのですか芽依さん?」

妹に対して思わず敬語になってしまう。


「あのう、素朴な疑問なんですけど。俺を殺した後お前はどうするのですか?」

「この部屋でお兄ちゃんと共に暮らすんだよ」

「一緒に死のうとかの心中的発想はないのですね?」

しかし、たかが藁人形だ。痛みは与えられても殺すのは無理だろう。いざとなったら芽依から藁人形を取り上げればいいだけだ。いくら俺がひ弱でも中学1年生の女の子よりは強いはずだ。


 芽依はもう一度俺に微笑みかけると藁人形の足をひもで縛った。あれ? 足が動かないぞ! 俺の動きを確認した芽依は机にあったハサミを藁人形の首にあてた。これって相当なピンチなのでは?


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