第50話 いったい誰が
俺は自分の部屋に戻ると少しずつではあるが落ち着きを取り戻していった。一体だれが落とし穴なんか掘ったんだ? 下手すりゃ死んでたぞ。まさか小百合か? いくら怒っているとはいえあそこまではしないだろう。あれだけ大きな穴だ。短時間では掘れまい。俺が学校行くときはなかったもんな。それに小百合は俺と一緒に学校にいたんだ。早退もしていないから落とし穴を掘るのは時間的に無理がある。
俺はベッドに転げて天井を見た。小百合でないとすると残るはマリーと日葵と芽依か。芽依とマリーも学校へ行ったな。となると欠席していた日葵か? さすがにそれは考え辛い。さっきの電話でも俺が無事なことをあんなに喜んでいたではないか。俺は限りなく少ない脳みそをフル回転して考えたが結論を出すことはできなかった。
俺が寝返りを打った時、あることに気付いた。あれだけの穴を掘るにはかなりの時間が必要だ。その間、誰にも見られなかったというのか? それは無理だし、堂々と掘るのもどうかしている。となると人力で掘ったのではないとかか? 例えば重機とか。それなら通行人は家の工事をしていると思うかもしれない。だが、重機を使える奴など思いつかん。まさか日葵! 日葵なら父親に言えば何とかなりそうだ。しかし、俺を殺そうとする理由がわからん。俺に裏切られたと思ったとか? あいつの『好き』はこのメンバーの中では一番純粋な気がする。だとしたら俺に裏切られたと思って『四朗を殺して私も死ぬ』的な発想をしてもおかしくないか。
俺は起き上がって頭を抱えていると、玄関から『キャー』という声が聞こえてきた。
「しまった! 落とし穴を埋めるの忘れてた!」
あれは慌てて玄関へと向かった。下手すりゃ死人が出るぞ!
「大丈夫か?」
穴に落ちていたのは日葵だ。
「俺の手を引っ張れ! その穴には猛毒の蛇がいるんだ!」
「これのこと? 私に噛みつこうとしてたから殺したわ」
日葵、それは強すぎるぞ!
俺が日葵を引き上げると、日葵は、
「きゃー、怖かったよ~」
と言って抱き着いてきた。
「嘘つけー!」
久しぶりに言う渾身のツッコミである。
「人の結婚相手に抱き着くなんてどういうことかしら?」
いつの間にか玄関から出てきたマリーが言った。
「どういうこと?」
そうか。日葵はまだ俺とマリーの結婚話を知らないんだ。
「私と四朗は来月挙式を上げることになったのよ」
「本当なの四朗?」
俺は思わず下を向く。
「ねえ、四朗!!」
日葵の声が大きくなり、俺の肩を揺さぶった。
「残念ながら本当だ」
「今、残念ながらって言った?」
マリーが小さな声で言う。
「言ってない」
「そう」
マリーは腕組みをして頷いている。
「ふうん。そういうこと。四朗、あなたこいつに脅されているんでしょう?」
その通りだ! でも言えない。
「四朗、はっきり言ってあげなさい。私と結婚したいんだって」
「別に脅されてるわけじゃ‥‥マリーと結婚‥‥したい‥‥から‥‥」
何でこんなこと言わなければならんのだ! だが2号に『やっぱり私の娘を愛していなかったのですね』と言われるのが怖い。
「今の四朗の話し方から考えると脅されているとしか思えないわ」
日葵、わかってくれるか?
「桂木さん、あなた四朗に愛されてないわね」
「何てこと言うのよ!」
「あなたも感じているんでしょ? だからこんな落とし穴まで作ってライバルを消そうとしたんじゃないの?」
「え? これって日葵が作ったんじゃないのか?」
「どうして自分で作った落とし穴に落ちなきゃいけないのよ!」
それもそうか。だったら誰が作ったんだ?
「ところで日葵はどうしてここに来たわけ?」
マリーが当然の質問をする。
「四朗が心配だったから来たのよ」
「心配?」
「だって私たちホテルのスイートルームに泊まっていたら、急に四朗が出て行くから」
何てこと言い出すんだ!
「ホテルのスイートルーム? 本当なの四朗!」
俺は慌てて逃げようとしたが、二人に襟首を持たれて簡単に御用となった。
「詳しく聞かせてもらおうかしら?」
マリーが仁王立ちで俺を睨む。
「桂木さん、悪いけど四朗はもう私のものなの。横取りしないでもらえますか?」
「ちがっ、違う!」
「どういうこと!?」
マリーが怒り狂った声を上げると日葵はにやりと笑った。




