第49話 俺は嫌われ者?
小百合は『私一筋になってくれたら考えてあげる』と言っていた。しかし、マリーには『私は諦めたから結婚を祝福するわ』と言った。どうなってるんだ? 俺は授業中であるにもかかわらず小百合の方を見る。お前の本心はどっちなんだ?
「私を見ないで」
小百合が小さな声で俺の方を向くことなく呟いた。まさか突然愛想を尽かされたってことはないよな?
見るなと言われると余計に気になる。俺は先生の目を盗んで小百合の様子を度々伺った。すると小百合から1枚の紙切れが回ってきた。
『私たちはもう別れたの。私を見るのは止めて』
ガーーーーーーン!!! なんでこうなる!? 俺は思わず渡された紙切れに『何で?』と大きく書いて返す。
だが、小百合からの返事は返ってこなかった。これは真剣やばいかも! 休み時間になると俺は慌てて小百合に話しかけたが、小百合は無視するかのように席を立ち教室を出て行ってしまった。これって・・・・。もしかして俺は終わったのか? それにしてもなぜ急に? 今朝の生徒会室での会話は何だったんだ?
「別れたって話は本当のようね」
マリーが嬉しそうなドヤ顔で話しかけてきた。
「そのようだな」
元気なく肩を落として答える俺。
「遂に愛想を尽かされたってことかしら?」
『ああ、お前のせいでな』という言葉が出かかるのを必死で押さえる。
それにしても女というのはさっぱり分からん。今まで散々マリーと俺を取り合ってきたのに、こんな急に冷めるものなのか? それとも俺が何か気に食わないことをしてしまったのだろうか? 全く身に覚えはないが。
帰宅時間になると俺はとぼとぼと家路についた。もちろんマリーは一緒に帰りたがるのだが、一緒に帰って同じ家に入るところを誰かに見られたら大変なので行き帰りは別々に行動することにしている。俺は自宅近くの公園のブランコに座るとスマホを取り出した。スマホなら小百合と話が出来るだろう。とにかく急に冷たくなった理由が知りたい。
『おかけになった電話番号への通話は、おつなぎできません』
まさかの着信拒否! どうすりゃいいんだ? 真剣に詰まったぞ。とりあえず誰でもいいから相談したい。誰にかければいい? ・・・・・・・・。いない。重要な話が出来る相手が俺にはいない! 何て寂しい人生なんだ!
俺は暫くの間、俯いて自分の人脈のなさを嘆いた後、再びスマホを眺めた。仕方ない妹の芽依に話そう。できれば恋の悩みを妹に話すなんて選択肢は選びたくないが背に腹は代えられぬ。俺はスマホの発信ボタンを押した。
『おかけになった電話番号への通話は、おつなぎできません』
おまえもか~い!! 何で妹にまで着信拒否されにゃならんのだ! こちらは真剣に理解できんぞ!
ますます落ち込んだ俺はブランコから立ち上がった。こうなったら家に帰ってふて寝するしかあるまい。ここで考えていても仕方ない。ふと顔を上げると陽葵のアパートが目に入った。あまりの展開に思いっきり忘れていたぞ。陽葵に連絡を取らなければ! 俺は慌てて陽葵の番号を押す。
「え! 四朗? 無事だったの? 急にホテルから出て行っちゃったから心配してたのよ」
「ごめん。言っても信じて貰えない事情があって」
「もう電話かけても出ないし、てっきり嫌われちゃったと思ってたんだからね」
ん? かかってきてないよな? 俺はスマホの着信履歴を見る。
「かかってきてないぞ」
「嘘! 100回くらいかけたんだから。番号って090・・・・・・でしょ?」
「090以外全く違うんだが・・・・」
間違った番号に100回も電話したのかよ。これって究極の迷惑電話じゃねえか! てか俺の番号登録してないのか?
「でも良かった。今から会いに行くね」
プチプープープー。
「おい」
会いに行くねって、俺のいる場所分かるのかよ! まあ、どうでもいいけど。俺はゆっくりと家に向かった。
俺が家の玄関を開けようとすると、突然、俺の体が落下し深い穴に落ちた。何だこれは! もしかして落とし穴か? 俺は穴をよじ登ろうとしたが、深さが俺の背丈ほどもあるため登ることができない。
「誰か助けてくれー」
仕方なく大声を出すと、
「何してるのよ?」
とマリーが来てくれた。
「助けてくれ。自力では出られそうにないんだ」
「それにしてもこの深さは相当なものね。誰かをはめようとしたのだったら、そうとう恨みがこもってるわよ。穴の底にはサソリや毒蛇もいるじゃない」
ええーーー!!
「早く助けてくれ!」
「よく見たらこの蛇ってインランドタイバンじゃない?」
「何だそれ?」
「世界最強の毒蛇よ。蝮の1000倍の毒があるらしいわね」
「早く! 早く助けてくれ!!! お願いだ。いやお願いしますマリー様!」
「仕方ないわね」
マリーが呪文を唱えると俺の体は宙に浮いた。
それにしても誰がこんな穴を掘ったんだ? まさか俺に恨みを持つ者がいるというのか? ああ、考えたくない。こうして俺の人間不信は深まっていくのであった。




