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第46話 公式発表

 今は平和を取り戻した俺の部屋にいる。

「やっと結婚する気になってくれたみたいね」

マリーが腕組みをして俺の方を見下したような目で見つめながら言った。

「ああ」

俺は愛想のない返事をする。


 別にマリーが嫌いなわけじゃない。ただ俺の人生を他人に決められるのが嫌なんだ。それに俺のことを好きだと言ってくれた小百合にも済まないという気持ちになる。こんな重大なことを何の相談もなく決めてしまったのである。実際、俺は小百合のことが好きだ。おそらくマリー以上に。あとは小百合が脅されてこうなっていることを理解してくれることを祈るだけだ。


「まあ、いつかはこの日が来ることはわかっていたわ」

マリーのどや顔を見ていると思わず言いたくなってしまう。

「言っとくが喜んでお前を選んだわけじゃないからな」

「どういう意味よ」


 ふわり。なんか気持ちのいいものが首に触れたような。俺は何気に首元に手をやった。手に黒い毛の塊があたる。げ! 2号!

「ううえおういああいおああいえいえ」

2号は日本語をしゃべろうとすると母音しか発音できないのだ。はっきり言ってさっぱりわからん。


 2号が俺の反応を見ている。まさか今ので通じたと思っているのか?

「よくわからなかったのだが」

「キュピ!」

「よくわかりませんでした」

「娘を好きでないのなら死刑ね」

「どうして急に流暢な日本語になるのですか?」


 マリーは俺の横に座ると俺の腕にしがみついてきた。おそらくこれを嫌がるのはNGなんだろうな。

「もう決定したんだから公式発表してもいいわよね」

「公式発表?」

とてつもなく嫌な予感がする。


「1か月後に結婚式を挙げるのよ。みんなに知らせて問題あるわけ?」

こういう言葉を聞くといよいよ追い詰められた気持ちになる。

「発表するってどうやってするんだ? 学校でみんなに言うとか?」

「そんなしょぼい方法は取らないわよ。私は一国のプリンセスよ」

「だったらどうするんだ?」

「お父さんに頼んでみんなの心に伝えてもらうの。いわゆるマインドコントロールね」


 この方法は依然痛い目にあった覚えがあるぞ。

「じゃあ、今から頼んでやってもらうわね」

「ちょっと待ってくれ!」

「どうして?」

小百合には俺の口から言いたい。できれば2号のいないところで。


「やはりマインドコントロールで言うより直接言った方がいいじゃないか」

「そうかしら? 面倒じゃない?」

「その方が値打ちあるだろ?」

はっきり言って値打ちがあるとも思えないが、とにかくこの場を切り抜けなければならないのだ。

「だったらそうするわ」

マリーが単純でよかった。


 だが、どう伝えたらいいものやら。

「じゃあ、まずは芽依からね」

「え? もう伝えるのか?」

「嫌なの?」

「そんなことはないけど‥‥」


 ふわり。

「もちろん今すぐ言います!」

「何よ急に大きな声を出して。じゃあ芽依を呼んでくるわね」

そう言うとマリーは部屋から出て行った。ああ、どんどん内堀を埋められていく。


「お兄ちゃん、話って何?」

芽依、来るの早すぎだぞ。

「実はだな。その何だ」

「早く言いなさいよ」

マリーが急かしてくる。

「わかってるって」

言いづらい。芽依は一応身内だもんな。ここで言ってしまったら決定事項になってしまうよな。


 ふわり。ギャー。

「お兄ちゃんはマリーさんと結婚することにしたよ」

「ええええーーーー!!! ちょっとお兄ちゃん! 何言ってるかわかってるの?」

「わかってる」


「マリーさんと結婚するってことは異世界に行くってことだよ」

「そうだよな」

ふわり。

「異世界に行くってことは王家に入れるってことだぞ。凄いだろう」

「二度とこちらの世界に戻って来れないかもしれないんだよ」

「そうだよな」

ふわり。

「王家だよ王家。戻ってこれなくてもいいじゃないか」


「それに芽依の気持ちはどうなるの?」

「お前の気持ち?」

「今まで言ってなかったけど、芽依はお兄ちゃんのことを愛してるんだよ」

「いつも言ってる気もするけど」

「お兄ちゃんは芽依と結婚すべきなんだよ!」

「ははは。それはないかな?」

「何て言った?」

「何も言ってません」

何だこの迫力は? 一瞬背筋に寒気が走ったぞ。


「お願いだから考え直してよ」

「考え直したくても‥‥」

ふわり。

「こんないい話、なんで考え直さなければいけないんだ?」

「わかった。どうしてもって言うのなら芽依にも考えがあるから。覚悟しておいてね」

なんだなんだ!? なんか超怖いんですけど! 芽依はこちらを振り向くこともなく部屋を出て行った。あいつなら藁人形に五寸釘を打ち付けかねないぞ。でも2号の魔力よりは小さいから大丈夫だろう。


「次は小百合ね」

「今日は疲れたから明日学校で言うのでいいだろう?」

「仕方ないわね」

とりあえず少し時間を稼いだぞ。今夜は徹夜で考えるとするか。こうして眠れぬ夜を迎える俺であった。


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