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第4話 チャンピオン

 いよいよ今日から本格的に授業が始まった。マリーや小百合の周りには早くもクラスの生徒たちが集まっている。小百合は入学式で生徒代表として挨拶をしたから注目されるのも分かるが、マリーまでなぜかみんなから声をかけられている。妙なオーラでも出ているのだろうか? さすが異世界人だ。


「おい、林郷小百合さんて美人だよなあ」

「お前ああいうのがタイプなのか? 俺は桂木真里さんの方がいいぜ」

俺の近くにいる男子が話し始めた。早くも人気者になってるなとあの2人には感心する。まあ、あれだけ美形だとそうなるか。因みにマリーはこの高校では桂木真里と名乗るらしい。


「彼氏いるのかなぁ?」

確かにいるぞ。残念だったな。

「いたら力ずくで奪うまでよ。俺はこう見えてもボクシングをやってるからな」

おいおい怪しい雰囲気になってきたぞ。これは他人のふりをしておくのが一番のようだ。ボクシングをやってる奴に殴られるのはごめんだ。


「桂木さんて誰かと付き合ってるの?」

あっちはあっちで女子に囲まれたマリーが質問されている。俺のことは言うなよ。こっちは怪しい雰囲気になってるんだからな。

「彼なんていないわ」

それはそうだ。まずは様子見だよな。なかなか賢明だ。


「彼はいないけど許嫁ならいるわ」

「おい!」

俺は思わず声に出してツッコんでしまった。

「ええ! 嘘~! どんな人~?」

いきなりマリーの周りに集まった女子どもが盛り上がる。『許嫁』などと言うワードを発したらこうなるわな。


 言うなよ。絶対に俺の名前を言うなよ。言ったらボクシング野郎に殴られる。

「ね~誰なの?」

「それはねー。でも恥ずかしいな~」

なんかいつもとキャラが違うぞ。でもこれはもったいぶって言わないパターンだな。


「教えてよ~」

「めっちゃ気になる~」

「ん~どうしよっかな~?」

いつまでその話を続けるんだ? 言わなければいけなくなったらどうするんだ?


「許嫁なんて格好いいよね~。本当にいるの?」

「いるわよ」

「だったら教えてよ」

「もう仕方ないなぁ。葛城四朗君よ」

本当に言うんか~い!


「おい、葛城四朗ってどいつだ!」

ボクシング野郎が椅子を倒しながら豪快に立ち上がった。それを見た俺はそっと教室からの脱出を試みる。俺が葛城四朗だとはまだ知れ渡っていないだろう。ここはそっと逃げるのが一番というものだ。


「お前が葛城四朗か!」

何でわかったんだ? 教室からの脱出がぎこちなかったのか? ボクシング野郎は俺の腕を掴んで睨んできた。

「なんのこってす?」

「なんだ違うのか?」

ボクシング野郎が俺の腕を放した。ふ~助かった~。


「ちょっと! 四朗に何するのよ!」

「やっぱりお前が葛城四朗じゃねえか!」

このタイミングで何言い出すんだ! やはりマリーは馬鹿なのか? 確かマリーは向こうの世界では飛び級を重ねて現在では大学生のはず。学校の成績だけで頭の善し悪しを判断してはいけないという見本のような奴だ。


「四朗から手を離しなさい。さもないと・・・・」

「ダメだマリー!」

マリーが黒魔術を使ったら大騒ぎになる。それどころか国家的注目を浴びるぞ。


 マリーが今にも呪文を唱えようとしたその瞬間。

「情けないわねー。あんたも男なら彼氏を排除するんじゃなくて自分の魅力で女をものにしたらどうなの?」

さすが小百合! 助かったー! あれ? この声は小百合じゃないぞ?


「クソ!」

ボクシング野郎は俺の腕を悔しそうに放した。そして俺を助けてくれた女性が俺の方へ近寄ってくる。


「ごめんんさいね。こいつ単純馬鹿だから。思ったことはすぐに行動しちゃうのよ。許してあげてね」

その女性はにこりと微笑んだ。

「ありがとうございます。あいつとは知り合いなんですか?」

俺はできる限り丁寧な口調で尋ねた。これは命の恩人に対する当然の礼儀と言える。


「私はあいつと同じ中学校出身だからね。今度何か言ってきたら私に言ってちょうだい。ボクシングやってるとか言ってるけど、実際は練習に耐えられなくて3日で辞めちゃったんだ。結構口だけ男だから」

「詳しいですね」

もしかして幼なじみとかか?

「私も同じボクシングジムに通ってたから知ってるだけ。因みに私は中学生チャンピオンよ」

何て言った? 中学生チャンピオンとか言ったか? と言うことは日本一ってことか? 凄すぎないか? 俺は思わず疑問符を多用してしまう。


「四朗を助けてくれてありがとう」

マリーが近づいてきた。

「ああ、彼はあなたの許嫁だったわね」

「いえ、違いますよ」

俺は慌てて否定した。

「いいじゃない恥ずかしがらなくても」

「そういうわけではなくて・・・・」


「四朗、何で否定する必要があるって言うの?」

チャンピオン少女はクスクス笑い始めた。

「いいじゃない。許嫁の一人や二人いても」

「二人いると色々と問題があるような気がしますが」


 マリーは例によって俺の腕にしがみつき、

「みんなに許嫁だって発表しちゃおうよ」

と言ってきた。とんでもない話だ。なぜなら・・・・。


「待ちなさい! その女の言うことを信じちゃダメ!」

小百合だ。一連の流れに圧倒されていた小百合が我に返ったようだ。

「四朗君の彼女は私よ」

「あなたモテるのね?」

今度は大笑いしている。高校生活が始まってすぐこの騒ぎだ。一体どうなっていくのやら。一抹の不安を感じる俺であった。

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