第35話 最終手段
3連休を利用しているため今日が中日と言うことになる。陽葵がこの地域の観光地を案内してくれるそうだ。当然のことながらリムジンでの移動である。これは実生活には戻れんぞ。
「ここから見える岩なんだけど」
陽葵が指さす先には海の中に大きな岩がぽつんと1つ見える。
「岩の下の部分が削れてハート型に見えるでしょう?」
確かにハート型に見えるな。
「この岩をバックにカップルが写真を撮ると必ず結ばれるのよ」
女ってこういうの好きだよな。でもこの状況は?
一斉に3人分の手が俺を引っ張る。
「痛いから離せ!」
「勿論、私と写真撮るわよね? 私が正式な彼女なんだし」
「お兄ちゃん、今まで一緒に生活してきていきなり裏切らないよね?」
「ここに来れたのは私のおかげよね? 少しでも感謝してるなら一緒に写真撮ってくれるわね?」
結局平等に1組ずつ写真を撮ることになった。こういう場合は誰と結ばれることになるんだ?
「ところで岩の下部分が海に侵食されて削られるのは分かるが上の部分が削れているのはなぜだ?」
「名所になるよう人工的に削ったのよ」
「無理やり名所を作るな!」
陽葵の会社って悪徳企業じゃないよな?
次は神社だ。嫌な予感がする。
「この神社をカップルでお参りすると必ず結ばれるという縁結びの神社よ」
やっぱり。
「恋人の私とお参りするわよね!」
「長年苦楽を共にしてきた人を裏切らないよね?」
「ここへ来れたのは私のおかげでしょ」
今回は誰も譲りそうにない。やはり神様が関係するとなると御利益も高そうだからな。
「このままでは埒が明かないわ。おみくじ対決をしましょう。大吉を引いた人が四朗とお参りするの。勝負は1回勝負。おみくじは何回も引くものじゃないから。いいわね」
陽葵の提案に全員頷いている。何だこの真剣ムードは?
「やったー! 私は大吉だわ!」
陽葵が飛び上がって喜んでいる。
「甘いわね。私も大吉よ」
小百合が不敵な笑みを浮かべている。
「ふふふ実は私も大吉なんだよー」
何て運の強い3人なんだ。結局俺は3回もお参りするはめになった。実に下らん。
「次は一緒に食べると必ず結ばれるという料理屋よ」
どれだけ縁結びの御利益がある町なんだよ! それにしても長閑な町だな。別荘を建てるような場所だから当たり前か。
俺は飲み物を出そうと鞄に手を入れた。ん? 何かふわっとした気持ちいい物に触ったような。慌てて鞄の中を覗く。黒いしっぽ?
「まさかマリーか!?」
「シー」
黒いしっぽアクセサリーが小声で言った。
「どういうことだ?」
「いいから。みんなに見つからないようにして!」
「よく分からないが分かった」
俺はあやふやな返事をすると鞄のチャックを閉めた。
「これ美味しいわよ。はい、あ~ん」
陽葵が自分の箸で何かを摘まんで俺の口元に差し出す。
「四朗君、それは恋人である私の役目よね~。はい、あ~ん」
「2人とも恥ずかしいから止めろって」
『林郷小百合。思っていた以上にウザイ存在ね。さすが生徒会の臨時補助に抜擢されるだけのことはあるわ。これでは私と四郎の二人きりのラブラブなんて機会はできないわね』
「はい、お兄ちゃん。あ~ん」
「お前もか!」
その後もこの調子で3人が張り合って1日が過ぎていった。超豪華な夕食の後は居間でくつろぐ時間だ。もう変なゲームを持ってくるなよ。
「とっても美味しいジュースが手に入ったそうよ。早速いただきましょう。何味がいいか言って」
「芽依は苺がいいよ」
「私はアップルかな」
「四朗は?」
「俺もリンゴでいい」
ワインでも入ってそうなグラスにジュースが注がれている。これは本気で美味しそうだ。「ねえ、四朗君。私のを一口あげるから四朗君のも一口頂戴よ。飲み比べしましょう」
「ちょっと! 何言い出すのよ林郷小百合! そんなことしたら間接キッスになるでしょ! 第一あなた達同じアップルジュースを選んだじゃない!」
「あら? そうだったかしら?」
『やはりこの女侮れないわね。でもこのジュースを飲めば状況は一変するわ。早く飲みなさい』
そして10分後。陽葵以外全員が眠ってしまった。
「これで邪魔者はいなくなったわね」
「はい、お嬢様」
「ん? 四朗まで眠らせてどうするのよ! これじゃ二人っきりの時間を過ごすって作戦が台無しじゃない!」
「申し訳ありません」
『仕方ないわね。作戦変更よ』
「この人達をそれぞれのベッドに運びなさい」
「かしこまりました」
『本当に困ったものね。最後の夜だってのに。でも転んでもただでは起きないわよ。見てらっしゃい』
陽葵はニヤリと笑うのであった。




