第33話 条件
「日向さん。話があるの。いいかしら?」
小百合が陽葵に声を掛けているのを偶然見かけてしまった。
「何が言いたいのか大体予想できるけど。まあ聞くだけ聞くわ」
「じゃあ、誰もいない場所に行きましょう」
おい、大丈夫だろうな。いきなり喧嘩とか止めてくれよ。
小百合と陽葵は立ち入り禁止になっている屋上へと向かった。少し怖いが俺もそっと後をつける。
「で、何かしら? 別荘デートを諦めろって話なら聞く耳持たないわよ」
「最初に言っておくけど。四朗君の彼女は私なの。横取りは止めてほしいわ」
「そんなの四朗の心次第じゃなくって?」
小百合の顔がややきつくなる。
「どういうことかしら?」
落ち着いた声で話す小百合だが手が震えているところを見るとやや動揺しているのかも知れない。
「四朗が心変わりする可能性もあるってことよ」
小百合は下を向いて黙ってしまった。
考えてみればマリーが来て以来、思い通りにならないことが多く続いている。今回も同じような状況だと感じているのかも知れない。
「私はあなたと違って欲しいものは積極的に奪いに行くタイプなの」
「私が積極的じゃないと言うの?」
「そうじゃない。変な異世界人に好き放題されてるでしょ?」
「それは・・・・」
この2人だと小百合の方が弁が立つと思っていたがそうでもないな。
「だからあなたが何を言おうと四朗を別荘に招待するわ」
「ちょっと待って!」
小百合が顔を上げ陽葵を見る。
「招待を止めてって言っても無理よ。私の思いは真剣なの。あなたのように運命に任せたりするつもりはないから」
小百合は唇を噛んで握り拳を作って耐えているように見える。まさかこんな小百合の姿を見ようとは思わなかった。確かにこう言われてみると小百合は耐えながら毎日を過ごしているとも考えられる。
「私は四郎君があなたの別荘に行くのを止めたりはしないわ」
え? どうしてだ?
「あら意外な言葉ね」
「ただ条件付きでの賛成よ」
「条件付き?」
陽葵は暫く腕組みをして考えていた。小百合の魂胆が読めないのだろう。どう考えても賛成するはずがないからな。
「わかったわ。それで条件って何? 聞くだけ聞いてあげる」
「私も招待して欲しいの」
「え?」
意外な展開だな。確かに自分も行けば俺を見張ることはできるが。
「ふうん。豪華な食事に魅力でも感じた?」
「そんな物いらないわよ」
「じゃあ、四朗を見張ろうってことかしら?」
「そうね」
いくら見張れてもこの流れは小百合には良くないんじゃないか?
「わかったわ。だったらあの異世界人も来るのね?」
「そんなのいらないわよ」
え?
「マリーが行ったら私達が不利になる可能性もあるわよ。それでもいいの?」
「それはそうだけど」
まさか小百合があんなことを言うとは思わなかったぞ。マリーのことを恨んでいたのか? 考えてみればマリーは諸悪の元凶だもんな。でも頭が良く優しく完璧な小百合がこんな発言をするとは。
「わかった。その条件で手を打ちましょ」
「ありがとう。当日を楽しみにしてるわ。四朗君には私からも勧めておくわね」
2人が屋上から帰ろうとしたので俺は慌てて階段を降りた。話を聞いていたのがバレたら大変だ。2人とも強すぎる。
その日の夜。マリーの怒りが爆発していた。小百合宛の招待状が届いたからだ。
「どうして私だけ招待されないわけ?」
「そんなの知らないわよ。日向さんの気まぐれじゃない?」
知ってるくせに。
「四朗! まさか私を置いていかないわよね?」
「ええっと」
「お兄ちゃん、行くよね? 貧乏生活から脱出できるチャンスなんだよ」
芽依は俺が取られる心配よりも豪華な食事の方が大事らしい。だが分かる気もするぞ。全ては貧乏が悪いんだ。
「マリー、あなたが辛抱すれば全てがうまくいくのよ」
小百合がマリーの方を叩きながら説得している。
「何でよ! 絶対に認めないんだから!」
マリーが泣きながら抗議している。マリーの涙。非常に貴重だ。
別荘へ出発する日。マリーの姿はどこにもなかった。ちょっと可哀想すぎたかも? まあ、さすがに見送りには出てこないか。これで良かったのかな? 俺が心を痛めていると黒塗りのロールスロイスが俺たちの前に停まった。
「お迎えに上がりました」
運転手が降りてきてドアを開けてくれる。
これは絵に描いたような金持ちスタイル! 俺たちは慌てて車に乗った。ああ、先ほどの胸の痛みはどうした? 『これも貧乏体質が行けないんだ!』と自分に言い聞かせながらも、ついつい別荘での生活を思い浮かべて顔をにやつかせてしまう俺なのであった。




