第31話 ボディーガード
帰宅した俺は陽葵に言われたことを3人に話した。
「そんなこと言われたの?」
マリーが俺の話を聞くと怒った声で言った。
「大丈夫、私が四朗を守ってみせるわ」
「でも、どうやって守るんだ?」
「これからどこへ行くのも私が同行するの」
何だと!
「そんなのずるいよ~」
芽依がマリーの言葉に反応する。
「マリー、これに乗じて四朗君との仲を深めようとしてない?」
小百合も反対の意を示す。
「あなた達が一緒にいても何の戦力にならないでしょ?」
「芽依ちゃんはともかく私は林郷流免許皆伝よ」
そんな流派あったんだ。
「小百合さん酷い裏切りだよ~」
「でも、女子中学生の芽依ちゃんには荷が重い役目よね?」
それはそうだ。屈強な男が数名でやって来たら芽依ではどうすることもできないだろう。
「では、明日の土曜日は私と四郎のデートね」
「ちょっと待ちなさいよ!」
慌てて小百合が待ったを掛ける。
「何? 文句あるの?」
「あるわよ。どうして危険を冒して出かけるわけ?」
「そうだよ。小百合さんの言うとおりだよ」
マリーは暫く考えて。
「敵をおびき出す作戦よ。そして四朗を拉致するのは無理だって分からせてやるの」
「でも、外で黒魔術は使えないんだろ?」
「正当防衛よ」
本当なのか? そんな理屈が通じるのか?
「わかったわ。だったら私も一緒に行くわ」
「ええーーー!」
「芽依も行くよ」
冗談だろ?
そして土曜の朝。とても気が重い。
「芽依ちゃん、可愛い服ね」
小百合が芽依の高価な服に気付く。
「お兄ちゃんに買って貰ったんだ」
余計なことを言うな。
「ふうん」
小百合が何か言いたげな目で俺を見ている。
「言っとくが買わされたんだぞ」
「恋人には買ってくれないんだ?」
「だから無理やり買わされたんだ」
「それで今日はどこに行くの?」
自分が主役であることを主張をしたいマリーが切り出した。
「やっぱデパートだよ」
「芽依、今日は何も買わないぞ」
「史跡巡りなんてどう?」
小百合の提案にマリーが速攻否定する。
「私はこっちの世界の歴史なんて興味ないの。分かるでしょう」
これは意見をまとめるだけで日が暮れるぞ。
「とりあえずお茶しない? そこで考えましょう」
「それもそうね。じゃあ、納豆一番に行きましょう」
「どこの世界にデートで納豆を食べる女子高生がいるのよ。行くなら喫茶店よ」
「芽依、ボクドナルドがいいな」
で、結局スタパに来ている。どこをどう辿ればここになるのだ? 因みに俺の意見は全く入っていない。ていうか聞いてさえも貰えなかった。
「小百合、今日はコーヒーじゃないんだな?」
甘いジュース系を頼んだ小百合に嫌みを言ってみた。
「別にいいじゃない」
どうやら嫌みが通じたようだ。
「それでどこに行くの?」
マリーがスマホを見ながら言った。
「そうね。図書館とか」
小百合が本心かどうかわからないことを言う。
「芽依、せっかくおしゃれしてきたのに、もっと賑やかなところがいいよ」
「これなんかどう?」
マリーがスマホの画面を俺たちに見せる。
「絶対に嫌だからな」
画面に出ていたのはお化け屋敷だ。しかも怖いので有名な物である。女3人引き連れて、もし俺が一番怖がったら大変だ。俺はこういうのは大の苦手なのでその可能性は十分考えられる。
「いいわね。これにしましょう」
「決定ね」
俺の意見は? 何か勝手に決まってるし。
「本当に入るのか?」
「当たり前じゃない」
マリーがやたら張り切っている。
「じゃあ、順番を決めましょ」
「そうね。重要ポイントだわ」
「じゃあ、芽依がくじ引きを作るよ」
「ダメよ。それでは四朗君と離れた人は最後までポイントをあげられないわ」
ポイント? 何だそれ?
「こうしましょう。前半中盤後半で順番を変えるの。つまり2番目を四朗君にして先頭、3番目、後ろを私達で振り分けるの。当然一番後ろの人がハズレで四朗君の次に当たる3番目の人が大当たりよね」
「わかったわ。じゃあ私がくじ引きを作るわ」
「マリーが作ると何かインチキくさいから四朗君作って」
「どういう意味よ。どうせ交代するんだから関係ないでしょ?」
ああだこうだと揉めて結局順番が決まったのはここへ来てから30分後だ。
「さあ切符買いに行くわよ」
マリーが颯爽と切符売り場に向かう。
「高校生3人と中学生1人」
「予約番号をお願いします」
「え? どういうこと?」
「大変人気が出ておりますのでネットで予約していただいての入場になります」
こうして俺はピンチを逃れたのである。その後もあちらこちらを3人で揉めながら歩かされたが、結局陽葵の魔の手は全く姿を見せないのであった。こういうのを取り越し苦労と言うのだと思う。




