第29話 本心を告げよ
俺は家に帰るとマリー達に陽葵の父親のことを話した。
「日向さんて我が儘な性格だとは思ってたけど本物のお嬢様だったのね」
最近当たり前のように俺の部屋にいる小百合が言った。
「大企業の副社長がどうしたのよ。私と結婚すれば王様になれるのよ」
確かに副社長と王様ではレベルが違う気がする。ただ異世界だもんなぁ。
「そうでしょ小百合?」
マリーはどや顔で小百合を見ている。
「何よ。私と結婚すれば町内会長くらいにはなれるわよ」
随分レベルが下がったな。
「芽依と結婚すれば総理大臣になれるよ」
「どこをどうすれば一般家庭の小市民が総理大臣になれるんだ!」
「裏工作だよ」
どう裏工作したって絶対に無理だ。因みに実力でなれるかというと今の学力では100%無理である。
「それで四朗。ちゃんと断ったんでしょうね?」
マリーの鋭い一言が炸裂する。今の俺には一番されたくない質問だ。
「当然だ。権力を笠に脅してくるなんて許せない」
取り敢えずきつい言葉で誤魔化す。
「じゃあ、ビデオを再生して確かめるわね」
「ちょっと待ってくれ! 俺の行動を撮ってたのか!?」
俺は大慌てでマリーの腕を掴んだ。
「怪しいわね」
マリーが疑いの眼差しで俺を見ている。
「この慌てようだとしっかり断ってないのは明らかね」
小百合も俺を疑い始めた。
「本当のことを言った方がいいよお兄ちゃん」
これはあれだな。本当のことを正直に言った方がいいな。
「断るには断ったのだが、最後に『前向きに善処します』と言いました」
「どういうこと?」
3人が一斉に同じ台詞を言った。
「こう言わないとそのまま拉致されそうだったので」
「バカね。そんなこと言ったら勘違いされるでしょう?」
小百合にしてはきつい言葉が飛び出る。確かに帰る時には陽葵の父親は物凄い笑顔だったもんな。もしこのことを陽葵に伝えていたら・・・・。伝えるに決まってるよな。
「明日はっきり断りなさい。わかったわね!」
マリーの言葉にみんなが頷く。俺も頷かないわけにはいかなかった。
次の朝。俺は登校拒否をしようか迷っていた。だが、今日休んでしまったら、
『やっぱり断りたくないってこと? 本当は陽葵が好きなのね』
と言われかねない。でも、陽葵にどう言い出したらいいのか分からない。陽葵の心を傷つけるのは覚悟の上だが、その後どう転ぶかを考えると憂鬱で仕方ないのだ。
学校に着くと校門のところに陽葵が立っていた。
「やっぱり毎朝俺を待ってないか?」
「うふふバレた?」
物凄い笑顔だ。絶対にお父さんから聞いてるよな? ああ、気が重い。とにかく朝から暗い気持ちにさせても何だから放課後に話そう。
この日1日は授業は上の空だった。まあ、いつもとあまり変わらないのだが。何かあるごとに陽葵が微笑みかけてくる。一方、小百合とマリーは『まだ言わんのか!」的な目で俺を見ている。本気で鬱病になってしまいそうだ。
そして放課後。俺と陽葵は文化祭実行委員として教室にいた。
「うふふ」
陽葵が笑顔で俺を見つめている。さあ言わなければ。でもきっかけが。
「ねえ」
「な、何?」
「お父さんに聞いたでしょ?」
やっぱり伝わっていたか。
「前向きに善処してくれるって」
「そのことなんだが」
「それを聞いてとても嬉しかったわ」
「いや、だから」
「私のことを意識してくれてたのね」
「そうじゃなくて」
「私、四朗にお似合いの女性になるね」
「だから俺の話を聞けって!」
疲れる。
「2人で幸せな家庭を作ろうね」
「前向きに善処するってのはOKって意味じゃないから」
「どういう意味?」
声のトーンが著しく変わった。ちょっと怖いかも。
「だから付き合うとは言ってないということだ」
「どうしてそんなことを言うの?」
この悲しい顔を見るのが辛いんだ。少なくとも俺に好意を持ってくれているのは確かだ。それなのに落ち込ませてしまった。本当に悪いと思っている。
「分かったわ」
「分かってくれたか」
「林郷さんや葛城さんに脅されたのね?」
ある意味正解だが。
「許せないわ。私戦う!」
「止めてくれ!」
これ以上話をややこしくしないでくれ!
「どうしてあの人達の肩を持つの?」
陽葵は両手で顔を覆って泣き出した。
「おい、泣くな。どうしたらいいか分からなくなる」
「どうせ私のことなんか好きじゃないでしょ!」
「そんなことはないぞ。陽葵はとても魅力的な女性だ」
「本当?」
「ああ、本当だ」
「嬉しい!」
やってしまった。つい情に流されてしまう癖を直さないと行けないよな。
陽葵が俺に抱きついてきた。
「おい、止めろ」
俺は慌てて陽葵を押した。
「もう恥ずかしがり屋さんなんだから。ここには私達しかいないわよ」
はっ!! 俺は慌てて教室中を見る。小さな雲はないようだ。しかしマリーのことだ。どんな手段を使って俺を見張ってるか分からない。陽葵のことを魅力的な女性と言って抱きつかれたのを見られていたとしたら俺の命が危ない。
「四朗、今度私の別荘に遊びに行きましょう。お父さんに頼んでおくわね」
俺は必死で断ったが陽葵は聞く耳を持たないのであった。




