第28話 社会の裏事情
今日の俺は授業に身が入らなかった。昨日のことが気になっているからだ。誰が何のために俺と小百合のデートをビデオ撮影したのか。そんなことをして何の得があるのか。考えられるのは俺と小百合がより親密になってないかを確認することだろうか。となるとマリーや芽依が怪しいが、この2人はデートの様子を見ていた可能性が高い。だとするとわざわざビデオに撮る必要はないわけだ。とするとこのクラスの誰かか? 小百合に好意を持っている男子は多い。でも自分で確認すればいいだけでビデオに撮る必要はないのでは? それにこいつらだとしたら俺と小百合がキスしようとしたら慌てて止めに来るはずだ。となるとこのビデオを使って脅迫でもしようという連中がいるってことか?
「今日はえらく考え込んでるのね」
陽葵がいつもの明るい声で話しかけてきた。
「ちょっと変なことがあってな」
「ええ、なになに? 何があったの?」
まさか陽葵が犯人とか? ありえないな。陽葵が犯人だとしたらこんな反応ができるか? もしできるとしたら陽葵は女優だ。
小百合がこちらを見ている。別に仲良くはしてないぞ。
「どうして教えてくれないの?」
「ちょっと思い出したくなくて」
「どんな酷い目に遭ったのよ」
やはり陽葵ではないな。
その日は特に変わったこともなく過ぎていった。俺が帰宅しようとするといつもと違う違和感がある。そう、いつもはマリーや陽葵が一緒に帰ろうとしてくるのだが、今日は誰も俺の前に現れない。こういう日もあるだろうがちょっと寂しい気もする。
いつもの四つ角を曲がろうとした時、黒い服を着た怪しい男に声を掛けられた。
「葛城四朗さんですね?」
「はい、そうですが」
「少しお話ししたいことがあります。一緒に来ていただけますか?」
何だ? これってやばい奴じゃないよな?
「何、時間は取らせませんよ。お聞きしたいたいことがあるだけです」
俺は何も答えず逃げようとしたが、同じ服を着た人物が数名俺を取り囲んでいるのに気付いた。
俺は慌てて、
「助けて」
と叫ぼうとしたが、怪しい男の1人が俺の口を手で押さえた。
「大人しくしないと手荒なことをすることになりますが」
これは完全にやばい奴だ。俺は抵抗を試みたが結果的に犯人どもの車に乗せられてしまった。
俺は見覚えのないビルに一室にいる。非常に豪勢な部屋だ。
「四朗君だね?」
「はい」
「驚いたかね?」
「当然です! これはどういうことですか?」
目の前に居るのは体格のいいおじさんだ。体格がいいと書くと筋肉マッチョと勘違いされるかも知れないが決してそうではない。太めという意味の体格の良さだ。きっと金持ちなのだろう。
「あなたは誰ですか?」
「気になるかね?」
「当たり前です」
「君の味方とだけ言っておこう」
わけが分からないことを言われたぞ。この状況って殆ど拉致じゃねえか。それなのに味方ってどういうことだ?
「俺を帰してください。俺の家はお金もないし誘拐しても意味ないですよ」
「大丈夫。君に危害を加えるつもりはない」
「じゃあ、なぜこんなことを?」
男は葉巻に火を点けた。
「ちょっと提案をしたくてね。これを見て貰いたい」
男がテレビのスイッチを押す。そこには俺と小百合のデート画像が映し出されていた。
「ビデオ撮ってたのはお前たちか!」
「そうだ」
「どうしてこんなマネをするんだ」
「このビデオをネット上にあげたら面白いと思ってね」
わけが分からん。こんな何の変哲もないビデオを見ても誰も感心を持たないだろう。
「少し編集を加えたのもあるぞ」
「ええーーー! キ、キスしてる!」
「更にこれなんてどうかね?」
「ええええええーーーーーーーー!!!!!! 俺が小百合の胸を触ってる!!!」
「学校名と名前を入れて出そうかと思ってるんだが」
「こんなの犯罪じゃないか!」
「そうかね?」
「犯罪に決まってるだろう。警察に訴えますよ」
「私は財閥級の企業を経営しておる。偉い方も多く知っていてね。一高校生と私のどちらが信頼されるかな?」
いや、これは俺が信頼されるだろう。だが自信がない。もしかして世の中の裏の部分があるのか? よくマンガやドラマでは見るが。
「ビデオをアップする手続きを」
「はい」
その言葉に思わず反応してしまう。
「ちょっと待ってください!」
「ほお、私の提案を聞いてくれる気になりましたか」
「聞くだけなら」
男はもったいぶって暫く黙っていたが、俺を睨み付けるように見つめた後ようやく口を開いた。
「この子と別れて欲しい」
「は?」
「この子は君を幸せにしない。考え直して欲しい」
「何を言ってるんですか?」
何を言い出すかと思ったらどういうことだ?
「何を根拠にそんなことを言ってるんです?」
「もっといい娘がいるからだ」
「誰です?」
「それは言えん」
本当に変な人だな。なぜ言えないんだ?
「ちなみに、あなたの名前は何ですか?」
「それも言えん」
「じゃあ、この財閥級の超一流企業は何て言うんです?」
「日向株式会社だ」
「陽葵じゃねえか! 陽葵に頼まれたんですね?」
「なぜ分かった!」
「誰でも分かります」
「そこまで知っているなら話が早い」
いやいやあんたがバラしたんですから。
「そんな女と別れて陽葵を選んで欲しい」
「それはあり得ません!」
「陽葵を選ぶと贅沢できるぞ。何しろ大企業をバックにできるんだからな」
「それは多分あり得ません」
「将来は副社長にしてやるぞ」
「そんなこと言われても恐らく多分あり得ません」
「月給は一月300万だ。ボーナスは1000万やろう」
「そんなこと言われても、ええっとそのうあり得ないのではないでしょうか?」
貧乏育ちのため、はっきり断れない自分が情けなかった。




