第26話 陽葵の苦悩
次の日、俺が登校すると陽葵が校門の所に立っていた。先週と同じパターンだな。
「お前もしかして俺が登校してくるのを待ってるのか?」
「ちょっと聞きたいことがあったからよ」
いつもに比べ声が暗いような? まさかとは思うが昨日の芽依とのデートを知ってるのか? そんなわけないよな。
俺は陽葵と一緒に教室へと向かった。陽葵は時折俺を見つめるが何も話してこない。実に怪しい。
教室に入ると陽葵が大きなため息をついて話し始めた。
「昨日どこに行ってたの?」
やはり知ってるのか? ここは正直に言うか誤魔化すかの判断が必要だ。もし昨日のデートを知っているなら下手に誤魔化すと事態が悪化しかねない。知らないなら正直に言って墓穴を掘るのもアホらしい。
「どこに居たと思う?」
ちょっと様子を覗ってみた。
「そんなの分かるわけないわよ」
知らないのか?
「ただ変な噂を聞いたから心配になっただけよ」
変な噂? どういうことだ?
「四朗君がデパートで小さな女の子とラブラブデートをしてたって聞いて」
この学校の生徒に見られてたのか?
「四朗知ってる? 13歳未満の女の子に手を出すと刑法177条で強姦罪になるのよ」
「あれは妹の芽依だ! それに怪しいことはしてねえ!」
「ふうん。でも恋人レベルのラブラブぶりだったって」
芽依の奴、必要以上にくっついてきたもんな。誤解されても仕方ないか。
「やっぱり妹さんとも付き合ってるんだ」
「違う!」
「でも、キスしてたって話だよ」
「してねえ!」
どんな噂が流れてるんだ? てか誰だでたらめを言いふらすやつは!
「私達もうダメね。私を裏切ったらどうなるか分かってる? 入院する病院は決めてあるかしら?」
「だから俺たちは付き合ってないから!」
周りの女子達がひそひそ話を始める。大きい声で言いすぎたか?
「四朗君、えらく仲がよろしいことで」
げ! 小百合だ。この言い方から推測するに恐らく怒ってるな。
「仲良くなんてしてないぞ!」
「四朗、酷いよ」
手を顔に当て泣き出す陽葵。ただし涙は出てない。
「日向さん。四朗君に手を出すのは止めてくれない? 私が正式な彼女なの」
「四朗! 本当なの?」
知ってるくせに。
俺は少しもったいぶって少し黙った後ゆっくりと話した。ドラマでも演じている気分だ。
「ああ、本当だ」
「そんな」
陽葵が大げさに崩れ落ちる。こいつって女優希望なのか?
「それなら私のアパートでしたことは嘘だったの? 私のことを愛してたからじゃなかったの?」
「おい!!!!! 誤解を受けるようなことを言うな!!!」
小百合が握り拳を作って体を震わせている。
「こいつの冗談だからな。分かるだろ?」
「ええ、勿論理解はしているつもりよ」
「だったら、どうして手が震えてるんだ?」
「脳での理解と体の理解が一致してないだけよ」
「???」
「日向さんが悪い冗談を言ってるのは分かってるわ。でも私の体は憎しみに燃えているのよ。四朗君を日本刀で一刀両断にしたがっているの。分かるでしょ?」
ガチャ!
「お許しください! 俺、何も悪いことしてないけど許してください」
俺は本能的に土下座を繰り返していた。周りの女子達がひそひそ話をしている。
「林郷さん、あなたは本当に四朗のことを愛してるの?」
「どういう意味よ」
「私だったら愛する人を攻撃したりしないけど」
さっき『入院する病院は決めてあるかしら?』って言ってたのは誰だ?
「あなたがいくら四朗君に言い寄っても四朗君は私を選ぶわ。横取りしよう何て考えないことね」
「本当なの? 四朗!」
だから、もういいって。
「それにいいこと教えてあげる。今度の日曜に私は四朗君とデートをすることになってるわ。どう羨ましい?」
そんなこと言ってもいいのか? 俺は知らんぞ。
「私は欲しいものは全て手に入れてきたの。四朗も例外じゃないわ」
「そう、それは楽しみね。お手並み拝見と行こうかしら?」
「あら、随分自信があるみたいね。きっと後悔することになるわよ」
2人の目から火花が散っている。マリーが近くに居なくて良かったぜ。この雰囲気にマリーが加わったら収拾が付かなくなる。
その後、陽葵は常に俺の横で何かメモを取っていた。何してるんだ?
「陽葵がうざいわね」
「本当ね。四朗君から離れないじゃない」
「殺っちゃう?」
「そうね。その選択肢もありね」
マリーと小百合が物騒なことを言ってるぞ。本気ではないと思うが。ちょっと怖い気もする。ただ、この状況を良しとする生徒もいるようだ。勿論、マリーと小百合に好意を持つ男子連中だ。俺が陽葵とくっつけば自分たちにもチャンスが巡ってくると考えているのだろう。陰で『頑張れ日向さん!』などと言っている。困ったものだ。




