第23話 恐怖体験
憂鬱な一日が始まった。俺の横でマリーがウキウキ顔で座っている。
「ねえ四朗。せっかくのデートだもん。どこへ行っても幸せよ。でも遊園地って何?」
異世界でファイヤードラゴン狩りをさせられたら大変だと思い、俺はマリーに遊園地に行くことを勧めたのだ。
「遊園地はデートの定番だろう」
「だから遊園地って何する所なのかって聞いてるの」
「お前もしかして遊園地を知らないのか?」
考えてみたらマリーは異世界人だ。こちらのことを知らない可能性もある。だが遊園地だぞ。本当に知らないのか?
1時間ほど乗った電車が目的地に着くとマリーはスキップをしながら駅に降りた。
「ねえ、その遊園地ってどこにあるのよ」
「駅を出たらバスで10分だ」
「早く行きましょう」
えらくノリノリだな。
遊園地を勧めてみたものの俺はあまり好きな場所ではない。以前、小百合と行ったことがあるのだが楽しいと言うよりは疲れるといった印象しかないのだ。
「うわー、何かいろいろな物があるわね」
遊園地に着くと、マリーは小さな子どもが初めて来たみたいにキョロキョロしている。
「あれは何? みんなキャーキャー言ってるけど」
「ジェットコースターだ。物凄いスピードの電車だと思えばいい」
「電車ってさっき乗った奴でしょ? あんなものでキャーキャー言うはずないわよ」
知らぬが仏とはこのことだな。ここはマリーをジェットコースターに乗せて後悔させてやるか。ちょっと面白くなってきたぞ。
「デートで遊園地に来たカップルは必ずあれに乗るんだ。乗ってみるか?」
「そうなの? じゃあ乗りましょう」
よし大成功だ。
俺たちを乗せたジェットコースターがゆっくりと坂を登っていく。俺ははっきり言ってこの行程が大嫌いだ。次に来る急降下を想像するとつい緊張してしまう。
「みんなキャーキャー言ってたけど、こんなゆっくりなのが怖いの?」
予想通りの反応だ。この後の大騒ぎが目に見えるようだぜ。
そしていよいよジェットコースターが急降下を始めた。
「キャー!!!」
やった! マリーが悲鳴を上げてるぞ。こんな姿滅多に見られる物じゃないからな。じっくり堪能してやる。
「四朗! 何よこれ? キャー! 何でこんなスピードで急カーブするわけ?」
マリーは俺に抱きついてきた。
「おい、そんなことすると俺も怖くなるだろ! レバーから手を離すなって」
「そんなの無理! キャー助けてー!」
ジェットコースターが止まってもマリーが離れようとしない。
「お客さん。次がありますので降りていただけませんか?」
「すみません。マリー離れろって」
はっきり言って恥ずかしい。
ジェットコースターから降りて近くのベンチに行くまでマリーは俺の腕にしがみついたままだった。
「おい、大丈夫か? ここに座るぞ」
「大丈夫じゃないわよ。何て物に乗せるのよ!」
よほど怖かったのだろう。ベンチに座ってからもマリーは俺にしがみついている。
『ブーブーブー』
「何の音だ?」
「小百合達がBADボタンを押してるのよ」
「BADボタン?」
「いいねボタンの逆ね。デートの最中にやり過ぎって思ったら押すことになってるの」
確かにこれだけ長い時間密着してたらBADボタンとやらも押されるわな。
「変なボタンも押されたし、ちょっと離れてくれ」
「いやよ。怖かったんだから」
まさかマリーにこんな女の子っぽい一面があったとは。これが相思相愛の相手だったらどんなに嬉しいことか。リア充の見本みたいな状況だ。
「あまり酷いようだったら帰るか?」
「何で帰らなければいけないのよ!」
「調子悪そうだし」
マリーは急に起き上がった。
「で? 次はどれに乗るの?」
「大丈夫か?」
俺はマリーを心配して言ったのだが、マリーは再びジェットコースターを指さして、
「あれがいいわ」
と言った。
マリーの指先にはさっきより遙かに高く聳え立っているジェットコースターがあった。
「さっきのより怖いぞ」
「大丈夫。四朗が一緒だもの」
本気で言ってるのか? どうなっても知らんぞ。
『ブーブーブーブーブーブー』
BADボタンが鳴り止まない。
今度のジェットコースターは本気で洒落にならなかった。当然マリーは俺にしがみついている。今回は腕ではなく俺の体に思いっきり抱きついているのだ。近くを通っていく人達は俺たちを見て何やら話しながら笑っている。中には口笛を吹いていく人さえいる状況だ。はっきり言って穴があったら入りたい。
「四朗、絶対に離れないでね。でないと私私・・・・」
なかなかに可愛い。じゃなかった何とかせねば。俺は先ほどのベンチに座ることを提案した。
「プルルルル」
ん? 芽依から電話だ。
「お兄ちゃん! マリーさんに騙されちゃダメだよ」
「どういうことだ?」
「マリーさん、ジョットコースター大好きだって言ってたもん」
マリーが横目でちらっと俺を見ている。
「マリーどういうことだ?」
「えへへ」
マリーは舌をちょこんと出して俺の胸に顔を埋めるのだった。




