第2話 マリーとその一家
落ち着いた俺は改めてマリーを問いただした。
「マリー、俺が殺されてもいいのか!?」
「だって、小百合を退けるチャンスだと思ったんだもん」
マリーは柄にもなくもじもじしながら言った。
「俺が死んだら恋愛もできないだろうが!」
この言葉からも分かるように、マリーは俺に好意を持っているらしい。ただ超ツンデレ的要素を持つ性格が俺を悩ませているのだが。
「四朗だけ魔術で生き返らせればいいかなって・・・・」
そう、マリーは黒魔術が使えるのだ。かなり未熟な腕ではあるが。
「本当に生き返らせられるのか?」
思いっきり疑いの眼差しでマリーを見る。
「私の腕を信じてないの?」
「そういうわけじゃないけど・・・・」
本当は思いっきり信じてない。
「ふん、私にかかれば3%の確立で生き返らせることが出来るんだからね」
消費税の三分の一以下だぞ!
「確率低すぎだろ!」
こいつ成績はかなりいいらしいが、時々馬鹿なんじゃないかと思うときがある。
芽依に続いて母親と父親も現れた。小学校ならまだしも高校の入学式に一家総出で来るなんてどうかしている。
「四郎、いい入学式だったわね。あなたも小百合さんくらい頭が良かったら新入生代表で挨拶できたのにね」
そんなの無理に決まっている。新入生代表の挨拶は入試で一番成績の良かった者がすると決まっているのだ。どう転んでも俺になるはずがない。
それにしても解せぬのは中学校で一番成績の良かった小百合がこんな低レベルな学校を選んだことだ。この地区の超進学校から『特待生で来てほしい』との誘いもあったようだが、それを蹴ってここにいるのである。本人曰く『レベルの低い高校で常に一番を取っていたら推薦で大学に行けるのよ』だそうだ。詳しいことは分からないが小百合なら進学校に行っても一番を取れるような気がする。でもまあ予想は付く。マリーがこの学校に行くと言い出したのが原因だろう。だとしても自分の人生を曲げてまで決心することではなかろう。それだけ愛されているのかと思うと少し照れくさい気もするが。
「キュピ」
え? この鳴き声は? 俺は慌てて辺りを見回した。嫌な予感しかしねえ。すると、母親の鞄から黒いしっぽアクセサリーが顔を出しているのが見えた。
「3号!」
「ああ、これ? 知らない間に鞄に入ってたのよ」
このしっぽアクセサリーはマリーの父親である。『しっぽが父親?』と思うだろう。だがこれは紛れもなく事実だ。異世界人はこちらの世界に滞在するときはしっぽアクセサリーの姿でいなければいけないというとんでもない規則があるらしい。かつてはマリーもしっぽアクセサリーの姿であったが、ある功績によって人間の姿でいることを許可されたのだ。現在、俺の部屋にはマリーの母親である2号と父親である3号の2匹が居候している。因みにマリーは妹の芽依の部屋で寝ている。
「キュピキュピ」
「しかもこのしっぽ鳴くのよね」
俺の母親が鈍感でなかったら、今頃大騒ぎになってたぞ。3号、もう少し考えて行動しろ! 俺は頭を抱えて自分の母親の常識の無さに感謝した。
3号は鞄から身を乗り出すと小百合めがけて飛びつこうとした。当然のように俺はこれをたたき落とす。
「キュピ~」
こいつはかなりの女好きだ。若い女を見ると例外なく飛びついていく。
「帰ったら2号に言うからな」
そっと3号に呟くと、
「キュピーキュピー」
と涙目で訴えてきた。何度も浮気を繰り返している3号にとって、これは結構な致命傷になる。2号の魔力は桁違いに高いからだ。何でもマリーの世界は魔力の強さが全てであり、一般的には男性より女性の方が魔力が上らしい。つまり物理攻撃はあまり通用しないと言うことだ。まあ、我が家でも父親より母親の方が権力を持っているのだから同じようなものだが。
「せっかくだからスターパックスでコーヒーでも飲んでかない?」
母親が突然提案してきた。特に驚きは無い。いつものことなのだ。
「小百合さんも一緒にどう?」
「ありがとうございます」
「何でこいつまで・・・・」
マリーが小さな声で呟いている。
「え~! 芽依はボクドナルドの方がいいよ」
「四朗はどこがいい?」
一応聞いて貰えた。
「俺はどこでもいいけど、どちらかというとボクドナルドかな?」
「小百合さんは?」
「私はどこでもいいです」
まさしく姑候補に対する受け答えだ。思いっきりいい人っぽさをアピールしてきている。
「マリーさんは?」
「私は納豆一番の納豆どんぶりがいいわ」
どういうチョイスをしてるんだ? てかこいつ本当に異世界人か?
「わしはできればロイヤルポストが・・・・」
父親のささやきを無視するかのように母親が大きな声で言った。
「みんな意見が分かれたからスターパックスに行くわよ!」
あれ? ボクドナルドが2票じゃなかったか?
こうして俺たちはマイペースな母親に連れられてスターパックスへと向かうのであった。