第19話 同盟
俺の部屋は暗闇に包まれている。今は午後2時。いくら俺の部屋のカーテンが分厚かったとしても、こうは暗くならないだろう。
「じゃあ、始めるわよ」
マリーが神妙な声で言うと、いきなり部屋の中央に設置されている薪に火を点けた。
「おい! 火事になったらどうするんだ?」
「その時はその時よ」
何だこの理論は!
そして、黒いワンピースに身を包んだ小百合と芽依が静かに目を閉じる。マリーが巻物のような紙を広げ、書かれている文言を読み上げる。
「敵、日向陽葵を倒すべくここに同盟を結ぶことを誓う。発起人ピピプル・クレタ・ビチャ・ウン○」
マリーが小百合と芽依の方を向く。
「同意者、林郷小百合」
「同じく同意者、葛城芽依」
何してるんだこいつら?
「これで裏切りっこなしよ」
「分かったわ」
「芽依も分かったよ」
俺はあまりの厳粛な雰囲気に飲まれて何も言い出せない。
「四朗、頭を出して」
「え?」
パチ!
「痛い! 何したんだ?」
「あなたの頭にセンサーを付けたの」
「何だ?」
「これから先、あなたの頭上には透明な見えない雲が常駐するわ」
「どういうことだ?」
「もし、私達の中から裏切り者が出たら、その雲は爆発する仕組みになってるの」
「はー! そんなのおかしいだろ!?」
俺は渾身の声で叫んだ。
「私達にとって自分が爆発するより四朗が爆発する方が効果があるのよ」
「そんなこと知るか! てか、せめて同意を求めろよ! 何も聞かされてないぞ?」
「もう取り付けちゃったから手遅れね」
俺は頭の上を手探りで確かめる。
「あ~下手に触ると誤作動で爆発しちゃうかもよ」
俺は慌てて手を引っ込めた。
「爆発の威力は水爆級よ。頭突きとか絶対にしないでね」
マリーがにっこりと笑う。
「四朗君。水爆の威力って知ってる?」
小百合が深刻そうな顔で言う。
「知らない」
「日本に落とされた原爆の1500倍だって」
ええええええーーーーーーーー!!!!!!
「もし爆発したら・・・・わかるわね?」
「俺は歩くはた迷惑か!」
3人は俺を見てニヤリとしている。当初の目的をいきなり忘れてはいないだろうな?
「ねえ、お兄ちゃん」
「どうした芽依?」
「『芽依、愛してる』って言ってみて~」
「は?」
「早く~」
「そんなこと言えるわけないだろう! お前は妹だぞ」
「芽依、裏切っちゃおうかなあ?」
「おい、冗談はよせ!」
「どうする?」
「・・・・・・・・・・・・・・芽依、愛してる・・・・・・」
「やったー! 一度聞きたかったんだよー」
何なんだこれは。俺は言わされたんだからな。芽依のことを好きってことじゃないからな! 一生懸命、自分に言い聞かせた。するとその時、ピピと言う音がした。
「芽依。ダメよ!」
「どうしたの?」
「今の行為は裏切りと見なされる可能性があるわ」
「嘘!」
ピピ、ピピ、ピピ。何だこの音は? まさか爆発しないよな?
「マリー、この音何とかしてくれ」
「私もこの装置使うの初めてなのよね」
「おい、冗談言うなよ!」
ピピ。ピピ。ピ・・・・・・。音が止まった。助かったのか?
「これでセンサーが正常に作動することが分かったわ。裏切りなしよ」
「わかったわ」
小百合と芽依が同時に返事をした。
これから毎日地獄だぞ。どう生きていけばいいんだ?
「それから言い忘れてたけど、四朗が陽葵といちゃついても爆発するから」
「ええーーー!」
「何? いちゃつくつもりなの?」
「そんなつもりはないが日向さんがいちゃつこうとしてくる可能性もあるだろう?」
「勿論、その時も爆発するわ」
おい! どうしろって言うんだ? 俺もう詰んでないか?
そして次の日。
「四朗。おっはよう」
陽葵の奴いつにも増して陽気だな? お願いだから抱きついたりするなよ。
案の定、陽葵が俺の腕に抱きつこうとしたので、俺は大げさに避けた。
「何のつもり?」
「日本国民のためだ」
「何わけの分からないこと言ってるの?」
陽葵のウキウキはこれくらいでは止まらない。
「今日、私のアパートに来ない?」
「行かない」
「四朗の好きなメイプルクッキーがあるのよ」
「本当か!」
ピピ!
「わりー今日は無理」
「え~」
ピピ、ピピ。
「本当に無理なんだってー!」
ピピ、ピピ、ピ・・・・。
「何叫んでるのよ?」
「何でもない。気にするな。日本国民を守っただけだ」
「ん? どゆこと?」
この調子で何とか午前中を乗り切った。疲れる。だが、今日は午後から学活があるだけだ。俺はまだ部活に入ってないから放課後になったら早々に帰るとしよう。
「今日は文化祭実行委員を決めたいと思います」
陽葵が張り切って司会をしている。え? 今、文化祭実行委員って言ったか?
「文化祭って11月では?」
俺は思わず発言していた。嫌な予感がするのだ。
「今から動いた方がいいと思うのよ」
「しかし、まだ5月になったばかりだし・・・・」
「わかったわ。まだ早いと思う人は起立して」
数名が立った。
「ちょっと名前をメモするからそのまま立っててね」
立っていた数名が一斉に座る。陽葵ってそんなに怖いのか?
「では立候補したい人」
小百合とマリーがさっと手を挙げた。
「ふうん。そう来るか」
陽葵は少し頷き腕組みをする。どう切り返すつもりなんだ? 俺は少し興味を持ってこの状況を見守るのであった。