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第18話 春の校外学習

 今日はいよいよ校外学習の日だ。俺達は朝早くからバスに乗り込んでいる。

「楽しみねえ」

陽葵がにっこり笑って話しかけてくる。

「何で当然のようにお前が横に座ってるんだ?」

「そんなの先生に聞いてよ」

確かにそうか。席を決めたのは先生だからな。


「私バスに酔いやすいから気持ち悪くなったら遠慮なく吐くね」

「ちょっと待て!」

「冗談よ」

本当につかみ所のない奴だ。こんな冗談面白いか? それにしても後ろから痛い視線を感じる。勿論二つ。まさか俺がこのバス席を組んだと思ってないだろうな?


「私、最近とても楽しいの」

「見れば分かる」

「やっぱりお母さんに四朗のこと言ったからかな?」

何ウキウキ顔で言ってるんだ? それにしても本当にすっきりとした顔だな。でも、こうやって見ると陽葵も可愛い顔立ちをしている。

「そんなに見つめないでよ。何か恥ずかしい」

陽葵もこっちを見つめてきた。


 ゾク! 何か悪寒が走ったような。

「四朗君~」

後ろの席から小百合の声がする。

「おい、勝手に席を替わっちゃダメだろ」

「よく切れそうな日本刀を見せたら快く替わってくれたわ」

「それ、はっきり犯罪だからな!」

「安心して。私も居るわよ」

「げ! マリーまで」

これは地獄の校外学習になりそうだ。言動には細心の考慮が必要だな。


「あなた達、ルール違反は行けないわ。先生、この人立ち席を移動いてま~す」

陽葵の先制攻撃。

「先生、私達バスに酔いやすいので前の方の席がいいんです」

小百合の防御。

「そうか。だったらいいぞ」

小百合の勝利。


「ふん、勝手にしなさい」

陽葵は悔しそうに前を向いた。

「この人達は無視して楽しく行きましょう。たくさんバスに乗らないと行けないもんね」

「あのな。俺の立場も考えてくれ」

「身の危険を感じて家に帰れなくなったら私のアパートに来てくれるよね?」

「おい! 姑息な手段を使うなよ」

後ろの方から『陽葵のアパートに』という小さな声が聞こえてきた。お願いだから勘弁してくれ。


 地獄のバスツアーからようやく解放された俺はパテシエの里という建物に入った。ここでケーキ作りをするのか。中は甘い香りに満ちたとても綺麗な空間になっている。

「それでは班に分かれて。まず1班はこちらの席、続いて2班は」

え~っと、おれは5班か。同じ班は桜井と俺とマリーと陽葵・・・・・・。

「おい! この班仕組んだろ!」

「知らないわ」

陽葵がとぼけた顔で答える。これって偶然とは言えない組み合わせだろう。


「四朗。私のケーキ食べてね」

マリーがニコニコ顔で言ってくる。どこからこの自信が湧いてくるんだ?

「桂木さん。私のケーキとあなたのケーキ、どちらが美味しいか四朗に判定して貰いましょう」

「ちょっと、四朗って言わなかった?」

「言ったわよ。そう呼ぶことにしたの」

「何、勝手に決めてるのよ!」

「私たち親公認のお付き合いをすることになったのよ。それを機に『四朗』って呼ぶことにしたわ。何か文句でも?」

遠くの席で日本刀を抜く音が聞こえたような。

「あるわよ! 四朗は私の許嫁よ!」

「そんなのあなたが勝手に言ってるだけじゃない」

「何ですってー!」

「そこ! 静かに!」

先生に怒られた。日本刀持ち込んで抜刀するよりは罪が軽い気もするが。


 有名なパテシエの説明も終わり、俺たちがケーキを作る番だ。

「碌な調味料がないわね」

マリーが文句を言っている。かなりの物が揃っているように思うが。

「こんなこともあろうかと持参して正解だわ」

マリーが赤い粉の入ったビニール袋を鞄から取り出した。

「それって唐辛子じゃないよな?」

不安を抑えきれずに聞く。この後マリーの作ったケーキを食べるのは俺だからな。

「まさか唐辛子をケーキに入れようってんじゃないよな?」

「そのつもりよ」

「止めろ! 絶対に止めてくれ」

「どうしてよ?」

「ケーキはスイーツなんだ。甘い食べ物なんだ。それに唐辛子を入れてどうする?」

「そんな態度だから日本人は革新的じゃないのよ。それは無理ということをやらずに無理だと思い込んでしまうからダメなの。まあ時には犠牲も生じるけどそれは仕方のないことね」

その犠牲ってのが俺のことか? 

「とにかく入れるなよ」

「わかったわよ」


 そしてできがりタイム。俺はトイレに逃げようとしたが当然のように止められた。

「いよいよ勝負ね。桂木さん」

「望むところよ。四朗のハートは私に釘付けね」

2人は睨み合いながらケーキを俺に差し出す。

「勝者日向さん」

「どうして食べる前に勝者が決まるのよ!」

マリーの方声が響き渡る。


 仕方ない食べるとするか。この施設には医務室もあるそうだし。では陽葵の方から一口。

「旨い! お前パテシエとして生きていけるんじゃねえか?」

「ありがとう」

陽葵は満面のどや顔でマリーの方を向く。


「私のも食べなさいよ」

まずは形を確認する。異常はないようだ。次に匂い。ん? やや怪しいような。俺は仕方なくケーキにスプーンを入れる。パク。

「うおーーー! ケーキに唐辛子を入れたな!」

「少しだけよ」

「いや少しじゃねえ!」

俺は口から火を噴きながら慌てて水を飲む。


「で? どっちの勝ち?」

マリーが自信ありそうに聞いてくる。

「本当に聞きたいか? 本当に結果を聞きたいのか!?」

「当然じゃない」

「勝者は日向さんだ!」

「どうしてよ~?」

マリーが小さな声で呟いている。この態度、俺には信じられないのだが。


 帰りのバスも陽葵が横にいた。本当にくじ運がいいというか。もしかして陽葵は凄い幸運の持ち主かなのか?

「先生、バスの席って先生が決めたんですよね?」

「いや、日向に決めて貰ったぞ」

「陽葵ー!」

「あらやだ。私の名前を呼び捨てで呼んでくれるの? 嬉しい!」

こうして新たな殺気を感じながら俺は帰路に就くのであった。

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