一日目の夜2
ありがとうございます。
加瀬先生と再度、北側へ向かう。
さっきよりも暗くなっている。空気は冷え、もう春のはずなのにとても寒い。
さっき二人と合流したところよりも北側へ向かうと、どんどんと空気が澄んでくる。気のせいかなと思ってもみたが、加瀬先生の緊張した表情をみるとあながち気のせいではなさそうだ。
「なんか、空気は澄んできましたね。」
「そうですね。さっきより静かになってきたような気がしますね。」
空気を和らげようと話しかけてみたが、あまりうまくいかなかった。気の利いたことの言える人になりたいなと小さく思った。
細くなった道を北へとまっすぐ進んだ。どれだけ進んだだろうか。行き止まりとなった。これ以上前へ進まないようにロープが張ってある。
「僕、こんな奥まで来たのは初めてです。」
加瀬先生がごくりと唾を飲み込んだのが分かった。通常であればここまで来ることはないのだ。
「このロープが超えてはいけない場所なんですよね。」
「はい。そう聞いてます。」
遠く離れた向こうには一本の木がある。薄くピンクに光っているので桜の花かと思っていたが違うようだ。キラキラと粒子が舞い、花はピンクだが、幹は薄い緑や青、白を混ぜたような不思議な色で光っている。アン先生が魔法を使った時の色にも似ているようだ。
初めてみるこの世ではお目にかかれないような景色に心奪われ、ここに来た目的など忘れてしまいそうになったころ、声が聞こえた。
「ランス!」
「-----------!!」
ランスくんを見つけることができたようだ。だが、ランスくんは何か言って抵抗している。
「ぎりぎり間に合ったみたいですね。」
「え?」
「ランスくん。ここから転移するには多分簡単じゃないんだと思いますよ。」
「そうですよね。簡単に転移できるなら、もう帰ってしまってますもんね。」
「きっとそうでしょうね。」
「加瀬先生、水川先生、エリックとレオには会えた?」
アン先生が、ランスくんをアレックス先生に任せてこちらへ来た。
「はい。二人を宿舎まで送り届けて、こちらへ来ました。アレックス先生のお手伝いをしたいですが、僕はここから出ないほうがいいんですよね。」
「そうね。一瞬で時代も場所も違うとこに行きたくなかったらやめておいたほうがいいわ。」
「行きません!」
「ふふふ。私たちがいるから、迎えにはいけるわよ。」
「またの機会でお願いします。」
異性の生徒にはあまり触らないほうがいいという教員間の暗黙の了解のもと、加瀬先生が申し出たが、恐ろしい返事が返ってきた。
それにしても気を抜くと、あの木をみてしまう。恐ろしく美しい木だ。
「あら、水川先生あの木が気になる?加瀬君も見るのは初めてよね。」
ひとしきり加瀬先生をいじったあとだからか、加瀬先生の呼び方が加瀬君になっている。
「はい。見たことのないほど美しくて、ずっと見ていたいけれど見ていると怖いような。」
「ふふ。きっと水川さんは一瞬でアヴァロンへ転移できるわ。」
「え?この木がアヴァロンへの入り口なの。世界中の色々な場所に転移の入り口があるのよ。さっきどこに行くかわからないって言ってたのは、日本に昔からあるものよ。そこにほかの世界からも転移の入り口をつないでしまったのがこの森よ。」
「そうなんですね。」
うっかり踏み出してしまわなくてよかった。恐ろしい。
「水川さんみたいに、一本の木が気になって目が離せないってなってる人は、その木が連れていく場所へ行きやすくなっているのよ。ランスの場合は、帰ってくるなと向こうから言われているから、木の前で立ち往生してて、それでもどこかに入り口があるはずだと探していたのよね。入れない時点で諦めればいいのに。」
「あの・・・飛行機で来たと聞いたのですが・・・」
「この森のような場所がウェールズにもあってね、パスポートの関係上、UK以外の国に行くときはウェールズで手続して、ロンドンから飛行機に乗ったりするのよ。」
「そ、そうなんですね。」
現代的・・・ファンタジー感が・・・
そうこうしているうちにランスくんも観念したのか、アレックス先生に連れられてこっちへきた。
帰れなかったことがよほど不満なのかむくれているのがよくわかる顔だ。
「ランス、諦めなさい。こっちでいろいろ経験積むって約束したでしょ?」
「約束・・・させられたんだよ!」
「でもしたなら諦めなさい。夏休みには帰れるわ。」
「はい。」
それでも納得しかねない顔でのランスくんと共に私たちは宿舎へ戻った。
読んでくださってありがとうございます。