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望みを願うだけでは叶わないけれど

4章スタートです。

また週3回投稿を目標にがんばります。


誤字報告ありがとうございます!

 グリフィス侯爵家のアントニア、トニー夫妻が領地へ戻ったのはもう半年も前のこと。

現当主の侯爵夫妻も時折領地へ戻ることがあるようで、最低限度の社交の場でしかグリフィス家の人間の姿を見ることがなくなった。

以前なら次期当主となるトニーの姿がよく見られたけれど。


「アーヴィン様、今日はアントニア様にお会いできるでしょうか?」

「そうだね。さすがに今日は全ての貴族が集まるはずだからね」

「会えると嬉しいです。アントニア様のおかげでアーヴィン様の隣に立てるようになったのですもの。お礼を伝えたいのです」

「そう。…でも、多くの人が集まるから探し出すのは大変だろう。でも…会えれば嬉しいね」

「ええ!」


 今、王城へと多くの貴族たちが続々と集まってきているところだろうか。馬車の中でアーヴィン・エクルストンとその婚約者のステファニー・メイプルが向かい合って座っていた。

婚約をしてから一年が過ぎたばかりの二人は、初々しさを見せながらも仲睦まじい様子だ。

 婚約が発表された当初は「身分違いの恋」などと揶揄されることの多かった二人。

その二人が婚約する前にアントニアがステファニーに助力したという話がステファニー自身から語られ、またステファニーがアーヴィンの元婚約者であるアントニアに対し親しみを感じ、常に感謝していることを隠さず話していたことで、彼女の為人が知られるようになっていったl

 また、物語のような恋愛を夢見る少女達から注目の的とされるようになり、この世界のシンデレラストーリーのように受け止められていた。

まだまだ二人を揶揄する人間はいるが、婚約したばかりの頃よりは悪い捉え方をする者は多くはないようだ。


(今回もあの二人は参加しないのだろうな。グリフィス侯爵夫妻はきっと参加されるのだろうけど)


 アーヴィンはかつての婚約者とその夫となった二人のことを頭の片隅に置いている。もう元婚約者に未練はない。けれど、会えば心が動く瞬間があるのではないか、という不安は拭えない。だから、まだ暫くは会いたくないと思ってしまっている。

大切なのはステファニーだから。

 一度だけ二人を偶然見かけて、アーヴィンが声を掛けたことがある。あの時はステファニーとのこともちゃんと考えていて、迷いもなく彼女がいいと思えるようになっていた頃だった。

ただ、やっぱり顔を見てしまえば、遠くに追いやってしまったはずのアントニアへの想いが疼いたことに少しだけ動揺はしたらしい。けれど現実はとても残酷で、アントニアはもう他の男のものになっていた。

華奢で細く折れそうな体だった彼女が、少しふっくらとしていたことも驚いたが、丸みのある腹部はそうだと知らなければ案外気付けない程だったが、そのことにも驚いたアーヴィンだった。

 今もまだあの日のように、アントニアへの気持ちが膨れ上がるのではないか、と少しだけ不安がある。だからこそ、婚約者を不安にさせたくないから、アントニアとも顔を合わせたくないと考えてしまうアーヴィンがいた。


(きっとこんなことを考えていても、ただの杞憂に終わるのだろう)


自身がもっと揺らぐことなく、婚約者だけと早く言えるようになりたいと願いながら、ただそう言葉にならない声でアーヴィンは呟いた。


 §


 王城には多くの馬車が並び、馬車から降りた人々が吸い込まれるように入城していく。

そんな人の流れをまだ馬車の中から見ていたアーヴィンだったが、やがて馬車が停まり、扉が開けられる。先に馬車から降り、ステファニーへと手を差し出す。その手を取る婚約者は嫋やかに微笑んでいる。

きっと大丈夫、そう自身に言い聞かせながらアーヴィンもステファニーへと微笑みかける。


 王家主催の夜会は、一年に二度ある。一度目は春の終わりのこの国の建国を祝う建国祭の時期に行われる夜会、二度目は冬の始まりの一年を無事終えられることを神に感謝する感謝祭の時期に行われる夜会。

他にも王家主催の夜会はあるが、年に二度行われる夜会は全ての貴族の参加が義務付けられている。但し、貴族家の中で一人でも参加出来ていればよし、となっているため一家揃って参加出来るほどの余裕がない貧しい貴族は、当主のみ、または次期当主のみ、という形で参加していることもある。

 そんな全ての貴族が参加することが義務とされている夜会のため、多くの貴族達が集っているわけだが、グリフィス侯爵家は、当主と夫人の二人だけの参加だろうとアーヴィンは予想している。

グリフィス次期当主と当主の娘夫妻は、娘の、つまりアントニアの療養のため領地で療養しているということなので、二人が今回も参加しないだろうとアーヴィンが考えている理由だった。


 アーヴィンとステファニーが夜会の会場である大広間へ向かう。それまでいた貴族達はもう大広間に入っているようだ。アーヴィン達も遅くならないように入る。

エクルストン公爵夫妻がまだいないようだった。他にも公爵家があるため、二人は遅くはなっていない。そこに安堵したのはステファニーだっただろう。男爵令嬢という立場は変わらない。けれど、公爵家嫡男の婚約者として誰にも笑われないように必死にマナーを学んでいる。まだまだ付け焼き刃だと本人は思っている。が、それでもアーヴィンに相応しくあるよう努力を惜しまず、相当な無理を続けている。

アーヴィンもステファニーの努力を知っている。だから、彼女を守る為に彼自身も努力を重ねている。

アントニアを失った日からずっと。もう二度と間違わないように、失わなくていいように。


「王家の方々が入場されるまで、時間があるからそれまで父上達を待っていよう」

「はい」


 中央に吊り下げられた煌びやかに宝石のような光を纏ったカットガラスのシャンデリアは、その柔らかな灯りを大広間全体に降り注いでいる。その脇にはそれよりも小振りのシャンデリアが並び、同様に灯りから降り注ぐそれが大広間の奥まで見通せるようにしている。

そんな灯りの下、二人は王家の人々に真っ先に挨拶に立つために、一段高くなっている前方の玉座へと近付いていく。

 アーヴィンにエスコートされたステファニーは、アーヴィンの色に染まっていた。淡い青地のプリンセスラインのドレスは彼女によく似合っていた。スカートの裾に施された金糸の刺繍はスカート全体に薔薇を咲かせていた。またハイネックにすることで肌の露出を避けてはいるものの、白いシフォンの生地を首元から胸元までの切り替えで使い、決して重く見えないようにしている。袖をなくした意匠も彼女の華やかさも演出してみせている。

 そんなステファニーの隣に立つアーヴィンもステファニーの瞳の色を纏っている。黒地のフロックコートに襟元と袖口にステファニーの髪と同じ鮮やかなピンクを差し色にしながらアメジスト色の糸でステファニーのドレスと同じ薔薇が咲いている。また白いドレスシャツに巻かれた藍のクラバットにはアメジストのタイブローチがさり気なく飾られ、アーヴィンがステファニーだけを心に留めていると示していた。

 王家の王子達よりも王子らしい容姿を持つアーヴィンは、ステファニーの誰もが見惚れる美しさと共に注目を浴びているのだった。


 暫くしてエクルストン公爵夫妻と合流した二人は、国王陛下と妃殿下の入場を知らせる声を聞いた後、王族だけが利用できる扉へと視線を移す。扉が開かれ、国王と王妃が、次いで王太子と王太子妃、第二王子が大広間へゆったりとした足取りで入ってくる。国王が玉座へと進み、言葉を紡いだ。

 建国祭の最中、集まった貴族達への労いと感謝、これまでの一年の貴族それぞれの成果、貢献、それらに対しての労い、概ねそのようなことを国王が述べて夜会は始まった。

 そして、上位貴族から国王と王妃への挨拶が始まり、アーヴィンとステファニーもエクルストン公爵夫妻と共に挨拶の列に並んだ。


 §


 ステファニーにとっては家族と一緒に挨拶をするのとは別の緊張を強いられる時間だったはずだが、日頃の努力の成果を示す機会となったようだ。男爵家の令嬢が公爵家の嫡男と婚約をしたのだから、否応なく注目もされるし、些細な失敗ですら悪し様に言われる切っ掛けとなる。今回の夜会では、そういった悪意を無事かわすことことがステファニーにとっての課題のようだ。


「陛下と妃殿下にご挨拶させていただくのは、やっぱり緊張してしまいます。でも、頑張りました」

「そうだね、ステファニー頑張ってたよ」

「ふふ、妃殿下にお声も掛けて頂きましたし、緊張はあってもとても嬉しかったです」

「妃殿下は滅多に御声掛けをなされないから、ステファニーを気に入ったのかもしれないね」

「それは…ないと思います。きっと男爵家の娘だから公爵家に嫁ぐための努力が足りないと思われたのだと…」

「そうかな。そんな感じは受けなかったけど」


 挨拶の際に公爵と夫人が国王と王妃と話をしていた。取り立てて個人的な話はしていない。が、アーヴィンの婚約者については、どうしても触れる話題ということになるらしく、アントニアとのことは誰も触れなかったが、ステファニーについては避けようもない。

 そのさい、王妃がステファニーに対し公爵夫人となるための努力を惜しまずにしていることを、令嬢としての美徳の一つとして褒めた、そんな会話だったのだが、ステファニー自身は全くその努力が足りていないと思っているらしく、王妃の言葉を「もっと学びなさい。でなければ、公爵夫人には到底なれない」という意味に変換してしまったようだ。


「妃殿下の言葉を素直に受け取ってもいいんじゃないかな」

「…そうですね。でも、私が不足しているものが多いのは事実ですわ。ですから、努力なさいと励ましてくださったのだと思います」


 二人は少し困ったように微笑み合ったものの、ステファニー自身が負担に思ったわけではなかったのだと、言葉にしていた。


「私、がんばりたいって…改めて思いました。アーヴィン様の隣にいるのが当たり前と皆から思われたいです。だから、妃殿下の言葉は私にとって心の支えの一つになりました」

「そう、それは良かったね」


 仲睦まじく寄り添う二人の様子は、多くの貴族達の目に留まることになるのだが、当然のようにステファニーに悪意を向ける一部の令嬢達は存在している。

この世界がループしていると気付く前のアントニアがいてもいなくても、状況は同じなのかもしれない。

お読みいただきありがとうございます。


いきなり王都からスタートです。でもってアーヴィン達が動いてます。…3章の終わりでアーヴィン達のことすっかり忘れてた作者ですヾ(- -;)

時々本気でアントニアとトニーだけ書いていられたら楽なのに、と思ってます。それはダメでしょ!と一人突っ込みしながら、4章を書き始めたのを思い出しました。

次回の投稿は、水曜日の予定です。


関係ないですが、トニー視点の3話分のあれは、この作品が完結出来たらひっそり投稿しようか迷ってたものでした。

でも、投稿しない間も覗きにきてくださってる方がいらっしゃるんだな、と気が付いてからちょっと考えて、幕間として持ってきました。

覗いてくださってた方々、ありがとうございます<(_ _)>


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